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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年3月号

朝鮮総聯に聞く

朝鮮敵視政策をやめ 朝日国交正常化を

在日朝鮮人総聯合会中央本部国際統一局局長  韓正治


 米国の対朝鮮敵視政策のもと、小泉政権も民族排外主義を煽り、経済制裁を可能とする改正外為法を成立させている。こうした敵視政策に反対し、アジアの共生という日本の長期的な国益のため日朝国交正常化を実現しなければならない。朝鮮総聯国際統一局の韓正治局長に経済制裁問題などについて聞いた。(文責編集部)

――在日朝鮮人の人たちが日本に住むにいたる経緯や朝鮮総聯の活動をお聞かせください。

 在日朝鮮人が日本に住むようになった経緯は、一言でいって、日本の朝鮮植民地支配がもたらした結果です。その多くは強制連行や徴用・徴兵です。あるいは植民地支配の結果、自分の故郷ですら生活できなくなって日本に渡ってきた人たちです。大蔵省管理局は一九三九年から一九四五年の間に七十二万四千人になるとしていますが、植民地統治の全期間を通して、その数は数百万人といわれています。日本に連れてこられた九〇数%までは、朝鮮半島の南の出身です。
 植民地支配のくびきから解き放たれたのが一九四五年八月十五日です。強制連行された朝鮮人は、それを機に解放された祖国に戻ろうとしましたが、多くの障害が生じました。一九四五年八月二十四日には北海道と青森の軍事基地建設に動員された朝鮮人強制連行者数千人を乗せた船を舞鶴沖で爆沈させた浮島丸事件などもありました。その上、祖国である朝鮮半島が二つに分断されたこともあり、ますます日本に留まらざるを得なかった。それら一世の子孫が日本に住んでいるわけです。いまは一世の方は少なくなり、二世、三世、四世さらに五世も出てきている状況です。現在、特別永住資格のある在日朝鮮人は、約五十万人くらいです。
 在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)は、一九五五年五月二十五日に発足しました。それ以前にも朝鮮総聯の前身ともいうべき組織があり、解放直後から自分たちの生活や権利を守るために活動してきました。朝鮮総聯は、自分の母国のため、在日朝鮮人の権利擁護のため、さらに祖国の統一のために運動するという主体的な路線を打ち出しました。一言でいえば、朝鮮民主主義人民共和国の海外公民団体ということです。
 活動の中心は在日朝鮮人の民族性を堅持するために全国津々浦々に朝鮮学校を建てて、在日朝鮮人子弟に民族教育を行ってきました。
 今年五月末に朝鮮総聯の三年に一度の定期大会があります。新しい運動方針を打ち出そうと準備しています。例えば、一世や二世は祖国が統一されれば祖国に帰るという志向が強かったのですが、三世、四世は日本で生まれ育ち、日本に生活圏があり定住志向が強い。そういう同胞の志向を反映した運動に転換していこうとしています。同時に、世代が進むに従い、民族性が希薄になるため朝鮮語、歴史や文化を体得することを大事にしたい。また、在日朝鮮人の生活と権利を守る運動をより強化していきたいと考えています。

――異常な反朝鮮キャンペーン、民族差別が続いていますが、どのように受け止められていますか。

 一昨年九月の朝日首脳会談以降、とくに拉致問題がありまして、異常な反朝鮮人騒動が高まり、在日朝鮮人に対する脅迫、暴行、銃撃事件、爆破物事件など許されてはならないテロ行為が頻発しています。またチマチョゴリを着た朝鮮人女子学生に対する暴言、暴行事件が会談後の約一年間で三百五十件くらい起こっています。
 もっと根の深いものは差別が制度化されていることです。日本政府、直接には文部科学省の朝鮮人学校の卒業生に対する大学受験資格の問題です。文科省が昨年春に出した案は、「欧米系のインターナショナルスクールには認め、朝鮮学校を含めたアジア系の民族学校には認めない」というものです。実際は、朝鮮学校卒業生がめざす私立大学のほとんどが、すでに入学資格を認めています。国立大学の中でも独自に認めるという動きが大勢を占めているにもかかわらず、文科省は「アジア系」という枠をつくって認めない。新しい差別であり、差別の制度化です。世論の批判によって昨春の方針は変更されましたが、「朝鮮学校生にも受験資格を認めるが、学校としてではなく個々の申請を受けて審査する」という条件をつけました。差別はなくなっていません。
 もう一つ、外国人学校への寄付に対する優遇税制の問題でも、朝鮮学校を排除しているが全く不当です。
 文科省が新たな差別に向かったのは一昨年九月十七日以降の反共和国、反朝鮮騒動の一環です。「北朝鮮を利するようなことはしてはならない」という判断です。これまでの差別と違う、より政治的意図をもった差別が露骨になっており、非常に憂慮しています。

――そういう中で、先日の国会で成立した改正外国為替法・外国貿易法をどうお考えですか。

 成立した「改正外為法・外国貿易法」のほかに、「特定船舶入港禁止法案」が準備されています。いずれの国の船舶であっても、朝鮮の港に寄港した船舶が日本に入港することを禁止する法案です。さらに「永住外国人の再入国不許可法案」。これがいわゆる「対北朝鮮制裁の三点セット」と呼ばれています。特定船舶入港禁止法案は、三月に国会に上程され、今国会で成立するとの報道です。
 特定の国に対する経済制裁は時代に逆行するものです。そもそも外為法は、国連決議として、或いは国際的条約に基づいて制裁するとしていたものを日本独自の判断で行えるようにしたものです。朝鮮半島の核問題をはじめとした諸問題を、「対話と協調」で解決して朝日の国交正常化をめざすという平壌宣言にも反するものです。「圧力」による外交では「対話と協調」は進みません。二月十二〜十四日に外務省が平壌を訪問しましたが、その数日前に改正外為法が成立しました。懐に刀をしのばせて会談に臨めば、話し合いがスムーズにいくとは思えません。
 こうした経済制裁は、対象国の人々の暮らしや権利を奪う非常に非人道的な行為です。例えば、日本にいるわれわれが、共和国にいる家族や親戚に送るわずかなお金も規制されかねません。朝鮮学校の学生のために送ってくる共和国からの教育援助費も規制されます。特定船舶入港禁止法案では、その主な対象が新潟港に入港する万景峰92号だと報道されています。万景峰号は在日朝鮮人が祖国往来のために利用する船です。年老いた在日朝鮮人が祖国にいる家族に会うために、また朝鮮学校に通う学生が修学旅行のために利用しています。そういう人道上の船の入港禁止は、非人道的なことです。
イラク攻撃における米国の情報操作が問題となっていますが、同じ手法によって経済制裁の根拠がつくられています。例えば、昨年の万景峰号入港阻止騒ぎの根拠とされたのが、米国の議会公聴会での二人の脱北者の証言です。核関連施設の元高官と元技術者と名乗る二人が、公聴会で黒い頭巾をかぶって「万景峰号でミサイル関連機器が送られている」「不正送金が行われている」などと証言。しかし万景峰号は東海(日本海)側の元山と新潟を往来する船なのに、彼らは当初、「南浦(黄海側)に入港した」と証言。また、二人の証言は韓国の国会で問題になりました。韓国国家情報院は「彼らは元高官や技術者ではなく、普通の労働者と警官であり、高度な情報を知りえる立場にはない」「二人の証言は信憑性がない」と報告しています。
 ところが、日本では公聴会証言を根拠に、千数百人の当局の要員が万景峰号の立入検査を行いました。じゅうたんやベッドの裏まで調べ、さらに麻薬犬まで動員しましたが不正は何一つ出てきませんでした。
 それぞれの法律には立法精神があります。できるだけ自由に交流しようというのが外国為替法や外国貿易法の精神です。なぜ制裁のために使われるのか、立法精神に反すると思います。また、開港している港はすべての船を受け入れるというのが基本です。専門家によると、戦時においても船の入港を一〇〇%阻止することは難しく、ましてや平時に入港を禁止するのは国際的な慣例からも考えられないとのことです。非常に政治的な意図をもった法案です。
 経済制裁も含めて反朝鮮騒ぎで直接被害を受けるのはわれわれ在日朝鮮人です。情報操作までして誤った朝鮮感を与えて、朝鮮は恐ろしい国だから、それに備える必要があると。かつて朝鮮戦争の前に、在日朝鮮人の組織は解散させられ、朝鮮人学校は強制的に閉鎖させられました。あの時代の在日朝鮮人に対する弾圧をほうふつとさせます。朝鮮を敵にして、それに備えるという口実で周辺事態法や有事法制が短期間につくられ、いま自衛隊をイラクに派兵させています。日本が軍事大国として進んでいくということだと思います。
 決して日本の方々と無関係だとは思いません。例えば、有事法制の中に日本国民の権利を制限する内容があります。抑圧する側の人民は、抑圧される側の人民と同じように被害を受けると思います。日本における朝鮮問題は、すぐれて日本の内なる問題ではないかと感じています。

――一昨年の平壌宣言に沿って、対話によって日朝国交正常化を実現することが大事だと思いますが。

 一昨年九月に平壌宣言が発表されたときに、これで両国関係が大きく前進し、国交正常化もそう遠くないと在日朝鮮人も歓迎しました。日本の各政党や各界の人々も歓迎されたと思います。
 なぜこうなったのか。拉致の問題は、決してあってはならないし、許されるべきないと思っています。拉致被害者の家族が一日も早く一緒に生活できることを切望しています。われわれの一世は植民地支配の時代に強制連行という形で拉致され日本に連れてこられ、いまだに肉親が生き別れとなり、父母(一世)は親の死に目にも会えなかった。在日朝鮮人社会は、肉親生き別れの縮図です。だからこそ在日朝鮮人は、拉致家族の問題の解決を望んでいます。
 ところが拉致家族の問題を解決させるよりも、両国関係を対立させ、国交正常化に反対する勢力が頭をもたげています。しかし、日本の善良な国民は、両国の国交正常化を望んでいると思います。また二十一世紀は国や民族の大小を問わず、それぞれの国の主権や民族の自主性が尊重される時代になると信じています。両国が国交正常化させることはアジアの平和と安定に大きく寄与すると同時に、アジアの経済的発展にもつながります。
 問題は米国の対朝鮮敵視政策、そして日本政府の対朝鮮敵視政策が改められていない事に起因しています。敵視政策が改められない限り、核の問題も含めて前に進まないのではないか。「あの国は敵国」だから備えなければならないと。防衛長官の「こちらから攻めることもあり得る」という発言はブッシュ政権と同じ発想で、非常に危険だと思います。
 朝鮮学校では、決して反日教育はやっていません。しかし、その子供たちが、この反朝鮮騒ぎの中で何を感じているか。「なぜ自分たちが悪者にされるのか」と心に傷を受けています。現在の状況が子供たちに反日感情を植え付けることになりはしないか危惧しています。
 現在の両国関係の問題を解決するためには、平壌宣言の基本精神を尊重して、お互いに信義を守り、一つひとつこれを履行していく過程で信頼関係を構築する。それが基本だと思います。日本に定住することを望んでいるわれわれ在日朝鮮人が、日本との敵対関係を望むはずがありません。一日も早く、平壌宣言に沿って国交正常化に向かうことを望んでいます。

――ありがとうございました。