米中対立を乗り越えて沖縄の基地負担軽減を

復帰50年の現状は日本という国家の堕落の象徴

沖縄国際大学准教授 野添 文彬

 近年、米中対立が激化し、特に台湾海峡における緊張が高まっている。3月9日には、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)が、「6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性がある」と発言した。4月16日の日米首脳会談後に発表された共同声明では、「台湾海峡の平和と安定」が明記された。こうした中で、台湾に近接するなど「安全保障上重要な位置にある」(『防衛白書』)沖縄への米軍駐留は日米両政府によってますます重視されることになる。

 一方、沖縄は来年2022年5月15日で日本復帰から50年の節目を迎える。復帰50年を前にした今日でも、沖縄には在日米軍専用施設の70%が集中している。普天間飛行場の辺野古移設問題をめぐっては、政府と沖縄県は鋭く対立している。

 沖縄県民は今日に至るまで、米軍基地の過重負担に苦しんできた。日本政府が繰り返す「厳しい安全保障環境」は、これ以上の沖縄県民への基地の過重負担を正当化することにはならない。復帰50年を迎えようとする今こそ、米軍基地の整理縮小など抜本的な基地負担軽減のための真剣な取り組みがなされる必要がある。

 もちろん、米中対立の中で沖縄の基地負担の軽減を実現することは、一見非常に困難な課題である。この課題に対し、筆者もメンバーである、玉城デニー沖縄県知事によって設置された専門家会議「米軍基地に関する万国津梁会議」(柳澤協二委員長)は議論を重ねてきた。そして「米軍基地に関する万国津梁会議」(以下、万国津梁会議)は、昨年3月の提言書に続き、今年3月31日、第二弾となる提言書「新たな安全保障環境下における沖縄の基地負担軽減に向けて」を提出した(提言書は、沖縄県知事公室基地対策課のホームページから閲覧可能)。本稿では、万国津梁会議提言書を中心に米中対立の中で沖縄基地負担軽減をいかに目指すかについて考えたい。

21年度の提言書のポイント

 昨年20年3月に万国津梁会議が提言書を提出した後(昨年の提言書については本誌20年6月号を参照)、新型コロナウイルスの世界的感染拡大や米中対立の激化など、さまざまな状況の変化があった。これらを踏まえ、今回の提言書では、次のことを提言した。

 ①辺野古新基地計画は、建設予定地である大浦湾の軟弱地盤などの問題によって、技術的・財政的に見て「唯一の解決策」ではなく、「最もあり得ない選択肢」であり、ただちに中止すべきである。そして、本来の目的である普天間飛行場の速やかな危険性除去と運用停止を可能にする方策を日本政府と米国政府は、沖縄県とも協議し、早急に具体化すべきである。

 ②米中対立の中で、米国は同盟国を重視する姿勢を示しており、日本は自らの立場を主張する機会が生まれている。日本政府と沖縄県は米中の緊張緩和の必要性や沖縄の基地負担軽減について、明確に発信すべきである。

 ③中国のミサイル能力の向上によって沖縄の米軍基地は脆弱になっており、米軍は新たな作戦構想を発展させ、兵力の分散化を進めようとしている。こうした動向を踏まえて、沖縄県は、トラック2の専門家会合の開催などを通して、米軍のグローバルな態勢の見直しに基地負担軽減に向けた意見を反映させるべきである。

 ④近年、日本の安全保障政策は対中脅威論をベースとして日米同盟への依存を強めており、それが沖縄への米軍基地の固定化を招いている。日本は、インド太平洋地域のミドルパワー諸国との連携によって、米中対立を緩和するとともに、米国のプレゼンスを地域全体で支えることで沖縄の基地負担の軽減を進めるべきである。

 ⑤米中対立の激化によって地域の緊張緩和や信頼醸成は喫緊の課題となっており、沖縄県は、地域の信頼醸成のネットワークのハブとなることを目指し、広島・長崎との連携など、交流の場を構築するべきである。

 ⑥米軍はすでに日本本土への訓練の分散移転を進めており、それに伴って自衛隊基地や演習場における騒音や低空飛行の被害が増大している。日米地位協定の改定はもとより、すぐにでも行うことのできる有効な手段として、地方自治体は、地域の防衛局との間で基地の米軍使用に関する協定を締結すべきであり、そのため自治体間の協力を進めるべきである。

辺野古新基地建設の中止と普天間飛行場の危険性除去

 以下、筆者が直接執筆にかかわった①と③についてより詳しく論じたい。

 現在、喫緊の課題の一つは、辺野古新基地計画の中止と普天間飛行場の危険性除去である。

 注目すべきことに、米国内でも辺野古新基地計画に対して疑問が高まりつつある。20年6月、国防権限法案審議において、米連邦議会下院軍事委員会の即応力小委員会は、大浦湾海底での地震の可能性および不安定性の懸念が高まっていることを指摘し、国防総省に対し報告を求めた(その後、軍事委員会で条文案削除)。20年11月には、米国の有力シンクタンクCSISのレポートは、辺野古新基地建設工事について、さまざまな問題を抱え、費用も高騰し、「完成しそうにない」と指摘した。

 一方、辺野古新基地建設の大義名分とされている普天間飛行場の危険性除去は進んでいないばかりか、状況は悪化している。普天間飛行場の軍用機の離着陸回数は、常駐機・外来機ともに近年増大している。

 こうした中で懸念されるのが普天間基地所属の航空機事故である。6月2日には、米軍ヘリコプターUH1Yがエンジンの故障で沖縄県うるま市の津堅島の畑に不時着した。普天間飛行場所属のUH1Yの離着陸回数も増大しており、使用頻度が高まる中で整備不良を起こしたのではないかと考えられる。UH1Yは老朽機ではないにもかかわらず不時着したことを踏まえれば、老朽機であるにもかかわらず頻繁に使用されているCH53Eなどの危険性が懸念され、基地周辺住民の不安は高まっている。

 日本政府は、普天間飛行場の危険性除去や負担軽減を進めていると繰り返し強調してきたが、その多くは見せかけにすぎない。14年には普天間飛行場の空中給油機KC130が山口県の岩国基地へ移転したが、移転後もKC130は沖縄に戻って訓練を繰り返している。16年には、普天間飛行場のMV22オスプレイの県外への訓練移転が日米間で合意さたが、オスプレイの普天間飛行場での離着陸回数はむしろ増大している。

 普天間飛行場をめぐって再び大きな事故が起これば、それこそ日米同盟は大きな危機にさらされる。それを避けることが、そもそもの普天間返還合意の目的だった。日米両政府は、この本来の目的の普天間飛行場の危険性除去にこそ全力を傾けるべきである。

米軍の新作戦構想を踏まえた沖縄の基地負担軽減

 今日の米中対立という安全保障環境の中で沖縄の基地負担を軽減するには、当面二つの方策が考えられる。一つは、米軍の戦略を踏まえた上で、それを利用することである。もう一つは、緊張緩和によって安全保障環境そのものを変えることである。

 まず、近年、米軍が新たな作戦構想と兵力態勢のあり方を検討していることが注目される。その背景にあるのが、特に中国軍のミサイル能力の増強によって、沖縄の基地など西太平洋における米軍基地が軍事的に脆弱になっているという事実である。

 こうした中で、米軍は、兵力の分散化・ローテーション化を目指す方向にある。バイデン政権でインド太平洋調整官となったカート・キャンベルは、21年1月の論文で、中国のミサイル能力に脆弱な態勢を見直し、「東アジアにおける少数の脆弱な施設への米国の依存を低下させ」、東南アジアやインド洋への兵力の分散化を提言した。現在、米国政府は、「グローバルな米軍態勢の見直し」に向けた作業を行っているが、こうした方向性が反映される可能性が強い。

 特に海兵隊は、近年、遠征前方基地作戦(EABO)という新作戦構想を発展させ、それとともに兵力態勢の変革に取り組んでいる。EABOは、小規模で分散化された部隊で、重要な位置にある離島を占拠し、そこにミサイルや軍用機の給油ポイント、センサーなどを設置して一時的な拠点を構築することで、敵軍の海洋進出を阻止したり自国の制海権を確保したりする作戦構想である。

 EABOの下で、海兵隊は伊江島など沖縄県内で激しい訓練を繰り返している。沖縄に新たに海兵沿岸連隊を設置するという報道もある。しかし他方で海兵隊は、中国のミサイル能力に対し、「集中した、脆弱な、そしてお金のかかる前方のインフラやプラットフォームに依存しない」兵力構造を目指している。そのため海兵隊は、中国のミサイルの標的にならないようにするため、有事はもとより平時からの部隊の分散を志向している。

 このように分散化を志向する米軍の新たな戦略は、沖縄の米軍基地を見直す契機にもなり得る。沖縄県は、現在のように米軍基地が沖縄に集中する現状は軍事的にも危険であり、兵力や訓練の分散などによって基地負担の軽減を進めることはむしろ米軍にとっても合理的であることを訴えていく必要がある。

地域の緊張緩和による基地負担軽減

 もっとも、米軍の戦略を踏まえた沖縄の基地負担の軽減には限界もある。米中対立の激化によって現在、偶発戦争の危険性さえある。有事には嘉手納など沖縄の米軍基地は直ちに中国のミサイルによって攻撃されるだろう。平時においても、近年、米軍は沖縄のみならず日本各地で中国をにらんだ訓練を激化させている。

 抑止力の強化を目指した米軍の戦略を踏まえた取り組みには限界があり、究極的には戦争回避のための対話や緊張緩和に向けた取り組みが必要である。それが沖縄における基地負担の軽減につながる。

 今日、日本政府が米国と一体となっての対中対決姿勢を強めている。しかし、有事のみならず訓練などによって平時においても沖縄県民は危険にさらされる。沖縄県は、対話と緊張緩和の必要性のために声を上げ続け、地域における信頼醸成のための場となることが重要だ。

おわりに

 5月27日、玉城デニー知事は、首相宛てに要請書「本土復帰50年に向けた在沖米軍基地の整理・縮小について」を提出した。ここでは、万国津梁会議の分析などを踏まえ、「当面は在日米軍専用施設面積の50パーセント以下を目指す」ことや在沖海兵隊の県外へのローテーション配備が要請されている。「50パーセント以下を目指す」ことは、面積の点からも今日の国際環境という点からも大きな挑戦でもある。他方で、「基地のない平和な島」を目指す沖縄県にとっては現実を見据えたギリギリの目標でもある。

 沖縄戦、米軍統治という苦難の歴史に加え、復帰後50年を経ても沖縄への基地の集中を放置し、危険にさらしている状況は日本という国家の堕落としか言いようがない。米中対立の中でも沖縄の基地負担軽減への取り組みは不可欠であり、またそれは実現可能である。復帰50年を迎える沖縄からの要請に政府、日本国民は応えなければならない。

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