衆議院総選挙 結果と展望

求められる「平和」の明確な対抗軸と国民的運動

『日本の進路』編集部

 10月31日投開票の第49回衆議院総選挙の結果、自公与党は過半数を確保。岸田政権が継続されることになった。
 野党は、自公与党を攻めきれなかった。5野党は「候補者一本化」で一定の効果を上げた。だが、立憲民主党も共産党も支持を広げられず議席を減らした。自公政治に怒る国民の支持を引き付けきれなかった。


 野党各党の特に重大な問題は、国の存亡にかかわる「台湾有事」の緊張にもかかわらず、中国との平和・共生のための積極的な外交安全保障政策を打ち出せず、争点にもしなかったことだ。
 われわれはこの状況を強く危惧して、選挙直前に「対中国外交の転換」を求める集会を緊急に開き、問題提起した。また選挙戦では、賛同会員の候補者を推薦するとともに全ての野党統一の候補者を支持し全国で闘った。当選された方も、残念な結果に終わった方も、自公政権を打ち破るために奮闘された全ての皆さんに改めて連帯のエールを送らせていただく。
 国民生存と亡国の危機を打開するため、岸田自公政権との闘いを発展させなくてはならない。この選挙戦の総括もしっかりとしながら、国民的共同を発展させるため共に前進しましょう。

自公与党が支持を受けたわけではない

 この結果を、「絶対安定多数確保」などと、いかにも自公与党が大きな支持を受けたかの印象操作が行われている。
 実際には自民党は15議席を減らした。特に、甘利幹事長はじめ閣僚や党役員経験者の相次ぐ小選挙区落選といったように、国民の厳しい批判にさらされた。4月の三つの国政選挙で大敗し、8月の菅首相の地元・横浜市長選も大敗した。自民党は岸田首相に「表紙」を変えた。だが、静岡県参院補選でも、「よもや」の大敗を喫したように、有権者の厳しい批判は今も変わらない。数字上の「安定多数」だが、むしろ薄氷を踏む勝利で、自公政権は「首の皮一枚」つながったにすぎない。国民の支持がなくては議会も安定しない。
 投票率は史上3番目に低く、有権者の半数近くは投票しなかった。自民党への支持は全有権者のわずか18・85%(比例・絶対得票率)、5分の1以下である。
 自民党は、民意を正しく反映しない小選挙区制度の特殊性に守られ、低投票率すら〝味方〟にして「効率よく議席を確保し」、また、主義主張の異なる公明党と連立を組むなどさまざまな政治的術策で政権を握っているにすぎない。

攻めきれない野党

 ところが野党も、広く有権者を引き付けきらず、自民党に打ち勝ち得ない。自民党の絶対得票率18%そこそこは、実は2009年の自民党大敗、民主党政権成立の時(18・096%)から4回の選挙で全く変わらない。一方、民主党も、09年には全有権者の実に29%近い支持を得て政権に就いたが、その後は支持を大幅に減らし、今日の立憲民主党は前回も今回も10%前後である。
 09年総選挙の投票率は69・28%で、今回と比べると実に1300万人も多い有権者が投票所に足を運んだ。そして民主党新政権を実現した。
 当時民主党は、歴史的に形成され広く存在した自民党政治に不満を持つ国民を引き付けただけではない。戸別所得補償政策で自民党の最後に残された支持基盤の農民層を広く引き付けた。また、若者層の関心と期待を「子ども手当」で引き付けた。何よりも09年の民主党は、「自立した外交、主体的な外交戦略」「対等な日米同盟関係」「東アジア共同体構築」を主張し、論戦に打って出た。
 今回、野党5党は「政権交代」を唱えて、7割を超す小選挙区で候補者一本化し、小選挙区では成果を上げた。しかし、特に政党の評価が問われる比例選挙では十分な支持を取り付けられなかった。むしろ共産党は24万票近く、立憲民主党も前回の希望の党などの獲得票も勘案すると大幅に票を減らした。
 極端な低米価に農民は苦しんでいる。しかもその長年の努力を踏みにじる麻生副総裁の「コメ発言」があっても、野党は農業・農村問題に疎く、農民票の「東北北信越の乱」を再来させ得なかった。若者は自民支持が多いと出口調査結果。地域に組織がなく、運動もなく、貧困に苦しむ国民の声が届かない、「風頼み」の野党の弱点が露呈した。

根本的な「改革」を求める国民

 今回の一つの特徴は、自民党に代わって「改革」を進めると唱え、5野党にも批判的な「日本維新の会」が大きく議席を伸ばしたことである。だが、この党の「改革」の実際は、「議員歳費の身を切る改革」というような人気取りにすぎないものもあり、本質上財界の求めるものだったりする。それでも多くの有権者は、「改革」に魅力を感じ、引き付けられた。
 また、「左」から改革を唱えた「れいわ新選組」も議席を伸ばした。社民党も、党分裂にもかかわらず得票を伸ばした。やはり議席を伸ばした国民民主党は、政策の協定には加わらず独自主張を貫いた。
 これらの党は、有権者が求める「改革」を、程度の差はあれ唱えることで支持を伸ばしたといえる。
 今、貧困化する国民は、徹底的な「改革」を求めている。人びとは、コロナ感染症の文字通り生命の危機もあって、この社会は持続不可能、変わらざるを得ないと感じ始め、新しい社会を求めている。

平和の危機に対処する政治を

 自民党政治への「明確で根本的な政策的対抗軸」が求められる。
 ところが「野党共闘」の陣営は、「政権選択選挙」と位置づけたにもかかわらず、国政の根本問題、国の存亡にかかわる当面の最大の課題、「台湾有事」で自公政権を批判できなかった。戦争か平和かの問題は争点化されなかった。むしろ立憲・共産間の日米安保条約をめぐる違いを責め立てられて受け身になった。
 急速に強大化した隣国、「脅威」と感じる国民も多い中国と、どう向き合うか。
 アメリカは、「最大の競争相手」と敵視し、「台湾有事」を盛んに煽る。わが国菅首相は4月に訪米、国交正常化以来の日中両国間の約束をほごにし、「対中軍事増強」を約束した。中国との外交は急停止し、敵基地攻撃など軍事力強化だけがどんどん独り歩きする。軍事費GDP2%超など急テンポである。異常である。
 ところが野党はほぼ、「毅然たる対応」を主張するのみで、独自の平和外交政策など一切聞けなかった。むしろ共産党は、「中国覇権主義」攻撃で産経新聞や自民党最右翼と並ぶ。
 だが、選挙中に発表された「言論NPO」の世論調査結果では、「存在する課題の解決に向けて、日中両国が協力を進める」が56・5%だった。国民誰しも戦争は望んでいない。
 経団連など財界も、中国を最大の市場、利益の源泉としており関係の安定を熱望している。与党公明党は歴史的に日中友好に熱心だし、自民党の中にも日中関係のため腐心してきた政治家がいる。
 自主平和外交での日中関係を情勢と国民は求めている。この「平和」の旗を握れば、野党は主導性を確保して、むしろ自公与党を責め立てることができる。次の国政選挙、「野党共闘」を考えてもこの問題は決定的に重要である。
 何よりも、戦争の危険も含む情勢で「対中国外交の転換」は、わが国の存亡にかかわる。われわれは、与党にも野党にも、各団体、勢力に積極的に呼びかけ、共に、国民世論を促すため奮闘する。