福島第一原発事故の汚染水海洋放出に反対する

これは現在と未来への犯罪である

自主・平和・民主のための広範な国民連合

 菅政権は突如4月13日に、福島第一原発の「廃炉を進め、福島の復興を成し遂げるためには避けて通れない課題だ」として事故処理水を2年後に海洋放出すると発表した。

 これに対して、福島県漁連をはじめとする全国漁業協同組合連合会(JF)はただちに、岸代表理事会長の名前で、「漁業者・国民の理解を得られないアルプス(ALPS)処理水の海洋放出には、JFグループとして断固反対」という声明を発表した(別掲)。福島県の農業者で構成されるJA五連は談話を発表した(同)。会長は、「被害は漁業だけでなく当然、農業、林業なども及ぶが、今回は第1次産業の分断をあえて煽っているのではないか。一つの勢力として政府にものを申すようにまとまらないよう常に分断、分断を仕掛けているのではないか」とインタビューに応えていた。
 国民は、当事者である漁民との合意を無視した菅首相の権力的な姿勢に極めて危険なものを感じている。
 また、中国、韓国、台湾、ロシアなど近隣諸国・地域も、「反対」の意向を表明した。EUも、「日本政府が国内や国際的な義務を完全に順守し、安全性を確保」するよう求めた。特に中国は、麻生副総理の「飲んでも安全」という発言に、「自分で飲んで言うべき」と嫌悪感を示した。当然である。
 海洋放出は逆に、オリ・パラ招致の際に福島第一原発の事故は「アンダーコントロール」にあるという安倍首相(当時)の発言がウソであったということを明らかにした。マスメディアは、菅政権の態度決定・発表がなぜこの時期かについて、「全漁連の絶対反対の姿勢に反発したのだろう」と述べている。
 原発事故によって、福島および近県の魚類・野菜などが放射能汚染されたことは現実である。農水省のホームページによると「原発事故に伴い輸入停止措置を講じている国・地域」は、中国、米国、韓国、それに台湾、香港、マカオがある。
 汚染処理水の海洋放出は、これらの近隣諸国をいたく傷つけ、さらに規制強化を招くだけだ。この決定は環境問題が重要な課題となっている国際社会の動きに逆行するものである。

「原発事故水」は通常の冷却水と比較できないほど汚染されている

 福島第一原発は6個の原子炉がある沸騰型原子炉で、核燃料棒に直接触れ加熱した水蒸気でタービンを回し発電するものである。福島原子炉では当時、外部電源の停止により冷却水を送るすべての機能が不全となり、濃縮ウラン燃料棒が水から露出して冷却できず表面を覆っていたジルコニウム金属が溶け、メルトダウンが起こり、水あるいは水蒸気の酸素を奪って水素が発生し爆発(水素爆発)を起こした。特に3号機は、使用済み核燃料から取るプルトニウムを多く含むMOX燃料を使ったプルサーマル原子炉である。他の原子炉より高熱の爆発(核爆発と疑われる)が起こり、メルトダウンが起こっていることが、破壊された建屋の状況から見てとれる。
 これらを連続して冷却し続けることが、事故を起こした者の避けて通れない宿命である。
 原発事故の汚染水は、むき出しの核廃棄燃料やデブリに直接触れた極めて高い放射能を含んだものである。
 汚染水の処理は、沈殿、ろ過、吸着の方法しかない。政府・東電は「多核種除去設備(ALPS)」で処理するという。ALPSの工程は、汚染水のコバルトやマンガンなどを沈殿させて取り除き、7種類18塔の吸着塔を通す。活性炭やイオン交換材料が充塡されており、放射性物質を吸着して除去するという。しかしトリチウムは除去できない。それは、「水」と同じ性格だから分離できないのだ。
 そこで「薄めればいいだろう」という居直りだ。それが間違いである。薄めてもトリチウムは存在する。だまされていけない。
 また、トリチウムは安全だというデマ。これは証明されていない。むしろ、トリチウムが有機化合物中の水素と置き換わり、食物を通して、人体を構成する物質と置き換わったときには体内に長くとどまるし、「生物濃縮」も報告されている。さらに、DNAを構成する水素と置き換わった場合には被ばくの影響が強くなるといわれ、トリチウムがヘリウムに壊変したときDNAが損傷するともいわれている。
 これらの危惧する声を無視して安全だと声を大にすることは、生物の未来について無責任である。
 もともと放射能は長い年月の間、固体の中に封じ込められたものである。だから固形物として処理するのが正しい。モルタル処理や、当分の対策では福島第一原発の北側処理地に大型のタンクを造れば48年分の汚染水が貯蔵できると提案している団体もある。政府・東電は「関係者の理解なしに放出しない」との約束を順守すべきである。
 また、私たちは、「原発は原爆の反応を遅くしたもの」との認識を持ち、現在、爆発中の原爆が福島第一原発の敷地に横たわっていることを意識し続けなければならない。
 廃棄物の中間貯蔵も最終処分もまったく見通しがない。こうした中での原発再稼働、ましてや新設・更新は論外である。運転も即刻中止し、将来も含む国民の安全を確保しなくてはならない。(西澤 清)

JF全漁連会長声明(要旨)

 4月7日、我々は菅義偉内閣総理大臣に対し、「漁業者・国民の理解を得られないアルプス処理水の海洋放出には、JFグループとして断固反対」であることをあらためて申し入れ、慎重な判断を強く求めたところである。それにもかかわらず、本方針が決定されたことは極めて遺憾であり、到底容認できるものではない。ここに強く抗議するものである。
 今後とも、海洋放出反対の立場はいささかも変わるものではない。
 国は、汚染水対策の過程における福島県漁連の要望に対し、アルプス処理水について関係者の理解なしにはいかなる処分も行わないことを明確に回答しており、なぜ関係する漁業者の理解を得ることなくこの回答を覆したのか、福島県のみならず全国の漁業者の思いを踏みにじる行為である。
 全国の漁業者、国民の不安を払拭するため、次の事項について、国としての対応をあらためて強く求めるものである。(以下略)

JA福島五連会長 菅野 孝志

 福島県の第一次産業に携わる立場として極めで遺憾である。
 政府が説明する風評被害の発生抑止対策には具体性がないことや事故後10年経過した現在も農林水産物の風評被害が継続している実態から、ALPS処理水の海洋放出は海産物ばかりでなく、本県農林水産業の衰退が加速するとともに風評被害を拡大することは確実である。
 このことから更なる研究開発により放射能物質の完全除去が可能となる技術開発を進めるとともに、その間は貯蔵タンクの増設などにより本県農林水産物の安全・安心情報を守るよう切望する。