コロナ第1波を検証し今後に備える ■ コロナ差別があぶり出したもの

差別が根差す社会に生きる人すべてが「当事者」であるという認識と行動

公益財団法人反差別
人権研究所みえ 常務理事兼事務局長
松村 元樹

三重県で何が起こったのか?

 三重県では、4月に松阪市の中華料理店が新型コロナに関するデマのターゲットになりました。「コロナが出た」「店の周りは気をつけた方がよい」「従業員が感染している」などのデマがSNSで拡散され、予約がすべてキャンセルになり、店には、「感染者が店にいるのか」などの電話が相次ぎました。昼の時間帯の来客は、30人~40人あったのに10人程度まで減ったのです。
 20日、県知事は会見で「感染者や家族宅に投石や壁への落書きが行われた」と発信しました。また、他県ナンバーを所有しているという理由で怒鳴られたり、車を蹴られたりした県民も出てきました。
 さらに、県内に関するネットの掲示板やSNS上での差別も生じてきました。前述した投石や落書きに関しては「投石や落書き、ざまあみろ コロナ感染者は間接的に人を殺傷するモンスターだからな」「殺人鬼と変わらへん、人間のクズ」などの投稿の他、「〇〇市へ来るな 〇〇市の感染家族ども」「コロナ一家出ていけ」といった投稿が相次いだのです。
 同時に、部落差別や「障害」者差別、外国人差別などの既存差別をベースとした差別投稿も深刻化していきました。

私たちの5項目の要請が県内にもたらしたもの

 「公益財団法人反差別・人権研究所みえ」では、県民への人権啓発や教育機会が感染予防の観点から見送りや中止になるなか、差別や偏見、デマは増殖している状況にあると判断しました。差別がこれ以上、深刻化しないように4月23日、県知事及び各市町長に向け「新型コロナウイルスの感染拡大の影響による差別や人権侵害等の発生等に対する取組」として次の5項目についての要請をしました。

  1. 新型コロナに関するデマに対する効果的な防止策
  2. SNS等を活用した人権啓発・教育
  3. ネット上への差別や人権侵害投稿の防止、差別投稿の実態把握と削除
  4. 差別や人権侵害、デマなどの被害に対し、相談窓口の明確化と県民への周知
  5. 差別や人権侵害、デマなどの被害実態の把握

 歴史的に振り返ってみてもハンセン病元患者や家族、水俣病患者や家族、原爆被害者やその家族、HIV陽性者、福島県民などに向けられた差別の惨劇を、県内で繰り返さないためにも具体的な行動を早急に起こさなければとの気持ちからでした。
 要請後、知事が人権尊重のメッセージを発信、県のホームページで差別や人権に関する内容を大きく掲載、マスメディアと連携し感染症と人権に関する番組作成や動画配信に取り組みました。イオン系列のショッピングセンター、スーパーと県が提携し知事の人権メッセージを店舗内で放送するということも取り組まれています。
 また、教育委員会は小中学校向けの感染症と人権の教材開発や臨時のネット上のいじめ等のモニタリング、人権教育動画の制作などに取り組んでいます。
 さらに、県議会では「差別解消を目ざす条例検討調査特別委員会」が設置され、2016年に施行された「差別を解消するための3つの法律」を発展させるかたちでの議論が始まりました。政治家の皆さんとも連携していけると心強く感じています。

シンポジウムはターニングポイントだった……全国的な差別の現状や取り組みの方向性

 全国各地でも深刻な差別が起きているとはっきり確認できたのは、5月23日と30日、一般社団法人「部落解放・人権研究所」が呼びかけてオンラインで開催された「新型コロナ差別を考える」のシンポジウムでした。「新型コロナ感染者や医療従事者、外国人などへの差別が全国的に増えているのではないか」として開かれました。準備期間がわずかだったにもかかわらず、全国から350人以上の参加がありました。参加者は私どものような団体、学者、有識者またHIVの当事者団体、ハンセン病に関わってきた団体等、さまざまでした。
 私はコロナ禍のなか、三重県内で起こったことや県外で起こったと聞き及んだこと、そのごく一部として下記のようなことを報告しました。

  1. 感染者や家族――ウイルス感染判明後に地方から上京した個人に対し「コロナ女」「テロリスト」「日本から追放」などSNS等への投稿が相次いだ。感染者家族がガソリンスタンドで給油した後に店長から電話があり「できれば来ないでほしい」と言われた
  2. 医療従事者・関係者や家族――夜勤後のタクシー利用を拒否された。医療従事者の子どもということで、いじめに遭った
  3. 運送業者――子の通う学校やパートナーの勤務先から長距離運転手の家族との接触を避けるよう指示があった。配達先で「あんたコロナ大丈夫? 汚いからそこ置いて」と言われた
  4. 中国にルーツのある人たち――複数の中華料理店に「中国人はゴミだ! 細菌だ! 悪魔だ! 迷惑だ! 早く日本から出ていけ」と書かれた手紙が送られた。ある小学校に「中国人を親に持つ子どもを登校させるな」という内容のはがきが届いた

 また、HIVの当事者団体、ハンセン病に関わってきた有識者からは、これまでの経過と現状の報告がありました。報告を受けて参加者が確認したことは、コロナ禍の中で同じような差別が全国的に起こっているという事実でした。
 さらに新型コロナ差別は、感染者等への差別が起こっているだけではないことも確認できたのです。平時より経済的・文化的・社会的に不利を強いられている少数者(マイノリティ)に休校、休業、自粛などの影響が集中的に厳しく反映している現状と、画一的な対策が少数派にもたらす多数派との深刻な格差の問題も、新型コロナ差別の「間接差別」として捉えていかなくてはならないことを参加者と共有しました。

「間接差別」はどのように表れているか? 政治(家)や自治体が差別を助長・扇動・誘発している可能性も?

  1. 派遣で働いていたが休業要請で真っ先に休むよう指示があったため収入が減り、生活のために前借りを続けた結果、月収5000円になった外国籍住民
  2. 休校中、三食をまともにとれなかった子ども
  3. 駅前での買い物が常だったが、休業で駅ビルが閉鎖、車椅子対応エレベーターが利用できず買い物をあきらめざるを得なかった「障害」者
  4. 休業や自粛要請によりアルバイトができなくなり、生活費や学費の支払いが滞り退学せざるを得なかった学生
  5. PCR検査を受けた時や入院することになった時に、家族と同様に扱われないおそれや不安を抱く同性パートナー
  6. 非識字により、給付金の申請手続きができない、オンラインで申請書をダウンロードできない被差別部落の住民

 等々。
 他にも、国会議員の「外国人の生活保障など必要ない」という旨の発言、国会・地方議員が医学的見地を無視し「反中国」的感情でウイルス名を呼称する、ある知事は「生活保護受給者は給付金の対象外」という旨の発言をする、文部科学省は生活困窮の外国人留学生に対し成績上位3割程度に限定し給付金を支給する方針を出す、風俗業界を補償の対象から除外する、自治体が朝鮮学校にはマスクを配布しないことを一時的に表明した等、どれもこれも深刻な問題を招き寄せたのです。
 これらに合わせ、営業自粛や休業に乗り出さない店名を公表するという法律を逸脱した行政の対応等により、中国にルーツのある人々や在日コリアンへの差別が激化したと見ています。「自粛警察」が生まれてきたことを考えると、政治(家)や自治体が差別を助長・扇動・誘発したとも見ることができ責任は極めて大きいと言わざるを得ません。

コロナ差別は政治政策の不備からも増大した、国への要望書提出へ

 同時に、休業や自粛の要請と並行して講じられるべきであった補償が不十分であったことで、人々の経済的ストレスを高め、本来、国や政府に向けられるべき怒りや不安が前述した政治(家)や自治体の「誘因」により、罹患者や関係者、中国にルーツのある人や在日コリアンを「感染対策を怠った人、感染拡大の可能性をもつ加害者、自分たちの生活を脅かす者」と設定させ、差別や人権侵害が引き起こされたと私たちは分析しています。
 新型コロナの影響は日本全土に降り注ぎ、「みんなが困っている」ことも、その困り度合いが日常的に不利な状態に置かれてきた少数者には、より深刻に表れています。そこに何の補償もないまま日常へと戻しました。
 6月中旬から「自粛から自衛へ」という方針が打ち出され始めました。「自己責任の強調」は加害行為でしかなく、さらに差別を広げていくと考えています。
 このシンポジウムの成功を受けて、全国的に共有し確認した内容をまとめ一般社団法人「部落解放・人権研究所」では、直接差別や関節差別の現状と課題をまとめ、内閣総理大臣をはじめ、各大臣宛てに「新型コロナウイルス問題にともなう差別・偏見の防止、救済を求める要望書」を提出しました。

「沈静化」後にこそ問われる「反差別」の連携を

国には法整備を求め、差別解消の行動につながる実践を始めよう

 国は差別解消への実効性のある法整備を進める必要があります。まず法律で差別を禁止することがその第一歩です。そのためには差別とは何かの定義が必要であると同時に、立法事実となる差別の実態を把握すること、コロナ感染者などがどのような被害を受けたのか、ネットの中でどのような差別が繰り広げられたのか、市民のなかにどのような差別意識が根差しているのか等を明確にしなければなりません。
 コロナの影響はオンラインでの人権啓発、教育の可能性を広げたと考えています。動画や教材の制作と掲載や投稿、SNSを活用した差別投稿抑止や人権啓発、既存差別問題の解決を含めた積極的な市民啓発などが必要です。
 これまで感染症罹患者の人権が踏みにじられた教訓から、患者の権利保障の条文も不可欠なものになります。このような取り組みは国に求めるだけでなく、地方自治体での条例制定も視野に入れて進めることが重要です。
 市民レベルにおいても、差別や偏見の除去に尽力していかなければなりません。医療の問題を差別の問題にせず、差別によって適切な治療や補償、あるべき社会包摂を受ける権利を奪うことがあってはならないことは言うまでもありません。
 「自分は差別をしていないからよい」では差別に加担する結果を招きます。この考え方は、なお残る差別を持続させ、差別を受けている少数者に差別解消の責任を押し付けることになります。
 この社会は私たち一人ひとりで構成されている以上、差別が現存する社会ではすべての人が「当事者」です。差別を解消する社会システムを構築するとともに、一人ひとりが自身に関わる問題として引きつけ、自分にできることを考え、今よりもう一歩、差別解消につながる行動を実践することが求められています。

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