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[安保条約60年の現実] 日米戦争同盟へと変貌する日米安保

戦争のできる国を目指す安倍政権

ジャーナリスト 吉田 敏浩

 今年は安保改定から60年の節目にあたるが、安倍政権のもとアメリカに追従しながら「戦争のできる国」への動きが加速している。安倍政権は違憲である集団的自衛権の行使を強引な解釈改憲によって容認した。専守防衛の原則を捨て、集団的自衛権の行使などにより、自衛隊が海外で米軍の補完戦力として参戦できるための安保法制つまり戦争法制も整備した。憲法9条を変えて自衛隊を明記し、実質的に戦争ができる軍隊に変えることも企てている。
 米日同盟を米英同盟のような共に〝血を流す〟同盟へと変えたいアメリカの戦略と、それに呼応して軍事大国化を目指す安倍政権の思惑が合致している。軍事予算(防衛予算)は増え続け、アメリカからの武器購入も増加し、自衛隊の軍備は拡大する一方だ。
 日本の侵略戦争や植民地支配の加害の歴史と戦争責任を否定する国粋主義も広がりを見せ、侵略戦争の反省に基づく平和憲法を否定する改憲の動きと連動している。
 日米安保・日米同盟は、軍事同盟として今や「日米戦争同盟」の本質をあらわにしている。安保法制は、自衛隊の米軍への協力を地球的規模に拡大する「新たな日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)に基づいている。同指針は、集団的自衛権の行使を前提に、アジア・太平洋地域をはじめ地球的規模の「切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な日米共同の対応」を目指し、自衛隊による米軍の武器等装備の防護(軍艦の護衛など)、捜索・救難、後方支援(兵站)などを実施するとした。
 つまり世界中どこでも米軍の戦争に自衛隊が協力する体制を構築するのが目的だ。本来の日米安保条約の枠組みを大きく逸脱している。自衛隊は海外で米軍など外国軍のための兵員や武器などの輸送、弾薬の提供、燃料などの補給、装備の修理・整備、基地などの建設、通信、負傷兵の治療、捜索救助活動など、幅広い軍事支援ができる。集団的自衛権を行使する場合は、武力行使すなわち米軍とともに戦闘をすることになる。
 安倍政権は、輸送や補給などは後方支援と称しているが、軍事用語では兵站と呼ばれ、武力行使と切り離せない。活動中に攻撃されれば、中止して撤収する前に防戦せざるをえない。結果的に戦闘状態となる。それは安倍首相も国会答弁で認めている。捜索救助活動は戦闘地域で行う。米軍の装備の防護をすれば戦闘につながる。まして集団的自衛権行使の場合は、文字通りの参戦である。いずれにしても流血の戦場に立つことになる。

自衛隊と民間の動員体制

 自衛隊は安保法制=戦争法制による米日共同軍事作戦に向けて、地球的規模で戦争のできる組織に変貌しつつある。テロ対策特措法によるインド洋派遣と、イラク特措法によるイラク派遣では、米軍への兵站すなわち戦争協力の実績を積んできた。インド洋では、アフガニスタン空爆作戦をする米軍艦に洋上給油をした。イラク派遣の自衛隊輸送機は、武装した米兵など多国籍軍の部隊を多数運んだ。
 自衛隊の米軍支援は、戦争への協力・加担である。米軍の武力行使で殺傷されたイラクやアフガニスタンの人々に対して、日本は間接的な戦争の加害者の立場にある。自衛隊は機動力・輸送力・攻撃力を高めるため装備の大型化・高性能化を進め、ヘリコプター空母、大型補給艦、大型輸送艦、空中給油機、水陸両用強襲車両、F35ステルス戦闘機などを配備した。オスプレイや敵基地攻撃能力を持つ長距離巡航ミサイルの導入、「いずも」「かが」の空母化も決まっている。
 自衛隊は、イラクやアフガニスタンで戦闘してきた米軍と実戦的な共同訓練・演習を積み重ねている。安保法制により自衛隊ヘリ空母が、朝鮮半島沖へ向かう米軍補給艦を防護する任務も実施した。トランプ政権とイランの対立が深まるなか、ホルムズ海峡周辺を含む中東に自衛艦も派遣した。アメリカとイランの武力衝突が起きたら、戦争に巻き込まれるおそれがある。
 自衛隊が海外で米軍とともに戦争をする事態になれば、事は自衛隊の段階にとどまらない。自衛隊の海外派遣の際には、輸送、装備の修理・整備、通信機器の設置・調整、物資の調達などの面で、民間企業のサポートが必要不可欠だ。陸上幕僚監部の『イラク復興支援活動行動史』には「総輸送力の99%を民間輸送力に依存」とある。
 これまで、自衛隊のイラク派遣やインド洋派遣などでも、さまざまな業務を民間企業が受注して、自衛隊の活動を支えてきた。安保法制でも、自衛隊だけで米軍などへの支援が十分にできない場合は、民間企業などにも協力を依頼できると定めている。
 民間企業による自衛隊や米軍への協力を定めた安保法制に対して、航空機乗務員、船員、鉄道員、トラック運転手、港湾荷役作業員、医療などの仕事に従事する労働者からなるさまざまな労働組合は反対してきた。軍事支援にあたる業務を命じられた労働者が、戦争やテロに巻き込まれる危険性が高いうえに、戦争への協力・加担を強いられるからだ。
 自衛隊のインド洋派遣とイラク派遣に際し、自衛隊は装備の修理・整備や物資の輸送などの業務に関して民間企業と契約を結び、企業の技術者・労働者が中東方面に派遣されてきた。自衛隊が企業に依頼し、企業が従業員に業務命令を通じて出張させる方式だ。
 輸送関連では、日本とクウェート間の人員・装備の輸送、クウェートとイラクの陸上自衛隊サマワ宿営地との間のコンテナ輸送などを、主に日本通運が請け負った。
 自衛隊装備の修理・整備関連では、イラク・クウェート間で米軍部隊などを空輸していた航空自衛隊のC130輸送機の整備、航空自衛隊市ヶ谷基地と現地を結ぶ衛星送受信装置の設置、爆発物の有無などを検査するコンテナスキャナの整備、路肩爆弾に妨害電波を発して起爆させない装置の取り付け、海上自衛隊の護衛艦の対空レーダーや操舵装置の修理などが実施された。イラク派遣に際して計14回、延べ39人の企業の技術者がクウェートなどに派遣され、インド洋派遣に際して計25回、延べ77人の企業の技術者がインド洋・アラビア海・ペルシャ湾沿岸の諸国に派遣された。防衛省・自衛隊は特定の企業に対し、修理・整備などの契約を結ぶ前から派遣要員名簿の提出などを要請していた。
 このように契約を通じて、海外で米軍に戦争協力をする自衛隊への、企業による支援態勢がつくられてきた。企業の従業員は業務命令を通じて、戦争協力の一環に組み込まれた。事実上の動員体制がひそかに築かれてきた。それは、安保法制によって自衛隊の海外での軍事活動がより拡大した場合も活用されるだろう。
 防衛省はこうした民間労働者の派遣がテロに巻き込まれる危険性を認識し、事件が起きた場合は「企業内の労使関係で処理すべき問題」としている。防衛(軍需)産業の企業では、〝戦地出張〟ともいうべき危険な業務に対して疑問の声も上げられない、もの言えぬ職場と化しているのが実態である。

アメリカの戦争に利用される

 在日米軍基地はベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン攻撃、イラク戦争などで、米軍の出撃・補給・訓練などの拠点として利用されてきた。たとえばイラク戦争では、横須賀基地を母港とする空母や巡洋艦などがペルシャ湾に出動した。空母艦載機が5000回以上出撃し、約390トンの爆弾を投下、巡洋艦と駆逐艦からは巡航ミサイルを約70発発射した。沖縄の基地からは海兵隊の部隊がイラクに派兵された。
 日本政府は米軍基地からの戦争への出撃を容認している。安保条約で定めた「極東」の範囲を超えているにもかかわらずだ。外務省北米局日米地位協定室に聞くと、「米軍部隊が日本の領海や領空を出た後、移動した先でどんな任務につくか、日本政府は関知しない。安保条約にも抵触しない」と答えた。安保条約に背く米軍の出撃を正当化する無責任な見解だ。
 米軍の武力行使によりイラクなどで多くの人命が失われ、人々が傷ついた。米軍基地のための駐留米軍関係経費として、日本は年間約8000億円の国費つまり税金を支出している。米軍に自由勝手な基地使用と訓練などを認め、出撃を容認し、基地のための国費を支出することで、日本はアメリカの戦争に加担し、間接的な加害者の立場に立っている。
 この先、日本は土地や空や海を軍事利用され、駐留経費というカネを搾り取られるだけでなく、米軍の補完戦力として自衛隊が海外の戦地で手足のように使われ、日本人の血まで搾り取られかねない、危うい状況にある。米軍の基地使用と軍事活動を認め、その費用まで払うことで、ベトナム戦争やイラク戦争などで間接的な加害者の立場にあったのが、今度は直接の加害者にまでなりかねない。
 さらに日本にアメリカの核兵器が配備され、核戦略の拠点とされるおそれもある。トランプ政権は「INF(中距離核戦力全廃)条約」を破棄した。同条約は1987年にアメリカとソ連の間で調印。射程500~5500キロの地上発射型弾道ミサイル、巡航ミサイルを全廃するとしたものだ。
 現在、アメリカはロシアや中国の核戦力に対抗するとして、中距離ミサイルの日本配備を計画しているといわれる。地上配備だけではなく、横須賀や佐世保やホワイトビーチの基地に寄港する原子力潜水艦にも搭載されるだろう。核弾頭が搭載されるおそれもある。
 トランプ政権は「使いやすい小型の核兵器」として潜水艦発射弾道ミサイルに核弾頭を搭載して配備した。また、潜水艦や水上艦への海洋発射核巡航ミサイルの配備計画も発表した。
 日米核密約は廃棄されていない。横須賀など在日米軍基地への核持ち込み再開が懸念される。基地は攻撃対象でもあり、地域住民も巻き込まれる。日本がアメリカの限定核戦争計画の前線基地にされ、アメリカを守るための盾として、捨て石のように利用され、犠牲を強いられるおそれもある。このような「日米戦争同盟」への変貌を許してはならない。詳しくは拙著『日米戦争同盟』(河出書房新社)をご覧ください。