コロナ禍で急速に進む貧窮化と格差 ■ 女性

女性による女性のための
相談会が目指す支援のカタチ

一般社団法人エープラス代表理事・女性による女性のための相談会実行委員 吉祥 眞佐緒

 コロナ感染拡大の不安が続き、出口の見えない昨年12月29日・30日と年明けの1月2日、「年越し支援・コロナ被害相談村」(以下、相談村)が開催されました。女性への影響がかなり顕著だということで、女性専用の相談ブースが設置され、①女性来場者はまず女性相談ブースに案内する、②女性相談は女性相談員が受ける、という方針が実行委員会で共有されました。
 相談村では労働組合や市民団体など多くのボランティアが参加し、法律相談(家庭・家族・生活・労働・外国人)、医療相談、お弁当などの食料の提供もあり、3日間の利用者は337名で、女性はその約2割の62名でした。直近で行われていた他団体の相談会を考えると、女性の相談割合は増えていると痛感しました。
 相談村は男性スタッフも相談者も多かったので、会場である公園の前を何度も行ったり来たりしながら、相談会場内に入れずに帰ってしまう女性の姿が何人もあったそうです。決して男性スタッフが悪いわけではありませんが、性暴力被害やDV被害を経験している女性にとっては、そこに男性がいるというだけで、恐怖がよみがえり足がすくんでしまうのです。

相談する女性の気持ちになって

 相談村では、女性は相談受け付けをすると、女性ボランティアが寄り添って女性専用相談ブースまでお連れします。相談が込み合ってしまい、底冷えのする公園で順番が来るまでお待ちいただかなくてはならないこともあります。ただでさえ勇気をもって相談にいらした方々をさらに緊張させるわけにはいかない。女性相談ブースの担当スタッフたちは、誰が指示するでもなく、会場に置いてあるストーブの1台を女性相談ブースの前に移動させ、そのストーブの上にやかんを置いてお湯を沸かし、ストーブの周りをぐるりと囲むようにして椅子を並べて、順番を待つ間そこに座って暖を取っていただくようにしました。
 お湯が沸くと、スタッフ用に置いてあったティーバッグで紙コップに温かいお茶をいれて渡し、さまざまな分野で女性支援経験の長いスタッフたちが、「寒かったでしょう、よく温まってくださいね」などと、声をかけながらスタッフも一緒に丸くなってお茶を飲みながら雑談をしていると、緊張が少しほぐれてくるのでしょう、相談者の女性たちはポツポツと自分の話を始めてくれるようになったのです。
 専門家の相談の順番を待つ間に、スタッフとの雑談によってリラックスでき、その女性の抱える問題が整理され、相談する側も受ける側も話しやすくなるという効果が生まれました。相談後の女性や、福祉事務所に生活保護の申請に行った女性も、また当面の滞在先の手配をしてもらった女性もが、再びこのストーブの前に戻ってきて、話の輪に再度加わり、今度は後から来た女性に声をかけたり、初めて会う女性をエンパワーメントしたりするようになりました。たちまち女性相談ブースの前は女性がたくさん集まってにぎやかになったのです。

「女性に特化した相談会をやりたいね」

 女性たちの頰にだんだん赤みがさしていく様子を目の当たりにして、「女性に特化した相談会をやりたいね」という思いがスタッフ同士の立ち話でどんどん具体化しました。実行委員が総勢60名以上の〝女性による女性のための相談会実行委員会〟があっという間に立ち上がりました。
 実行委員会のメンバーは、労働組合、貧困問題や女性支援の民間支援団体、市民活動団体のメンバーや弁護士、マスメディア関係者など、さまざまな背景を持って長年現場で活動する女性たちです。これまでは女性の支援に特化していたわけではなくても、女性が抱えるさまざまな問題をどうしたら解決できるのだろうと考えている人たちでした。
 実行委員会はすべてがオンラインで行われ、チームに分かれて準備が行われました。実行委員や当日ボランティア希望の方は事前のビデオ研修受講を必須としました。マスメディアの方々に対しても事前の説明会で作成した取材ガイドラインを順守してもらうようお願いしました。宣伝チームは7回にわたる街頭での宣伝活動やTwitterでの広報活動を行いました。投稿する文言は一つひとつを慎重に選び抜かれました。
 相談会の配置は相談者の安心・安全を守るため、検討に検討を重ねられました。年末の相談村の女性相談のように少しでもリラックスした環境で相談してほしいと、カフェスペースを設けました。全国の女性農家の方々からは、春の端境期にもかかわらず、必死に集めていただいたたくさんの種類の野菜や果物、お米や色とりどりのお花などが届けられました。賛同してくれた複数の企業からも生理用品や衛生用品、衣服やバッグなどが寄付されました。
 相談会は2日ともまさかの悪天候を嘆きましたが、2日間で122名の相談者があり、相談は、仕事・生活・住まい・家族や家庭・心身の健康等、多岐にわたりました。相談内容の詳細は紙幅の関係もあり、すでに多くのマスメディアで報道されているため、今回は割愛させていただきます。

女性を取り巻く問題はコロナ禍からではない

 でも何か一つお伝えするとしたら、女性を取り巻くさまざまな問題はこのコロナ禍に始まったことではないということです。しかし、女性の貧困は長い間見過ごされてきました。女性の貧困は〝あたりまえのこと〟として認識されてきたのです。その一端は女性の非正規労働という働き方や男女の賃金格差の問題に表れているように思います。
 このコロナ禍では、自分の頑張りではもうどうにもならない事態に追い込まれているのに、自分がいま何に困っていてどうしたいのか、どうしてほしいのかを言語化することができない(してはいけないと教えられてきた)、自分の希望を口にすること自体に躊躇してしまう女性が多かったことです。それを裏付けるかのように、相談者の多くは自分が利用できる制度や社会資源を知っているが利用していないことが聞き取りで明らかになりました。
 日本の社会制度における「申請主義」は社会的弱者には高いハードルであり、行政や福祉の担当者と交渉するすべを女性は教育されてこなかったことが大きな理由として考えられます。ちょうど相談会の直前には、オリンピック組織委員会前会長の〝わきまえる女性発言〟がありましたが、まさにこの言葉は女性がこの社会で生きていくためにどうあらねばならなかったのかを端的に表していると思います。女性の自殺率が高まっている大きな要因がここにあると考えられます。
 相談会開催にあたっては、女性だけで相談会を行う必要があるのかという質問を受けることもありました。女性限定にしなくても女性の相談に対応できるのではないかという意見もたくさん聞きました。正直なところ、私自身もはっきりと答えが出せていません。しかし、女性を取り巻く諸問題について、本人自身もそれがあたりまえすぎて顕在化できていない。そうした問題を可視化して言語化するサポートをしながら、一緒に考え、継続して寄り添っていく〝女性による女性のための相談会〟は、これまであるようでなかった支援のカタチでもあると思います。
 これは〝女性による女性のための社会運動〟なのだ、社会が変わる瞬間に立ち会いたいと願う毎日です。

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