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[コロナ危機] コロナ危機の時代をどう生きるか

武器ではなく人、子育てや教育こそ最重要

日中友好協会会長 元駐中国大使
伊藤忠商事名誉理事 丹羽 宇一郎

 新型コロナウイルスの感染拡大について、「パンドラの箱が開いた」とよく言われるが、この中から出てきた新型コロナウイルスの正体はいまだにハッキリ分からない。いわゆる「専門家」といわれる人たちが口にするのは、感染者数や亡くなった人数など、すでに終わった話ばかりで、どうなるのかは誰も言ってくれない。
 また、この新型コロナの感染拡大を防ぐために、「『3密』を避けましょう」と言われています。しかし、毎日電車通勤をしなければいけない人たちや、買い物をする人、そうしたところで働く人たちにとって、この「3密」を避けるのは大変難しいことです。
 これからは「ウィズコロナ」です。「コロナと共に」にということです。ワクチン開発の成否も分からないなかでは、新型コロナウイルスに対する免疫を高めるしかありません。そうして免疫を高めた世界でコロナと共生・共存していかざるを得ない時代が確実にきます。

■まるでジャングルのような「弱肉強食」の世界に

 人間というのは、生まれたときから集まることが大好きです。人が集まることによって、人間は育ち、社会や技術も発展させてきました。ところが今、これをやめろと言っているわけです。しかし、一人ひとりが孤独、孤立してしまったら、何一つ発展しません。基本的に人が集まることは避けられません。人間というのは必ず集まります。
 ノーベル賞の山中伸弥さん(京都大学iPS細胞研究所所長、2012年にノーベル生理学・医学賞を共同受賞)も話されているようですが、新型コロナウイルスについて現時点で明らかになった事実をみんなにオープンにして、できるだけ社会全体、日本全体、世界全体で情報を交換しながら、このワクチン開発や感染の拡大防止対策をしなければいけません。
 ところが今、世界はトランプ米大統領をはじめ、まったく逆のことをやっています。各国間の対立が目立っている。こんなことで世界がよくなるわけがありません。
 また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、経済でも需要と供給がシュリンク(縮小)しています。売り上げがシュリンクしたら、今度は人びとの給料も減るわけだから、需要もさらに減る。それだけ利益も減る。そうなると需要が蒸発してしまい、また、部品の供給も途絶えて、サプライサイドとしては供給が滞り、サプライチェーンの見直しを進めざるを得なくなっている。これが今の世界の姿です。そして、これはすべて人間がやっていることです。
 今は、皆で仲良く、情報を交換して、世界のために集まって、モノをつくり出して、需要もつくり出し、供給も増えるということをやらないといけないはずです。いっぺんにはうまくいかないでしょうが、その努力が必要です。ところが、全部逆をやってしまっています。そんなことでどうして、世界がよくなるんですか。
 そして、貧乏人はますます貧乏になって、金持ちはますます金持ちになっています。だって、供給も需要も全部減っていくなかで、貧乏人と金持ちの所得が同じように減ると思いますか。格差の拡大は、国々の間、国の中、全世界を覆っています。損するのは誰ですか。貧乏人です。つまり、世界がジャングルのような「弱肉強食」のようになっている。
 核兵器の問題一つ取ってみても、日本が北朝鮮などに「核放棄」を求めている。しかし世界は、他国よりも一発でも多く核兵器を持って優位に立とうとするのです。そんな理不尽なことがあるのに北朝鮮が言うことを聞くはずがない。アメリカの「核の傘」に入り、「守って」もらいながら、日本がそういうことを言うのはおかしな話です。

■「戦争に近づく」な

 最近、ホンダに対するサイバーアタック(攻撃)が報じられました。誰が攻撃を仕掛けたか分かっていません。そのうちに戦争の形も大きく変わって、基地を造ったり、武器をアメリカから大量に買ったりすることは役に立たなくなります。
 ところが、安倍政権は沖縄・辺野古への新基地建設を進めたり、イージス・アショアは中止するようですが、アメリカから大量に戦闘機を購入することを約束したり、「トゥキディデスの罠」ではありませんが、戦争に近づいています。私がいちばん腹を立てていることです。
 私が言うのは、「戦争に近づくな」ということです。戦争をやったって、何の役にも立たない。ところが、安倍政権は戦争に近づくようなことばかりにカネを使っています。意味がないのは子どもでも分かることです。
 そうではなく一人ひとり自分がやっていることが社会のためになるか、人びとのためになるかと自ら問いながら、共感を一人でも得られるようなことをやるべきです。だから、こんなときに、基地を造ったり、中近東に自衛艦を派遣したりするようなことをやっていれば、それは戦争に近づいている以外なんと言うのでしょうか。

■人こそ国の礎

 最後に、言いたいのは孔子が言った言葉です。孔子は政治の要諦として、「武器」「食糧」「信用」 という三大要素を挙げました。しかし、その順番は同列ではありません。この3つのうち何が大事かと問われた孔子は、「いちばん大事なのは、信用つまり人間なんだ」と言ったそうです。二番目が食糧で、三番目に武器がきます。
 まったくその通りで、国の最大の資産は人間です。人間があって、はじめて国は強くなり、発展するんです。ところが日本では合計特殊出生率がわずか1・36です(19年)。政府は「希望出生率」の目標を1・8としているにもかかわらず何もしていません。
 今年生まれた人がちょうど働き手となる20年後、世界で働き手の数が人口比でいちばん少ないのはおそらく韓国で、2番目に少ないのが日本です。現在、先進国といわれる三十数カ国のなかで、14歳以下で、まだ働き手ではない「少年時代」に区分けできる人の比率は日本が12・4%です。韓国は12・0%しかいません。日本と韓国は20年たっても、この層の人は増えません。20~30年も過ぎると、65歳以上の年寄りが40%近くなり、そのときに少年が12・4%であれば、働く人が二人に一人しかいないということになります。
 だから、国を守るのにいちばん大事なものは武器じゃない。人間です。政治家などが「人は国の最大の資産です」などと言いますが、よく言うねと思います。「最大の資産」と言いながら、何も実効ある対策をしない。ところが、アメリカから武器を買うことばかりにお金を使っているじゃないですか。教育や子育てにもっとカネを使わなくては日本はますます元気のない、弱い国になることは間違いないですね。
 これは孔子が言ったこととまったく逆で、最悪のパターンです。このことをぜひ、読者の皆さんの頭の中に入れてほしいと思います。そして、日本の政治家にも聞かせてやってください。

(丹羽宇一郎さんに6月12日インタビューし、原稿にまとめたもの。文責編集部)