外国人実習生等の人権問題

ウィシュマさんの死が問いかけるもの

弁護士 指宿昭一さんに聞く

昨年3月6日、スリランカ出身のウィシュマさんが、名古屋出入国在留管理局の収容施設で亡くなって1年が経過した。外国人実習生等の人権問題に献身的に取り組む指宿昭一弁護士に聞いた。2月19日談に3月に補足してもらった。(見出しとも文責編集部)

 2007年から現在まで入管施設内で亡くなった外国人が17人います。
 19年6月には大村入管でハンガーストライキをしたナイジェリア人男性に栄養補給をせず、見殺しにした事件が起きています。同じ年に同入管内で左股関節を強く打った人に医師の診察を受けさせず1週間放置し、そこが壊死して寝たきりになるという事件も起きています。これらの事件に対して入管は何も反省せず、適切な措置をしていたと言い続けています。そのような状況の中でウィシュマさんが亡くなりましたが、これは決して偶然ではなく入管の政策に必然的に殺されたと言うべきだと思います。このような状況を変えなければ次のウィシュマさんの事件が必ず起きます。
 10年以降、入管は長期収容を避け6カ月がたてば仮放免の検討を始めて、できるだけ1年を超えないようにという政策をとりました。しかし、15年にはその方針が撤回され、強制送還のために収容を手段にする、つまり、長期収容によって痛めつけて本人たちが帰らざるを得ないような状況に追い詰めていく方針に変えました。これが、さらに死亡者や過酷な状況を生み出す原因になっています。
 今、送還に応じられない人たちが3000人強います。この中には難民申請をしていて本国に帰されたら殺されてしまうかもしれない人たちや、日本人や永住者と結婚して日本に家族がいて、もし強制送還されたら家族が引き裂かれてしまう人たち、それから1990年代以降、日本で働き続けており、自分の国には生活基盤がない人たち、帰るに帰れない人たちがたくさんいます。そういう人たちを無理やり何があっても帰してしまうという間違った強行方針、これを「送還一本やり方針」と言いますが、これが、ウィシュマさんの事件や大村入管の事件を引き起した根拠です。つまり、ウィシュマさんたちは名古屋入管に殺されたわけではなく、日本政府が進める入管政策に殺されたというふうに言わなければならないと思います。
 この「送還一本やり方針」もうまくいっていません。死んでも帰らないと言う人もいますので帰すことができない。帰らなかったら刑罰を科す、あるいは難民申請中の人でも3回目以降は帰してしまう。こういうむちゃくちゃなやり方に対して、ウィシュマさん事件が起こり、市民の強い疑問の声、怒りの声が上がったために法案が通せなかった。しかし、これは諦めたわけじゃなくて、参議院選挙対策で、政府与党から止められている状態で、選挙が終われば必ず出てくるし、法務省の方はでは4月くらいに出したいと言っているようです。

外国人労働者・技能実習制度の廃止を

 入管問題と外国人労働者問題との関係ですけれども、今外国人労働者をある程度の数受け入れていかないと少子高齢化の進む日本社会の中で労働力が足りなくなってくる。また、地域社会の担い手も足りなくなっていて、外国人労働者の受け入れ拡大の方向は、与野党含めてほぼはっきりしていると思います。
 問題は、政府与党の今の基本姿勢が外国人労働者・技能実習生を使い捨てるために受け入れる、要らなくなったすぐ帰すということです。例えば技能実習生等は現場の過酷な労働や暴力に耐えかねて職場から離れてしまう人が多い。こういう人たちを捕まえて送り返すんだということが入管政策の背景にあると思います。この考え方が間違っています。そんな、逃げてしまうような制度自体を変えなければいけないのであって、使い捨てて、逃げた人を捕まえて帰すなんていうのは間違っています。
 国籍を超えて全ての労働者や市民が共生していく、共に生きていく、そういう社会をつくっていくことを基礎にしなければいけないのに、それと真逆の方向に今の入管政策や外国人労働者政策は向いているのですね。大きく言うと移民政策ですけれども、その方向を変えないと問題は解決しないと思います。
 先日、岡山の実習生が棒で殴られている映像がネット上でも公開されましたけれども、本当に奴隷的な状況の中で逃れることもできず働かざるを得ない。こういう制度を持っていること自体が非常に間違ったことだし、技能実習生制度は一刻も早く廃止すべきです。
 人権というものは、国家の都合で左右していいものではありません。
 今、岸田政権が打ち出している「人権外交」には日本の国益のために人権問題を利用するという観点が透けて見えます。もし、本当に人権を守る気があるのならば、なぜ足下の、つまり入管で起きている人権問題を解決しないのか。技能実習制度を廃止してまともな外国人労働者の受け入れ制度をつくらないのか。それをやらないで外国に対してだけ、人権を守れと訴えるのはダブルスタンダードでもあるし、間違った考え方、やり方であると思います。

頼もしい若い人たちの活動参加

 若い人たち、特に学生が多くこの運動に参加しています。その理由は、かわいそうだから助けてあげるとかということではなくて、私たちの社会がこの人権侵害を許している、そんなことではいけないという思いからだと思います。これからの社会を担い、つくっていく立場から、こういう人権侵害が行われているのは私たちの問題だという観点から取り組んでいます。こういう問題意識はとても頼もしいことだと思います。
 この力が入管政策を変える力になるし、外国人労働者の制度を変えていく力になるし、もっと言うと日本の政治を変えていく潜在的な力になるのではないかと思っています。
 制度を変えるとか法律を変える、あるいは政策を変えると考えたときに、国会の中だけで問題を考えると結局、与党と野党の力関係で全てが決まっていく、そうすると何もいい方向には変わらないと思います。
 大事なもう一つの大きなファクターがあって、それは市民の力です。学生や労働者も含めた市民の力、こここが声を上げ、行動を起こすことによって、国会も動かしていくことができるし、与党も野党も動かしていくことができる。昨年の入管法改悪法案を廃止に追い込んだのは、まさにそれが実現できたからだと思います。
 今の日本の政治において、そういうことがとても少ないと思いますが、さまざまな分野で学生や市民が声を上げる、行動を起こす。そうすることで今の悪い政治状況は変えられる可能性があると思っています。

ウクライナ避難民の受け入れ

 ロシアによるウクライナへの侵略で、多くの避難民が国外に脱出しています。日本政府はウクライナ避難民の受け入れを表明し、3月15日、1年間就労できる在留資格への変更を認めることを発表しました。これは、いいことです。だが、なぜ、ミャンマーのクーデターやアフガニスタン旧政権崩壊の時には、積極的な受け入れをしなかったのか。そして、国際的な基準に基づく難民認定を行わない「難民鎖国」と言われるような状況をなぜ改革しないのか。避難民や難民の受け入れは、人道的な立場から行うべきもので、政治的意図をもって行うべきものではありません。これを機会に、日本の難民制度を見直すべきです。