「対中国外交の転換を求める」問題提起 伊波 洋一

今、対中国外交の転換を、
どうして政府に求める必要があるのか

参議院議員(会派「沖縄の風」代表) 伊波 洋一

 ご参加の皆さん、参議院議員の伊波洋一です。本日の取り組みに会場参加したかったのですけれども、衆議院総選挙に向けた取り組みの中で、今先島の方に来ております。あらかじめレコーディングして皆さまに私の方から沖縄の報告をしていきたいと思います。沖縄の現場からは、今日の集まりの課題になっております「対中国外交の転換」がなぜ必要かということがよく見える状況です。


「日中共同声明」基礎に外交重視の対中政策を

 今週の地元紙では、金武町にある県内最大の米海兵隊の実弾射撃演習場であるキャンプ・ハンセン演習場で中国を想定した戦闘訓練が始まっていることが報じられています。今の沖縄の米軍基地での訓練と演習は、イラクやアフガンなどでの戦争に向けたものではなくて、台湾有事における対中国戦争に向けた訓練場としての位置づけが行われるようになりました。
 これは安倍政権、菅政権の9年間に、自衛隊の向かい方も対中国になっているということです。尖閣問題を理由にしておりますが、最終的に台湾有事への対応を目的としたものであることがいよいよ明らかになってまいりました。
 私は、こういう危険な戦争への道ではなくて、日中共同声明や日中友好平和条約を基礎とする外交重視の平和と友好の道に立ち戻ることが必要であると考えております。今回の「転換を求める」は、そのような意味であると理解しております。

離島での戦争準備のための「土地利用規制法」

 以前からも伊江島では遠征前方基地作戦(EABO)という、アメリカ軍が台湾有事でどのようにして台湾防衛をするのかという取り組みの訓練が行われています。伊江島に着陸する陸軍のロケット砲部隊が、島々での発射訓練をしてロケット砲を発射して直ちに立ち去るという訓練が行われています。「ノーブル・フューリー21」という遠征前方基地作戦の訓練が新しい海洋圧力戦略に対応して行われています。これには自衛隊も関わらせられている状況です。
 米軍機による低空飛行訓練が、沖縄だけでなく日本全国で行われていますが、これもEABO訓練の一環です。日本列島や南西諸島を中国攻撃の拠点にする「海洋圧力戦略」が今とられていて、その中において米海兵隊が作戦コンセプトとして遠征前方基地作戦に取り組んでいる状況です。
 この作戦に米海兵隊が利用できるのは日本の島々なのです。この日本の島々なしにはこの作戦はできません。台湾有事でアメリカは日本の島々を利用する必要があります。こういう中で、今回の土地規制法が、今年の通常国会で急に提案され可決されました。この土地規制法は沖縄の島々を軍事的に利用するため、台湾有事で利用するためのものだと理解しております。南西諸島には50の有人離島がありますが、その有人離島全てが土地規制法による規制に該当することになります。飛行場があるところだけでも13の島があり、これらの島々が台湾有事で利用されることになると思います。
 安倍政権は尖閣諸島問題で危機感を煽りながら、南西諸島で陸自地対艦ミサイル基地建設を奄美、宮古島、石垣島、そして沖縄本島で計画し、すでに奄美大島と宮古島には配備しています。このような取り組みに対応して、九州には離島奪還のための陸自水陸機動団を新編して沖縄の離島奪還作戦訓練も何度も実施してきました。国内的には尖閣問題と言っていますが、実際には台湾有事を想定した自衛隊の南西シフトに他ならないと理解しております。

日本が前面に立つ「台湾有事」

 一方、アメリカ軍は台湾有事において日本から撤退します。というのは中国のミサイルが在日米軍基地の全てを射程に覆っていますので、やられる前に台湾有事を察知したらそこから逃げていくのです。じゃあ誰が戦うのかというと、自衛隊だけが戦うというのが基本的な考え方のようです。これまではそうだったのですが、日米安保上の矛としての、敵を攻撃するはずの米軍の役割がなくなることになり、異論もあるので米軍は少し変更しつつあります。
 アメリカ軍は全面核戦争を回避するため、つまり、中国の核弾頭が米本土に向かわないようにするためにこういう取り組みをしていると説明しています。これは2010年の中国漁船の海上保安庁との衝突事故を契機に、中国と日本の間で尖閣をめぐる対立が起こり、その中でその年の翌々年、日本政府が尖閣を国有化したことがさらに悪化させましたが、その年末に安倍政権が誕生しました。
 安倍政権は集団的自衛権を見据えて憲法を解釈改憲で見直すという方針を米国に対して明らかにし、その後国内で実際に行ったわけです。その直後に沖縄を中心にさまざまな離島奪還の演習を行ってまいりました。海兵隊との連携もしてきました。これは、自衛隊にとって離島奪還訓練が戦争だという認識で全自衛隊が関わっているわけです。集団的自衛権容認の安保法を強行可決し、そして、日本は戦争ができる国になってしまいました。
 今の防衛白書には、2016年から自衛隊が南西諸島で造り上げてきた基地の数々が掲げられています。そして、具体的に南西諸島でどのような戦争をするのかということも、図式化されています。ミサイル部隊を一つ配備するだけで、その島は全島要塞化しなければならないことになります。
 ミサイルは一発発射した途端に人工衛星から軍の居場所が察知されますから、すぐに動かなければなりません。そして、島じゅうあっちこっちで隠れる場所をつくらなければなりません。しかし、現地に住んでいる人たちはその全てを見ているわけですから、その人びとをスパイ視していくという考え方が起こっていくだろうと思います。いろんな意味で、島の戦争というのは島の住民を全部巻き込むことになります。こういう戦争の準備を防衛省はやっているのです。
 尖閣に向けた離島防衛は、アメリカは対中国戦略の一部とは全く言っていません。アメリカは尖閣という言葉は使いません。というのは台湾も尖閣を自分の領土と主張しておりますし、中国も主張しています。中国がいわゆる武力統一する「台湾有事」への対応の取り組みとして南西諸島での制限戦争を準備しているのだと思います。沖縄県民にとっては許し難いことであり、私たちの国がいかにアメリカのために利用されているかということが分かります。

九州・南西地域における主要部隊新編状況(2016年以降)(概念図)出典:「令和3年版防衛白書」

南西諸島を使った対中戦争計画

 2011年、「アメリカ流非対称戦争」という論文が海上自衛隊幹部学校の戦略誌「海幹校戦略研究」に載っています。これは自衛隊が南西諸島の軍事化をスタートさせる大きな論文だったと思います。現在、アメリカは台湾防衛において、次の4つのポイントについて、日本の同意を求めています。
 1番目が「アメリカ流非対称戦争」が求める南西諸島への自衛隊の地対艦ミサイル部隊の配備ですが、これはほぼ出来上がりつつあります。2番目が遠征前方基地作戦(EABO)による南西諸島を含む島々での地上発射ミサイルを含む多様な機能をもつ臨時拠点の設置、3番目に在日米軍基地へのアメリカの地上発射中距離ミサイル部隊の配備、この配備先は日本列島全体だと思います。4番目に米軍の機敏な戦力展開構想ACEによる在日空軍部隊の小規模部隊の分散による海兵隊EABO支援です。
 そういう意味では、南西諸島を中心に対中国戦争を行うという米軍の戦略、台湾有事での日本戦場化というのは、日本政府の決定次第で止めることができると私は思います。と言うのは先ほど申し上げたように、アメリカは台湾有事への対応には沖縄の島々を使わなければならないし、日本の領土を使わなければアメリカは対中国戦争あるいは台湾有事における戦争をすることはできません。
 ですから日本が「戦争をしない」という意思をしっかり持てば、米軍はこの台湾有事での戦争を起こせないということです。そのことを私たちは肝に銘じなければならないと思います。
 日本は今、中国に対して守りをしていません。南西シフトというのは尖閣防衛のための南西シフトであり、本州や九州、四国の防衛ではありません。つまり、日本の守りを対中国でやっているわけでは決してありません。日本の守りの準備もないのに中国と敵対しようとする考え方が、今起こっているのがおかしいと思います。
米軍基地を使わせなければ米軍は戦争できない
 アメリカはもはや日本を守りません。というのは中国との戦争は核戦争になり得るからです。すでに、アメリカは中国領土を攻撃しないという戦略になっているのです。そのことをしっかり見ていく必要があります。
 日米安保条約の第6条に関する岸・ハーター交換公文というのがあります。日本の岸信介内閣総理大臣からアメリカのハーター国務長官に宛てた書簡です。そこには「日本からの戦闘行動」については「事前協議の対象」との合意があります。日本からミサイル発射したり、あるいは領土からロケットを発射したりすることは戦闘行動ですから、当然日本の了解が必要です。
 もし、それが発射された場合、その途端に相手国から日本は敵国とみなされるということです。日本国内にある米軍基地だけでなくて、日本全体が敵国と見なされることを前提としなければならないのです。だから私たちはそのことをしっかり考えていかなければいけない。だから今のような状況を放置はできないわけです。
 ですからぜひ、今日の取り組みを起点にやはり日本全体で考えていかなければならない。今の状況を私たちは変えていかなければならないと思っています。今日の呼びかけを起点にいろんな形の声が上がっていくことを期待しています。
 以上、今日はビデオでの参加をさせていただきましたが、沖縄から見た今の状況の厳しさを痛切に感じています。ぜひ、日本外交の転換、一応公式答弁では変わっていないのですが、しかし実態としての自衛隊を中心とする今の中国への向かい方を、大きく変えていかなければならないと思います。凍りついて対立している日中関係を、日本と中国が対等に向き合う日中の外交交渉で変えていかなければなりません。そのためには、一日も早く尖閣問題を解決していくことが大切だと思います。ご参加の皆さん、日中戦争を回避するために、共に頑張ってまいりましょう。ご清聴ありがとうございました。