「台湾有事」を避ける道

50年前の原点に戻って東アジアの平和・繁栄を

『日本の進路』編集長 山本 正治

 1月7日、日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)が開催され、「(日米は対中国の)戦略を完全に整合させ」「南西諸島を含めた地域における自衛隊の態勢強化の取り組みを含め、日米の施設の共同使用を増加させる」と確認した。対中戦争準備と疑われて当然だ。沖縄は、「再び戦場化」の危険にさらされる。岸田首相は1月17日、国会の施政方針演説でこうした方向を確認した。
 日本が、中国「抑止」で「有事」をつくりだしてはならない。敵基地攻撃能力獲得など論外だ。


 今年は日中国交正常化50周年である。両国の平和と繁栄をもたらした正常化の原点に戻って新たな発展を目指すことこそ日本と東アジアの展望である。ところが野党までもが、「北京オリンピック外交ボイコット」とか、国会「人権」決議とか、中国敵視キャンペーンに無批判に迎合する。人権は大事だが、脅威を煽って、軍事力強化と憲法改悪を狙う一部反動勢力の策動に手を貸してはならない。

「お父さんは一命を賭して訪中した」

 強国化した隣国中国とどう向き合うか、わが国の重大課題である。今年は、日本が中国東北部に侵略し植民傀儡国家「満州国」をでっち上げてから90年だ。しっかりと歴史を踏まえ、再び誤らないようにしなくてはならない。
 岸田首相は施政方針演説で、「中国と建設的かつ安定的な関係の構築を目指す」と語った。大いに結構だ。行動で示さないといけない。
 その試金石は、「台湾有事」の問題だ。
 50年前の日中国交正常化の時を田中角栄元首相の長女、田中真紀子氏(元外務大臣)は語る(毎日新聞夕刊、1月14日)。首相は国交正常化交渉で北京に発つ際に、「日本は戦争責任を一切取っていない。あいまいなままだ。相手が納得する形で戦後の問題に決着をつけたい」と語って、いつもは真紀子氏を外国訪問に同伴させていたがこの時だけは連れて行かなかった。「お父さんは一命を賭して訪中するんだ」、真紀子氏は父の覚悟を感じたという。
 首相は、中国国務院周恩来総理との難しい交渉を決着させ、共同声明に調印する。
 真紀子氏は、自宅で祝宴の準備をして父を待つが一向に帰ってこない。秘書官から連絡が入る、「(自民党の)両院議員総会でつるし上げを食っています」。台湾断交に反対する自民党国会議員が首相をつるし上げ、「相手は共産主義の国じゃないか」「田中角栄は国賊だ」「腹を切れ」等々と、両院総会は怒号が飛び交い、大荒れだった。

「台湾問題」でのわが国の約束

 「日中国交回復は『台湾問題』だった」と真紀子氏は振り返る。
 わが国明治政府は1895年、当時の清国から台湾を奪い取り、以来、植民地支配した。1945年の敗戦時にすべての海外領土を放棄し、52年講和会議で「すべての権原を放棄」したが、台湾の帰属は決められなかった。その後、吉田政権は、台湾に逃げ落ちた「蔣介石政権」と、中国を代表する政権という建前の「日華条約」で「国交」を結ぶという誤りを犯した。
 田中首相はこの誤りを正す、歴史的な決断を下した。
 わが国は共同声明で厳かに約束した。「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認し、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部との中国の立場を十分理解し、尊重する」。さらに、「ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」、すなわち、台湾が中華人民共和国政府によって代表される中国に返還されることをわが国は認めた。こうして歴史的な和解、国交正常化が実現したのである。
 当時の大平正芳外務大臣は、1973年の国会答弁で、「中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、基本的には中国の国内問題であると考えます。わが国としてはこの問題が当事者間で平和的に解決されることを希望するものであり、かつこの問題が武力紛争に発展する可能性はないと考えております」と述べた。
 外務省条約課長として国交正常化交渉に参加した栗山尚一元外務事務次官・駐米大使は、国交正常化35年周年に、「わが国がとるべき道は、一方において、日中共同声明に表明されている立場を今後とも堅持する(必要に応じ、わが国は台湾独立を支持しない旨を台湾当局に明確に伝えることを含む)こと」だと述べている(『霞関会会報』2007年10月号)。
 国際情勢は激変し、とくに米中関係も、日中関係も力関係も大きく変わったが、この国家間の約束は誠実に守らなくてはならない。

「台湾は不可分の一部」の約束を守る

 ところが菅前首相は昨年4月の日米首脳会談で、日中国交正常化時の約束を踏みにじって、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調」と中国の内政問題に公然と介入した。年末に安倍元首相も、「台湾有事は日本有事」などと発言、台湾危機を煽った。
 この1年、アメリカ・バイデン政権は、クアッド(Quad)や豪英米核軍事協力のオーカス(AUKUS)など対中軍事包囲網を進めるとともに、中国を挑発する「台湾独立」の画策を強めた。「台湾」代表を大統領就任式に呼んだところから始まり、年末の「民主主義サミット」への招請まで「公的」関係を進めた。
 こうしたなかで12月には、陸上自衛隊と米海兵隊による過去最大規模の実動訓練が、航空自衛隊と米の陸・海・ 空軍、宇宙軍も参加し全国で繰り広げられた。岸田首相は施政方針演説で、「国家安全保障戦略の年末までの改定。『敵基地攻撃能力』の保有を含む『あらゆる選択肢』を検討。防衛力を抜本的に強化」を打ち出した。自民党外交部会は、対中外交はするなと言わんばかりにわが国外相の訪中にすら反対する。
 岸田首相が、「日中の建設的・安定的関係」を本当に目指すのであれば、田中・大平氏のように毅然としなくてはならない。まずは施政方針演説で言う、「対話をしっかりと重ね」ることだ。台湾を「事実上の独立国」とするようなあらゆる策動を許してはならない。

平和であれば約束されている繁栄

 今年、日中韓、ASEANなど15カ国の地域的な包括的経済連携協定RCEPが発足。人口もGDPも世界の約3割を占める。東アジアはますます世界経済の中心として繁栄が約束される。アメリカはこれを妨害したいのだ。
 経済発展を第一に強国化を目指す中国習近平国家主席がいちばん台湾海峡の平和・安定を望んでいるに違いない。しかし、「祖国統一」は、中国の核心的利益であり、「台湾独立」などの策動は政権の死活に関わる。阻止するために、あらゆる手段を駆使するのを誰が止められるだろうか。
 台湾海峡の安定、東アジアの平和のために、いま日本政府がなすべきは、「一つの中国」の原則を誠実に守ることだ。蔡英文氏など台北の「当局者」たちに、「わが国は『台湾独立』のような一切の動きを支持しない」と明確に伝えることだ。同時に、習近平国家主席にも「平和統一」を率直に求めればよい。
 わが国の協力なしに台湾は動けず、在日米軍も「台湾有事」に介入はできない。
 東アジアの平和と繁栄のために、「50年前の原点」に戻ることだ。
 そして世界中、どの国、どの地域でも同じだが、人びとの自由意思が最大限尊重される政治を望む。わが国で沖縄について沖縄県民が求めているように。

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