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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』1999年7月号
 

「日の丸」「君が代」法制化反対

日本教職員組合書記長 戸田 恒美




 法制化は憲法の否定


 「日の丸」「君が代」問題については、1975年の大会で議論して決めた見解を基本にしています。
 「君が代」は、その歌詞の内容と果たしてきた歴史的役割からして、主権在民の憲法原理と教育基本法の民主的教育理念を否定するものであり、君が代を国歌とすることには反対です。
 「日の丸」については、国の標識として国内外で使われてきたことは事実で、これを否定するものではありません。しかし、「日の丸」が明治憲法下の天皇制国家主義によって侵略と差別・抑圧のシンボルとして扱われてきた歴史的事実があるわけで、「日の丸」を国旗とすることには反対です。
 3点目は、「日の丸」「君が代」を学校教育に強制的に持ち込むことは、日本国憲法の主権在民、人権、思想信条の自由、信教の自由などはもちろん歴史認識にもかかわるので、強制することは許されません。
 これまで政府は、この問題を教育問題として扱ってきました。学習指導要綱を根拠に、卒業式や入学式に「日の丸」「君が代」を強制してきました。そのため日教組対文部省、現場では教職員対校長という構図となっていました。しかし、法制化ということになれば、単に文部省と教育現場だけの問題ではありません。日本国民はもちろんのこと、日本に住むすべての人々の問題です。法制化によって、国家が国民の心の中にまで入り込む思想信条の問題になりました。
 日教組が、「日の丸」「君が代」問題に敏感にならざるを得ないのには理由があります。戦前戦中の教職員は、国家の言うがままの「教育」によって、教え子たちを戦場に送ったという歴史をもっています。子供たちに、日本の軍国主義を賛美し、天皇のための死こそが人生の目的だと信じ込ませました。戦後、日教組を結成したとき、この慚愧(ざんき)の思いと痛恨の反省から「教え子を再び戦場に送るな」と誓い合いました。
 日教組は、日本を二度とあのような悲惨な侵略を繰り返さない国にするために、自分たちのやったことへの責任を果たす必要があります。日本政府が、戦争の加害の事実をきちんと認識し、アジアの犠牲者に対して真摯に謝罪すること、損害について補償することが必要です。そして再発防止のための教育を行うことが必要だと考えています。とくに日教組は、学校教育の中で、歴史の事実と真実を正確に教えることが大事だと思っています。
 したがって、国旗・国歌の法制化の議論の前提として、まず日本政府が、戦争の加害についてアジア諸国に謝罪すること、総括をきちんとすることが必要です。政府要人の中にも、日本の侵略戦争を認めないような言動を繰り返す人がいます。政府自身が主権在民の日本国憲法を遵守すべきです。その上で、国民的な幅広い、自由な議論を保障しなければなりません。国会だけで議論して決めるべきではありません。


 強まる「日の丸」「君が代」の強制


 文部省は98年に、日の丸掲揚・君が代斉唱の実施状況について、全学校の調査を行い、実施率の悪い10府県について是正指導を行いました。この中に広島も入っていて、「日の丸」「君が代」の強制という是正指導の中で世羅高校の校長自殺という不幸なことが起きました。文部省が是正指導で強制し、教育現場を締め付けた結果です。
 2月に小渕首相が「法制化は考えていない」と答弁したのに、世羅高校の事件をきっかけに、法制化に動き出しました。現場では子供中心の教育をということで努力しているのに、全然別の方向に動いてしまう。法制化の流れの中で、大阪の豊中の中学校の校長が、卒業生に刺されて入院するという事件も起ききました。
 政府は法制化しても、学校現場では強制しないと言っています。しかし、今でも教職員が子供たちを中心にした入学式や卒業式を実行しようとすると、学習指導要綱を根拠にして「日の丸」「君が代」を強制されるという現状があります。これが法制化になれば、さらに締め付けが強まると危ぐしています。


 幅広い運動を


 21世紀を担う子供たちの教育は重要です。そのためには平和や人権、環境などがきちんとして、民主主義をもっと発展させなければなりません。子供たちの教育をどうするかを議論していた日教組大会の2日目に、政府は自自公という体制の中で法制化の閣議決定をしました。
 大会では、「日の丸」「君が代」の強制に反対して、国旗・国歌の法制化に反対する取り組みをすすめることを決めました。
 日教組としては、閣議決定した政府に抗議し、各政党にも働きかけることにしました。連合の鷲尾会長も、今国会での法制化に反対を表明しています。多くの労働組合や平和団体、民主団体にも呼びかけて、法制化反対の運動を展開したいと思います。各県の教組も、それぞれの県選出の国会議員に対して要請行動を行います。
 今国会では、自自連立に、公明党も含めた自自公という体制が進む中で、重要法案が次々と通過する状況になっています。ですから、国旗・国歌の問題だけでなく、盗聴法案、住民基本台帳改正法案、そしてガイドライン問題も含めて平和・人権・民主主義という取り組みを幅広くやらないと、この運動は広がらないと思っています。 
 (文責編集部)


<集会報道>
 許せぬ「日の丸」「君が代」法制化

国民の批判の声を無視して衆議院本会議で国旗・国歌法案の審議が始まった六月二十九日、衆議院第一議員会館に於いて、「日の丸」「君が代」問題院内緊急集会が開かれた。この集会は憲法・平和・人権フォーラムの呼びかけで行われ、日教組など労働組合や民主団体など、約百三十名が結集して同法案に抗議の声を上げた。
 集会では、主催者を代表して護憲フォーラム代表の山口鶴男氏が「体制翼賛的なやり方で法制化を進めることは断じて許せない」と訴えた。また社民党政策審議会会長の濱田健一氏が、自らの教育現場の経験を披露しながら同法案の強制が、世羅高校の悲劇を繰り返すことを訴えた。