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[パンデミックと経済危機] 感染症拡大――「日本の底力」失う危機

産別、ナショナルセンターが役割発揮を

安河内 賢弘・JAM会長 に聞く

■昨年段階ですでに景況感は悪化―本当の危機はこれから

 昨年4月、加盟組合に行った景況調査で、景況感が大幅に悪化していました。続く9月の調査ではさらに景況感は悪化しました。
 これには10月の消費増税の影響が入っていません。米中の貿易摩擦の影響で、中国経済が減速した点が大きいと思います。そして、それに消費増税が追い討ちをかけました。さらにそれが今回の感染症の世界的拡大でさらに落ち込むのではないかと見ています。
 私は昨年8月末に開催した定期大会のあいさつの中ですでに「このままいけばリセッションだ」と話しました。そういう危機感をもって20春闘に臨んでいました。
 今年2月に行った緊急アンケート調査では、おおよそ半分の単組で感染症拡大の影響が出ている、もしくは出るだろうという回答結果でした。実態としてすでにこの3月期に単組で大きな影響が出ているかというと、必ずしもそうでもありません。これは各企業が年度末の決算に向けて、「とにかく製造をしっかりやっていこう」となっていることと、「部品がなくて、ラインが止まった」というのは大手の話で、中小はこれまで忙しかったところが一息つけているという話です。
 しかしながら、「4月以降、どうですか?」と聞かれたらまったく予想が立たないというのが労使双方の一致した見解だと思います。中国での製造が少し動きだしたので、これがどこまで回復していくのかということと、今度は逆に欧米の経済活動が止まったので、その影響がどの程度出てくるのか注視しています。
 世界経済がどうなっていくか不透明な部分が大きいですが、いずれにしても、株価がいきなり下がったり、為替がいきなり円高に振れたりして、利益を損なうのは大手企業の話で、中小はそれに振り回されるということです。本当の危機はこれからですね。

■続く厳しい状況―難しい日本回帰

 これまで中国でつくっているものを日本に引き戻す動きが一瞬見られましたけど、簡単ではないですよね。金型などは、また一から設計し直す必要がありますし、共同試験など、新たに認証してもらう必要もあります。何よりも、価格が「中国価格」なので、採算が合いません。
 これからサプライチェーン全体が中国一極集中ではなく、日本にも帰ってくる動きが出てくることを期待したいですが、いずれにしても価格交渉が解決しないとそこは簡単にはいかないと思います。
 アメリカもこれから厳しいでしょう。自動車関連は非常に落ち込んでいまして、今後も厳しい状況が続くと思っています。
 ドイツでは電気自動車に代わっていく過程において、国内で17万人の雇用が失われるといわれています。だからIGメタルは、労働条件の改善よりも、雇用をどう守っていくのかという点に運動をシフトしていく方針を出しました。
 そもそも今回の感染症拡大の問題が起こる前から、自動車部品関連、とりわけ大手の関連部門の業績が落ちていて、経営側が「ベアどころじゃない」と言うなかで、運動を構築してきた経過があります。
 したがって、今回の感染症問題が解決したとしても、こうした傾向が変わるのかと聞かれれば、そんな感じはしません。

■健闘した20春闘―絶対額重視した取り組みが成果

 ベースアップについては全体平均が1350円で、300人未満のところが1400円、100人未満が1516円となっているので、大手が踏ん張り中小が頑張っているという感じです。
 JAMはパーセントではなく、絶対額を重視しています。そうでなければ、大手との差がさらに広がっていくからです。
 しかし、そのパーセントで見たときも全体が2・05%で、100人未満規模でも2%台をキープしているということになので、厳しい中でも健闘しているというのが実感です。
 やはり、中小の労使ともに、人材確保のみならず、人材維持が共通した課題です。そのためには、賃金の絶対額を重視しています。今年、個別賃金で要求した単組は317です。昨年同時期が274単組ですから、43単組ほど増えています。
 また、4000円以上のベアを獲得した単組が、300人未満で7単組、3000~4000円のところが6単組あります。あのトヨタがゼロという中で、これだけのベアを獲得できているというのはやはり、賃金の絶対額を重視して、「世間相場に比べて低い。これでは人材が採れないし、皆辞めてしまうよ」という交渉が功を奏したと思っています。

■政策力動員して危機乗り切れ―不公正な取引慣行是正を

 今回の感染症拡大の問題については政策を最大限発揮しなくてはいけないと思っています。
 雇用調整助成金のみならず、やはり事業継承と雇用の維持、この二つにしっかり目を向けていくべきだろうと思っています。このままでは日本の底力そのものが失われてしまいます。事業継承と雇用の維持については、連合を通じて関係各省庁にも要請してもらいましたし、今は与野党関係なく私たちの話は聞いてもらえる状況です。
 リーマン・ショックのときには、大幅な値下げ要請が中小に殺到しました。その結果、中小の価格交渉能力が大幅に落ちて、安い単価を余儀なくされた。日本の中小企業の付加価値生産性が低いというのはそうしたことで、大企業の不当な値下げ要請によって付加価値を奪われているからです。リーマン・ショック時と同じことが今回も起こらないように、安易な値下げ要請に応じない、あるいは合理的な理由がない値下げ要請はするなという運動をしっかりやっていかないといけない。
 仮に感染症が終息に向かい「V字回復」で大手の売り上げが戻ったとしても、中小の付加価値生産性が失われて、ひいては日本全体の製造業の底力が失われていくのではないかと危惧しています。
 いわゆる「派遣切り」みたいなことは、製造業の人手不足感というのが継続しているので、それほど大きな問題はまだありませんが、今後はあり得るのではないかと心配しています。
 JAMは個人事業主も加盟するゼネラルユニオンをつくっており、組合員のなかにはピアノの先生とか、家庭教師などの雇用類似の組合員もいます。そうしたところに今後影響が出てこないかアンテナを高くしていく必要があります。また、外国人労働者の処遇についても非常に心配をしています。
 いずれにしても、「派遣切り」みたいなことが起きないように目を光らせる必要があります。「派遣切り」が起きる前に対応する必要がありますが、企業内労組では限界があります。依然として「非正規労働は雇用の調整弁」という意識があるからです。やはりこうした課題については、産別、ナショナルセンターが役割を発揮しないといけないと思っているところです。