コロナ禍、米中冷戦激化の中 日米安保条約60年

自主・平和、アジア共生の進路こそ急げ!

『日本の進路』編集部

 6月23日、現行日米安保条約発効60年を迎える。安倍晋三首相は、祖父である岸信介元首相が60年前条約に調印した1月19日、「100年先まで、日米同盟を堅牢に」とアメリカに誓った。
 日米安保条約に基づく日米同盟と米軍駐留は、日本の国家主権を著しく損ない、国民のいのちと安全を脅かしアジアの平和の脅威となってきた。日米同盟に組み込まれた自衛隊は、湾岸戦争やイラク侵略戦争、いま中東や南シナ海などへと、派兵が常態化している。
 コロナ禍で世界経済危機は1930年代以来の大恐慌となり、世界中で貧困化がいちだんと進み、国内対立も、各国間対立も激化している。とくに米中冷戦は新たな局面となり、東アジアの緊張は著しく高まっている。日本の安全保障環境は激変した。
 米国とともに中国敵視で緊張をあおってはならない。中国や韓国・朝鮮、さらにはASEAN諸国などとともに東アジアの平和な協力関係強化こそが、わが国がとるべき進路である。そうでなくては米中激突の中で、わが国は重大な事態に直面することになる。
 コロナ対応に追われる毎日だが、自主的で平和な国の進路の実現に向けて国民世論形成を急がなくてはならない。

日米安保に縛られた現実を改めて直視すべき

 コロナ感染症対策は全国民の喫緊の課題である。
 ところがそのさなかに政府は4月21日、辺野古新基地建設での軟弱地盤改良工事に伴う設計変更をコロナ対策に追われる沖縄県に申請した。供用まで少なくも12年、総経費は9300億円を予定、これこそ不要不急の典型だ。本誌で、野添文彬准教授が怒りを込めて書いている
 しかも政府はこの先12年間も普天間飛行場の米軍使用を認める。約束通り即刻、普天間飛行場を閉鎖しろ。その普天間飛行場から4月11日、有毒の消火剤が宜野湾市内に大量に流出し、土壌や河川、海域を汚染、市民を不安に陥れた。だが県は日米地位協定に妨げられて調査すら満足にできない。米軍人と家族には入国管理も検疫もなく海外と行き来自由で、コロナ感染の実態すらも沖縄県は把握できない。しかも米陸軍兵2人が5月12日、北谷町の両替所で強盗、容疑が特定されたにもかかわらず沖縄県警は身柄拘束できない。これが日米安保下の沖縄の現実だ。
 隠されているが沖縄以外の全国も本質的には変わらない。条約で米軍は全国どこにでも基地をつくれるし、海も空も自由に使える。
 3月29日、東京・羽田空港に離着陸する新ルート運用が始まった。これに対して世界の航空会社が加盟する国際航空運送協会(IATA)が、「世界の空港に例のない特別な操縦技術を求められる」と危険性を指摘、変更を迫った。東京の空は、米軍が握っていてわが国の自由にならず、その空域(横田空域)を避けるため無理な急角度で着陸させるルート設定になった。
 しかも東京の周辺には座間(陸軍)、横須賀(海軍、ともに神奈川県)、横田(空軍、東京都)などの米軍基地が配置され、包囲して睨みを利かしている。これが首都東京、日本の現実である。
 こんな独立国は世界を見ても他にない。亡くなった翁長雄志前沖縄県知事が「日本国憲法の上に日米地位協定があり、国会の上に日米合同委員会がある」と厳しく現状を摘発したとおりである。

近隣諸国との共存、経済繁栄も妨げられている

 外交も自由でなく、対中国、対朝鮮・韓国など、また、対ソ(ロ)外交、北方領土問題など、戦後今日まで日本には真の自主外交はなかった。
 「拉致問題は政権の最重要課題」などと言っていた安倍政権の対朝鮮政策がトランプ政権次第だったことは誰の目にも明らかだ。世界の流れに逆らって、日朝関係にはいまだ国交もない。日韓関係は、辛うじて国交を結んだ1965年の日韓基本条約の時も両国ともアメリカに縛られていた。日本はアメリカに免罪されて植民地支配の非を認めず謝罪せず反省せず今日まできている。今日の日韓関係の諸困難の根源はここにある。
 対中国外交では、習近平国家主席の国賓来日問題を見てもそうだが、安倍政権はアメリカとの違い、「自主性」を出そうとしている。財界が巨大な中国市場に引き寄せられていることと無関係ではあるまい。魂胆は別に悪いことではない。だが、わが国の外交・安全保障政策は中国を事実上の「仮想敵国」としている。日米軍事一体化で中国軍封じ込めを狙い、南西諸島への自衛隊基地建設が強行されている。米軍は、中距離ミサイルの日本配備を南西諸島などで準備している。しかも安倍政権は、台湾を「国家」として扱う策動を露骨に強め、「台湾有事」に備える。
 これでは、尖閣諸島問題などで「過剰反応」する根拠が中国側にもあることになる。島々がわが国の領土であることは言うまでもない。譲ってはならないが、それは日中関係の一部にすぎない。中国は対米関係もあり、近隣諸国との関係を重視しているはずだ。日中両国は、どちら側から見ても重要な隣国に違いあるまい。日本には対米関係に縛られない自主的な外交が必要である。
 経済面も、戦後すぐにアメリカの余剰農産物を押し付けられ、以来、輸入自由化で農林業は徹底的に犠牲にされてきた。いま、コロナ禍の中で改めて食料安全保障が問われている。ところが政府は、農産物の種子に続いて種苗もグローバル種子企業に売り渡す種苗法改定を今国会に提出している。
 グローバルサプライチェーンの部品産業などもそうだが、真に国益にかなう、自主的な経済安全保障政策が問われている。中国封じ込めであってはならない。そもそもわが国製造業は、繊維から始まり鉄鋼、電機、自動車など対米輸出は目の敵され、貿易摩擦が続いてきた。いまはアメリカの対中経済制裁で大きな打撃を受け、コロナが追い打ちをかけている。アメリカは日本の対米自動車輸出にも制裁関税を準備している。
 日本が経常黒字になってからは日米の金利差が意図的に政府日銀によってつくられ、日本人が汗水たらして稼いだ富はアメリカに吸い取られた。直接にもわが国政府は米国債を世界一買うなど貢いできた。「マネー敗戦」である。いまは、不要不急の武器爆買いでアメリカ経済を支えている。
 これが日米安保の下にある日本の、国民生活が徹底的に犠牲にされている現実だ。こんな日本がこの先100年も続いたら一体どういうことになるか。
 米国覇権の時代は劇的に終わりつつある。自民党の国会議員の中からも「安保条約見直し」論が公然と出るようになった。

ポストコロナ 米国覇権の時代は終わる

 アメリカはイギリスに代わって世界覇権を握るために第二次世界大戦を巧みに立ち回った。戦争終結の前年1944年7月、ドルを世界の基軸通貨とし、IMFや世界銀行などの機構をもったブレトンウッズ体制を成立させた。核軍事力がそれを裏打ちした。アメリカは戦後世界の覇権を握った。
 しかし時はたち、公的金準備の70%以上、世界の鉱工業生産の60%近くを独占した戦後直後のアメリカの姿はとうの昔である。他方、当時は見る影もなかった中国が、いまや、GDP(購買力平価)で2013年にアメリカと並び、24年には1・5倍を超えるとIMFは予測する。コロナパンデミックでもっと差は開くだろう。この経済力の違いに国際関係は基礎づけられている。
 先進国と新興国などそれ以外の国々との経済的力関係も、大国間の力関係も大きく変わり、各国間の対立は激化している。
 アメリカ主導の「国際協調」は過去のものとなっている。感染症対策で奮闘するWHOをアメリカが攻撃し足を引っ張っている。先進国クラブのG7も「協調」の演出すら困難になっている。
 グローバル経済で、富の不平等は極度に進んだ。今日、アメリカ国内では多くの国民は貧困化し国民に医療すら満足に提供できず、コロナ感染症での死者数世界一の国になっている。国内対立は著しく激化している。
 パンデミックは、現在世界の諸矛盾を暴き出し、激化させている。折しも世界では、デジタル化を中心とする技術革新が一気に進み、新しい社会を引き寄せている。歴史上の「疫病」と同じように世界史は転換点を迎えている。現存するものは現状にとどまれない。
 戦後日本を縛ってきた日米関係、日米安保条約も例外でない。

だが、アメリカは黙って引き下がらない

 そうした中でトランプ米大統領は「われわれが経験した中で最悪の攻撃だ」と中国への敵愾心をあらわにしている。大統領選挙を目前にして、この大惨事の責任を転嫁し劣勢を挽回しようとしているが、対中強硬論は「トランプ大統領だから」ではない。
 ドル帝国を維持するための自国ファーストの国策は、民主党のバイデンだろうが誰が大統領になろうが変わらない。アメリカが北米大陸の一大国におとなしく黙って引き下がることはあり得ない。
 策略の限りを尽くして世界帝国を維持しようと画策する。日中間対立など、周辺国同士を争わせようとしている。中国の内政である香港にも手を突っ込み、台湾との関係を強化して独立国のように扱うなど、攪乱を狙っている。米海軍艦隊の台湾海峡通過作戦、南シナ海では「航行の自由作戦」を強化するなど軍事圧力も強めている。とくに、5G(第5世代移動通信システム)を巡る技術覇権争奪が激化、中国経済発展の腰を折ろうとしている。
 他方中国は、コロナ禍をいち早く乗り越え(もちろん、第2波、第3波があるが)、「健康シルクロード」などと外交攻勢に出ている。軍事面でもアメリカに対抗している。しかし基本的に「時は味方」と長期戦を構えている。デジタル人民元の実験も始めている。
 こうして世界は「新冷戦」が激化している。それが熱い戦争に転化するか否か。全面戦争かどうかは別にして、かつての冷戦でも「代理戦争」などが繰り返された。新時代は、ハイテクや情報、サイバー、宇宙などが戦場であり、すでに激化している。
 米中どちらも最悪の事態も考慮に入れながら対処し始めたという。不測の事態はいつでもあり得る。巨像2頭が争う時、アジアはなぎ倒されかねない。

対米従属見直しは急務

 アメリカの覇権が終わる時代、日米安保条約に縛られた日本は持続不可能である。コロナ後を見据えて新しい時代をどう生き抜くか、大企業も含めて模索が進んでいる。これが時代の流れである。
 ところが中国を恐れる安倍首相や麻生副総理に象徴される反動的な支配層は、アジアに覇をめざしていわば「大東亜共栄圏」を夢想する。安倍首相は哀れにもアメリカに頼って中国に対抗しようとしている。アメリカは日本を助けるつもりはないが、武器を売りつけるには好都合である。日本の軍事大国化は中国牽制にもなる。だが、軍事費負担増で国民が殺される。
 核大国アメリカですら大幅後退を余儀なくされる新しい世界である。時代錯誤も甚だしい。
 軍事力だけでなく平和・自主外交を中心に、感染症対策や食料安保、エネルギー安保などを含む総合安全保障政策が求められる。とくに、わが国の繁栄は、アジア近隣諸国との平和的共生だけが約束する。求められるは日中同盟ではない。中国やASEAN諸国を含む東アジア諸国の共同体である。
 この問題を棚上げしてはもはやわが国の前進はあり得ない世界となっている。世界は激変のさなかにある。広く国民的な議論を起こすよう呼びかける。国民的戦線構築を急がなくてはならない。