「対中国外交の転換を求める」問題提起 鳩山 友紀夫

中国は「敵」ではない
国交正常化の原点に返れ

東アジア共同体研究所理事長(元内閣総理大臣) 鳩山 友紀夫

 お集まりの皆さん、ご苦労さまです。
 久しぶりに「角田節」を聞かせていただいて、角田さんご健在だなと、大変うれしく思った次第です。
 「問題提起をせよ」ということで、結論だけ先に申し上げたいと思います。1972年の日中国交正常化の共同声明、ここに日中間がようやく平和になったという周恩来総理と田中角栄首相の会談での合意がありますが、この1972年のこの共同声明の線に、日本と中国は戻れと提起したい。


 この精神に戻ることができれば、日本と中国は平和で安定的な関係を築き上げていくことができる。両国政府は、そうした関係をぜひ築いていただきたい。ところが、どうも最近の政治はこの原点を忘れてしまっているのではないかということを非常に残念に思い、また危惧しております。

中国敵視の「敵基地攻撃」など論外

 岸田内閣が誕生しました。岸田内閣の外交・安全保障政策を所信表明演説で読ませていただきました。しかしどうもこれは、安倍・菅内閣とほとんど変わらない、つまるところ役人が書いた文書をそのまま読んでいるというような状況で大変残念に思いました。ほとんど独創性はなく、唯一、あるとすれば、広島出身の方ですから、「核」に対してはあったものの、核兵器禁止条約に対しての言及はありませんでした。岸田さんにはハッキリと言ってもらいたかったわけですが、大変残念に思いました。
 相変わらずの対米従属の姿勢、米主導による「開かれたインド太平洋の構想」とか、あるいはQuad(クアッド)に関しては言及がありました。これについてはどう考えても、そのような大義を立てながら、実は中国を包囲する考え方ではないかという懸念を最近強くもっております。またそれを岸田政権が前面に押し出すのはいかがなものかなと思いました。
 総裁選挙に関して、一言申し上げれば、「敵基地攻撃論」というものがいろいろ議論されました。まあ、高市早苗さんの話は全く論外だと思っておりますけど、しかし、岸田さんも「有力な選択肢の一つである」という言い方をしました。先ほど、角田代表のお話を伺って、お分かりだと思いますが、もし、敵基地攻撃を日本がしたらどうなるかという、そのへんの想像力がまるでないのではないかと思います。
 敵基地をもし攻撃することができて、いくつかのミサイルを撃ち落とした、あるいは、攻撃が成功したといたしましょう。そうしたとしても、「敵」が数千とか、あるいは少なくとも数百のミサイルを保持しているとすれば、全滅はまずできません。そうすると当然反撃され、特に先ほど原発の話がありましたけど、日本は小さな領土でありますので、それを攻撃されれば、甚大な被害を受け、住むことすらできなくなることは火を見るよりも明らかでございます。

「敵をつくらない」を肝に銘じるべき

 結論を申し上げますけど、日本は、これは憲法9条があるというだけではなくて、二度と絶対に戦争などをしてはならない国であります。戦争をして、少なくとも挑発をして、戦争になっても勝てる見込みがあるのか。全くない。日米安保における米軍など実際にはあてにはならないということも含めて理解をすれば、いかにして「敵基地攻撃論」ではなくて、いかにして「敵をつくらない日本」に変えていくかということであります。日本は決して敵というのをつくってはならない国なんだということを肝に銘じなければいけない。まず、このことを申し上げたいと思います。
 「抑止力が必要だ」という言葉がしばしば出ます。抑止力に関しては柳澤先生からいろいろとご指導も賜りました。私はやはり、「日本は軍事力を強化しないといけないんだ」ということを主張すれば、相手の国も当然それに備えて「ならば、われわれももっと強くなるぞ」ということで軍事力を強化する。それがこちらに跳ね返って、さらに日本も軍事力を強化せざるを得ない。ということになると、どんどん軍事力強化の競争になる。結果として小さなことで大きな紛争となり、下手をすると戦争に導きかねない。
 こういう状況は決してつくってはならないのであって、だとすれば何をするべきか。二度と「敵をつくらない」、二度と戦争が起きるような状況にならない工夫というものを外交努力で何としても実現させるということではないでしょうか。
 私はその一つの可能性として、かねてから東アジア共同体を主張し、東アジアは文化・風習が違っても、国境を超えて、若者たちが学び合える、大人たちも経済・産業などで協力し合える、旅行など移動も相互に楽しみにできる、国というものを意識しないでやっていける、そういう東アジアの環境をつくる、東アジアが一つになっていけるような環境をつくること。そのことが最も重要なのではないかということを一貫して申し上げておりますが、今こそ、そういう状況が必要じゃないかと思っております。

尖閣問題は田中・周合意の精神に学べ

 残り時間が少なくなってまいりました。そこで、二点だけ申し上げたいと思います。
 まず、尖閣諸島の問題に関しては、まさに1972年の田中・周恩来会談の時を思い出すべきであるということでございます。今、政府は、「領土問題は存在しない」ということを言い続けております。けれども実際にそれを主張しているのは日本政府だけじゃないかと思いますし、世界の常識では決してありません。
 「領土問題」が存在することをお互いに認め、そして、「問題があるのだから」という前提で、もう一度「棚上げ」を合意すればよろしいのではないかと思っております。問題を「棚上げ」することは、日本にとって決して不利益なことではありません。
 さらに私が申し上げたいのは、尖閣諸島周辺の「領海」とか、あるいは接続水域にお互いに入らないということを約束し合うことが必要なのではないか。そのような仕組みをつくるべきではないかと思います。万が一、どちらかの船、漁船などが入ったときには、漁業協定に基づいてかつてのようにうまく収めていくことを行うべきではないか。

台湾問題を騒ぎ立てるのは誰か

 今一つ、申し上げたいのは、先ほどもお話がありましたけど、台湾情勢であります。大変緊迫してきていることは間違いありません。そして、どうも日本のメディアが報じるのは、中国側が悪いんだとの論調だけです。台湾の防空識別圏の中に戦闘機などをどんどん飛ばして入ってきているじゃないか、「それは非常に危ない」「挑発的な行為やめろ」という声ばかり聞こえてまいります。
 それも一つの事実ではないかと思います。防空識別圏というのは大変広いものであって、中国大陸の上空までも台湾の防空識別圏が入っているわけです。だから、防空識別圏に入ったらからといって、「違法行為だ」ということではないということは皆さんご存じだと思います。しかし、ただそうしたことが不安定な情勢を招くことは事実としてあるとは思います。
 ただ私が申し上げたいのは、では9月15日に米国と英国とオーストラリアが、AUKUS(オーカス)という軍事同盟をつくったという問題です。そしてその軍事同盟の一環として日米英など6カ国で空母3隻を含む大軍事演習を台湾周辺海域で10月の2、3日に行った。英国と米国の空母ですが、なんで英国の空母までがここまで来なければならないのか。こうしたことはほとんど報道されない。
 もっとこのへんの危険性というものを私どもは理解しないといけないと感じるわけでございます。ある意味で「鶏が先か、卵が先か」という議論になろうかとも思いますが、私は、どちらかというと日本や米国、あるいは英国の方が先に出て行くからこそ、中国もそれに対して何らかの示威行為を起こしているんではないかと思っております。

中国にも言うべきは言う

 こういうことをお互いに、むしろ慎重に行うべきだということが極めて重要ではないかと思っております。一触即発的なことをしてはならないのです。
 中国に対しても、大国としての責任を果たしてもらいたいし、そのためにはWTOのさまざまな優遇措置の延長を求めるとか、「戦狼外交」のようなことはやめてもらいたいと思っております。こういうことも含めて、言うべきことは中国にも言う。言いながら、しかし、日本にとって中国は決して敵ではないのだということ。むしろ、本当の意味での友好国という関係を、1972年の合意の精神に基づいてつくり上げていく努力を行うべきではないかと考えます。
 岸田内閣がどこまでもつか分かりませんが、来年までもつんだとすれば、その岸田内閣が日中の国交正常化50周年を迎えることになります。習近平国家主席を日本に国賓としてお迎えすることがまだかなっておりませんから、できれば実現がかなうような環境をつくることが大事ではないかと思っております。岸田さんにできなければ、他の方になっていただきたいと思います。私からの問題提起といたします。

補足発言

友愛の精神、特に相互扶助で

 私の祖父、鳩山一郎が友愛という考え方を世に広めようとしました。自己の尊厳を尊重しながら他者に対しても尊厳を認める。そういう考え方でございます。相互尊重、相互理解、相互扶助、特に相互扶助が非常に重要だと思っております。一番大事なことは、お互いに違いを認め合うこと。違いがあるから、それを対立すべき、ケンカだということではなくて、違いというものを認めてそして理解し合う。違いがあっても、むしろ違いがあるからこそ、お互いに助け合うことができるじゃないか、そういう社会をつくりたい。
 そういう社会がなかなかできていないわけですけれども、国際社会の中で、そのような友愛の考え方をきちっと理解していけるような国同士の関係をつくっていかなければならないと思います。そのことによって対立を超克できるのではないかそんなふうに考えております。西原先生がまとめていただいたことに感謝を申し上げたいと思います。今日はありがとうございました。