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[安保条約60年の現実] 石垣島・陸自ミサイル基地に反対する

自衛隊配備問題に揺れる島

沖縄県議会議員 次呂久 成崇

はじめに

 沖縄県にあるアメリカ軍の普天間飛行場の移設計画をめぐり、名護市辺野古の沿岸部を埋め立てることについて賛否を問う県民投票が2019年2月24日に投開票され、反対票が投票総数の7割を超えた。玉城デニー氏が18年の県知事選で当選した際に集めた過去最多の得票をも超えており、辺野古への移設に反対する県民の強い「民意」を改めて示したこの県民投票は全国のマスコミでも取り上げられた。
 ところが、沖縄県内でのもう一つの住民投票の実施を求めた運動については、あまり知られていないのではなかろうか。沖縄本島からおよそ400㎞離れている石垣島は今、陸上自衛隊配備問題で揺れている。
 辺野古新基地建設は、県民投票で投票総数の7割を超える反対の民意が示されたにもかかわらず、今なお工事が強行されているが、石垣島の平得大俣への陸上自衛隊配備計画は、島に住む人たちが自衛隊配備計画の賛否を示すことができない状況にある。
 自衛隊配備についてはさまざまな意見があるということは承知している。しかし、石垣島はこれまで基地がなかった島である。基地がなかった島に基地ができる。このことは地域住民の日常生活に大きな影響を与え、大きく変わっていくのは間違いない。
 石垣島への陸上自衛隊配備計画は、防衛省が中国をにらんだ南西諸島防衛強化の一環として陸上自衛隊の基地を建設する計画である。配備予定地は島中央に鎮座する於茂登岳の麓、平得大俣地域で予定地全体の面積は47‌ha。そのうち市有地は約22・4haに及ぶ。防衛省は、配備予定地の民間地を先行取得し、昨年19年3月から土地造成工事を始めている。
 石垣市議会は、20年3月2日に平得大俣の市有地13・6haを防衛省に売却する議案を賛成多数で可決した。貸し付けする市有地8・8haとともに19年度内に防衛省と契約を締結する予定である。

配備ありきの防衛省と石垣市長

 2015年11月26日、当時の若宮健嗣防衛副大臣は、石垣島の陸上自衛隊配備予定地を島の中央部にある開南集落から西に500m離れた市有地が多く含まれる場所を候補地としたこと明らかにし、中山義隆石垣市長に早期配備への調査協力を要請した。
 配備計画は、隊庁舎や射撃場、火薬庫などの建設を予定し、警備部隊や地対空・地対艦のミサイル部隊で500人~600人程度の規模となることを公表した。配備予定地周辺の於茂登、開南、川原、嵩田地区の住民は、「寝耳に水」と驚き、配備計画反対を決議し、反発を強めた。
 そして、この協力への要請を機に、配備反対運動も具体化していった。同年8月20日に「自衛隊配備を止めるため、保革の立場を問わず、基地のない安心して暮らせる、自然・文化豊かな島を残すために力を合わせよう」と「石垣島への自衛隊配備を止める住民の会」が個人加盟の運動体としてスタートした。
 のちにこの「止める会」と配備予定地近隣の4公民館、労組、平和団体、市民団体、野党市議、個人で組織する「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」が発足し、運動が広がっていったのである。

沖縄県環境影響評価(アセスメント)条例改正と防衛省のアセス逃れ

 2017年11月、沖縄県は県環境影響評価(アセスメント)条例を適用する対象を広げる改正案をまとめた。事業目的にかかわらず20‌ha以上の土地造成にアセス手続きを求める内容の条例を改正する方針を示した。
 改正されれば米軍や自衛隊の基地建設でも3年以上のアセスが必要となり、石垣島への陸上自衛隊配備計画にも影響が出る可能性が生じた。
 しかし、年度内着工なら県環境影響評価条例の適用外となるため、防衛省は18年3月1日に全体の土地造成予定面積約29‌haのうち、予定地進入路に位置する0・5haの造成工事を始めると通知してきたのである。
 配備予定地の平得大俣地区は、沖縄県の最高峰である於茂登岳の麓にある。於茂登岳は、古くから霊山として島の信仰の中心的存在であり、石垣島の生成過程をうかがわせる自然科学的にも、観光資源的にも貴重な地区である。この地区の土地利用を改変する場合は、それがもたらす自然科学的・社会科学的諸影響について慎重な判断を行うことが不可欠となるということが専門家から指摘されている。
 また、平成19年度に環境省が作成した報告書では、この予定地一帯は、国指定特別天然記念物のカンムリワシの営巣の可能性が最も高いランクと表示され、実際に生息が確認されている。
 さらに、環境省のレッドリストに記載されている10種、そして沖縄県のレッドリストに記載されている20種、特に絶滅危惧種のカンムリワシ、キジバト、カラスバトも確認されており、島の生態系にとっても重要な場所なのである。
 県環境影響評価(アセス)条例をすり抜け、地元住民や専門家から地下水汚染やカンムリワシ営巣活動への懸念など、水系や動植物など自然環境への影響を危惧するが、その声は置き去りにされている。

石垣市長と石垣市議会の動き

 中山市長は2018年3月の市長選で3選された。だが、選挙戦では陸自配備計画への賛否を明らかにしておらず、配備に反対する予定地周辺住民との対話を重視する考えも示していた。
 同年9月の市議選では、配備賛成の自民や慎重姿勢を示す公明などの与党が過半数を確保した。しかし賛成する議員の中でもこの配備予定地には否定的であったり、地域住民の合意形成を主張したりと温度差があり、配備計画に賛成か反対の民意が明確に示されたとは言えない。
 しかし、中山市長は、この市議選結果を受け、「配備に関しては民意が出た」との認識を示し、配備予定地の半分を占める市有地の処分についても与党内で調整がつき次第、売却に向けた議案を提出する考えを示したのである。

住民投票を求める運動の始まり

 「地域住民が本当に配備を必要としているか、島の将来を左右する問題だからこそしっかりと意見を聞くべきだ」と、地域住民が声を大にしているのに手続きは加速する。
 このような石垣の市長と市議会与党の動きに対し、「島づくりの未来」に関わる重要なことだから「島で生きる、みんなで考えるから、大切なこと、だから住民投票」と、若者たちをはじめ多くの市民が住民投票条例制定を求めて「石垣市住民投票を求める会」を発足させ、地方自治法ではなく市の自治基本条例にのっとり署名行動を起こした。
 その結果、地方自治法が定める必要署名数50分の1(約800人)以上を大きく上回る1万4263筆の署名数となった。この数は、条例制定に必要な署名数の約20倍、有権者の4分の1以上である。
 だが、2019年2月の石垣市議会で住民投票条例案は可否同数となり、議長専決で否決を決めたのである。その後、住民投票を求める会は幾度となく石垣市長や担当部局と面談したが、「条例に明記されている市長の実施義務」を主張する求める会と、「議会で否決されたことで署名効力は消滅した」とする行政の見解は一致しなかった。そこで同会は、その年の9月19日に市を相手にし、本条例に基づいた住民投票の実施義務付けを求める訴訟を起こしたのである。
 すると石垣市議会与党は、「石垣市自治基本条例」の見直しを審議する同市議会調査特別委員会を設置し、19年11月26日の第5回会合で、計5時間審議しただけで「同条例」を「廃止すべきだ」との結論を出したのである。「自治体の憲法」とも呼ばれる自治基本条例が議会からの動きで廃止されれば全国初とみられ、12月定例会での大きな争点となった。
 廃止理由について、市議会与党は「05年の条例制定時にしっかりと議論していない。全会一致で誕生するべきであった」「理念をあえて条例で定める必要はない」などと述べているが、彼らが同条例で最も問題視しているのは、「国及び沖縄県との対等立場で相互協力の関係に基づいた自律的運営を図り、自治体としての自立を確立する」と規定する同条例第3条第2項である。
 「国の事務である陸自配備計画の賛否を問う住民投票は、国家の崩壊につながりかねない」「憲法、法律があるのに石垣市の最高規範というのはおかしい」との発言からもそれがうかがえる。

民意を問わず市有地売却可決、住民置き去りの石垣市議会

 石垣市平得大俣への陸上自衛隊配備計画を巡り、石垣市議会は2020年3月2日、市提案の沖縄防衛局への市有地売却議案を、賛成11、反対9の賛成多数で可決した。
 市有地は大切な市民の財産である。売却するには一定以上の市民の理解が欠かせないはずである。住民の間でも賛否両論あり、住民投票を求める会が提訴した「住民投票の義務づけを求めた訴訟」は、今もなお係争中である。
 基地のない島に基地ができる、そしてこれからも島で生きていく、大切なことだからこそ陸自配備の賛否を問うべきだと署名した1万4千人余り、約4割の「民意」を示したいという石垣市民有権者の思いは置き去りである。
 本来ならばその1万4千人余の市民が求める住民投票を実施し、直接、市民の「民意」を確かめるのが筋ではないだろうか。

地方自治とは

 地方自治とは、地域の政治を自分たちで行うことであり、生活に密着して行われるからこそ民主主義は地方自治の中で育つ。「安全保障や国防は国の専権事項」という言葉をよく聞くが、国の専権事項を認めるということは主権が国民の手の届かないところにあるということだ。
 安全保障の問題こそしっかりと市民(国民)の合意を得て進める、これこそが民主主義国家のコモンセンスである。