全国唯一の財政再生団体・夕張市の厚谷司新市長に聞く

「真の再生」に重要なのは「計画」にあるのではなく「人」

――このたびは当選おめでとうございます。

 ありがとうございます。私の前任者の鈴木直道前市長は2期務められた。その中で不可能であろうと見られていた財政再建策の抜本見直しも行って、財政の再生だけでなくて地域の再生もしっかり取り組んでいこうと舵を切られました。現在もまだその事業は例えば建設事業等が継続しています。まず私はその事業をしっかりと着地させるということが一つです。
 それともう一つは、私もかつて夕張市の職員としてその後は市議会議員として夕張市に直接関わってきた経過があります。私は力不足は承知ではありますけれども、夕張市のために力を尽くしたいという思いで決意したというのがいきさつです。

――鈴木前市政をさらに進めて着地させると言われますが、その際の課題は何でしょうか?

 財政再建計画の見直しを進めるということで振り返ってみますと、事業の量が相当増えた面があります。そういう意味では職員も毎日奮闘しているのが現実です。ですから急ぐもの、優先的にやっていく状況もありますので、時折基本的なところに立ち返って地方自治を担っている職員は何のために仕事をしているのかを常に確認しながら、これから仕事を進めていただけるように私も職員の皆さんとコミュニケーションをとる機会を設けて、その思いを伝えて一緒に仕事をしていきたいと思っています。

頼るべきは市長の政治手腕でなく市民の力

――厚谷市政の特徴になるかもしれませんね。

 前市長は政治的な手腕がおありだった。
 夕張市がかつて財政破綻した時にはいろいろ市民の間に反省点があったと思うんです。例えば行政のやっている仕事に興味を持ったり、時にはチェックをしたり、議会と共にやっていきましょうとか。その大前提は情報公開であったり、丁寧な説明がなされたりするなどが重要になってくるのですが、そのへんが少し十分でなかったのかなと思います。
 そういう経過を経てきている夕張ではありますので、そういう意味ではどちらかというと市民の皆さんの感覚的な部分で申し上げますと、これはあくまでも個人的な感想ですが、鈴木前市長の政治力にある程度、依存というと言い過ぎか、頼っている面も大きかったと思います。それはそれで一つの成果だと評価します。
 しかし、これからは市役所の中で職員もそうですし、それから市民の皆さんもお互いにこの町をどうしていくかということを考え合える、そういう土壌づくりと言いますか、そういったものが、これから必要になってくるのではないかと思っています。

――中央との結びつきでなく市民の力や職員の力に頼って頑張っていくということが大事だということですね。

 はい、報道でも出ていますように夕張市は人口が8000人を割り込みました。それは国の推計などを見てもそういうような状況に至ることは予想していたわけですけれど、実際にそうなった。そうなりますとやはり縮小していく町の中で何を残してどういうものを改革していくかというところをキチンとしないといけない。
 いくら人口が少なくなってもしっかり守っていかなければならないものもありますし、そういうところを、人口が減った大変だ大変だということばかりでなく、その中で変わっていかなければならないところにきていると思いますので、市民の皆さんといろいろと話し合う機会があればいいなと思っています。

何か一つに依存ではなくバランスのある経済に

――市民の力がみな一つになればいいですね。

 一番大変なのは、影響を受けやすい経済的な商工事業者さんだと思いますので、そういう方々ともいろいろと情報交換をさせていただきながらと思っています。
 財政計画の大きな見直しを行ってから一定程度地域の再生事業も盛り込まれ、市民の皆さんに安心感が生まれたと思います。引き継いだ立場から申し上げますと、大きな事業が建設事業を含めて立て続けにやってまいりますので、今は1年かけて現状分析をきちんとして、着実に今の事業も行政運営も継続できるようにしていきたいと思います。

――夕張市の歴史を振り返りながら全国の皆さんに発信したいことがあればお伺いしたいのですが。

 以前に話したこととあまり変わらないかもしれませんが、夕張市の人口が8000人を割り込んだというところでいろいろと情報をいただくと、やはり北海道の空知という地域の旧産炭地の人口減少が非常に著しいわけです。それぞれ地域によって多少の違いというのはあるんですけれども、夕張の場合は今でこそ農家の皆さんの苦労もあって夕張メロンがブランドとして認めていただいているという状況があります。しかし、それ以外の産業ということで考えるとやはり炭鉱という単一産業で支えられていた町だったんです。単一産業ということはその産業がなくなった瞬間、町の様相ががらりと変わってしまうことです。ですから少なくとも全体のバランスをとりながら、これからは地域づくりもやっていかないといけないのではないかなと思います。
 石炭に関しては致し方なかった部分もあるんだと思うんです。やはりちょうど日本が発展をしていくときに、エネルギーとして求められていた時期に多くの方々が仕事を求めて移り住んでいるということもありますので、残念ながら結果的にその仕事がなくなってしまうと、また新しい炭鉱に移っていかれるということが非常に多かった。当時の状況の中で引きとめることができたのか、難しいものがあるわけです。
 今振り返ると、これからの産業の担い手確保については「外から確保」するという発想だけではなく、「地域で育てる」という発想が必要だと考えています。
 全力で市民の皆さんと一緒に夕張市の再生と発展のため頑張りたいと思います。皆さんのご支援をよろしくお願いいたします。

【編集部】厚谷司市長は6月5日の定例市議会で所信表明を行った。次のように述べている。
 「本市が真の再生を図っていくにあたり重要なのは『計画』にあるのではなく『人』にあると考えます。市民一人ひとりの声と力こそが再生のエネルギーであり原動力です。たとえ、それが小さな声や力でしかないとしても、その地道な積み重ねこそが再生への『道しるべ』となることを私は信じております。……
 本市は、これからも全国で唯一の財政再生団体であることに変わりはありません。しかし、再生は財政分野だけで終わってしまっては意味がありません。すべての市民の皆様が夢と希望を持ってこのまちに住み続けていただけるようなまちづくりを進め、それを支える安心と安全をしっかりと確保することが行政の責務であります。
 そのような地域の再生があってはじめて『真の再生』が成し遂げられると私は考えます。地域の再生に主眼を置き、人口減少、過疎・高齢化、財政難という『負の要素』から逃避することなく、それに負けない『元気で、活力あるまちづくり』を目指してまいります」
 困難に敢然と立ち向かっている厚谷司市長に心から連帯のエールを送りたい。文責編集部

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