日中国交正常化50周年 瀬野 清水

日中は第5の政治文書を

(一社)日中協会理事長 瀬野 清水

 日中国交正常化から50周年の佳節を迎える。この間、日中両国で合意をみた条約や声明などは4回発表されており、これらは「4つの政治文書」と称されている。両国が常に立ち返るべき原点だ。改めてこれら4つの政治文書を読んでみると、共通した内容の文言があることに気づく。日中不再戦の誓いである。表現の違いこそあれ、いずれの文書にも日中両国は「すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないこと」を確認している。


 首脳交流についても、1998年の共同宣言と2008年の共同声明で「双方は、毎年いずれか一方の国の指導者が相手国を訪問すること」と毎年の首脳訪問を約束している。「国際会議の場も含め首脳会談を頻繁に行い」「意思疎通を強化し」「政策の透明性の向上に努める」ことまで約束している。問題は、こうした日中間の約束は守られてきたのだろうかということだ。
 日本と中国のどちらが悪いと言っているのではなく、約束は守られてこそ価値を有するということを言いたい。
 今年の国交正常化50周年では、コロナ禍で2年間延期されている習近平国家主席の来日の機運が再び盛り上がるよう、新しい気持ちで第2の国交正常化をスタートさせるような一年にならないかと願っている。折しも日本では「新時代共創内閣」の旗印を掲げ、「新しい資本主義」を模索する岸田文雄内閣が発足したばかりだ。首脳交流の順番からは外れるが、例えば北京の冬季五輪、パラリンピックが成功裏に終了し、コロナ禍が一段落した頃に、岸田総理が就任のあいさつを兼ねて訪中されるのはどうだろうか。鉄亜鈴のように両端が肥大化した貧富の格差をどのように是正して、中間層を厚くするか、どのようにすれば「成長と分配の好循環」が図れるかなどは、習近平主席が満を持して取り組み始めた「共同富裕」とも一脈通じるものがある。共通の話題に事欠かないように思われる。
 岸田総理訪中の後、今年秋の共産党大会終了後か、来年春の桜の頃に習近平国家主席の来日が実現するよう、官民一体となって環境を整え、訪日の雰囲気を盛り上げていきたい。そして、両国の首脳交流が再開した暁には、日中平和友好条約をさらに深化させた第5の政治文書ができることを願っている。
 幸い、日本には、縁あって日本に住んでいる中国人が100万人近くいると言われる。コロナ禍で中国への渡航がかなわなくても、目の前の身近な中国人に話しかけることから対話の輸を広げることはどうだろうか。相互理解や相互信頼はどこか遠い、特別な世界ではなく、目の前の一人から始まる。身近にいる一人との誠実な対話を通じた信頼関係の構築が、いずれ周囲に共感の波動を広げ、国と国の関係にも好ましい影響をもたらすに違いない。
 国の約束である条約の「魂」に当たるのは、お互いに知り合い、話し合い、尊敬し合えるようになる日中両国民の理解と信頼感であろう。いずれ成立することが期待される第5の政治文書は、「仏作って魂入れず」にならないよう、簡潔であっても実行可能な条約であることが望ましい。その中にはぜひとも日中の不再戦と、首脳交流、青少年交流の義務化を盛り込んでほしいと願っている。

(日中協会会報から転載)

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