米中激突の国際情勢とわが国の進路

以下は、広範な国民連合「第3回全国世話人会議への報告と提案」の中の、「激動の国際情勢見通し、展望」の部分に議論を踏まえて若干加筆したものである。今日の情勢をより深く歴史的に評価するうえで重要と考え編集部の責任で紹介する。

衰退したアメリカは、新興する中国を軍事力を使ってでも抑え込みドルと覇権を維持しようと画策し、世界を破局の瀬戸際に追い込みかねない。世界の国々は小国も大国も「アメリカ第一主義」の世界支配に反発を強め、アメリカの戦後世界支配に代わる新しい時代が近づいている。
背後で世界経済は深刻な金融危機がいつ爆発しても不思議でない状況となっている。どの国でも貧困層が急拡大し、貧富の格差・矛盾は極端なまでに激化し、政治は著しく不安定化している。しかも、5G(次世代移動通信システム)を中心に急テンポで進む技術革新は、経済や社会、さらには政治をも激変させつつある。技術革新は世界の危機を加速し、新しい時代到来の予兆が現れている。
どの国も企業も、この激変の世界への対応を迫られている。
とりわけ対米従属のわが国は深刻な事態に直面した。対米一辺倒できた大企業、財界は右往左往である。支配層も何らかの解決を必要としている。支配層の動揺と亀裂が広がる中で支配層の一部を含むような広範な国民各層が連合し、「自主・平和、アジアの共生」の政治を実現するチャンスでもある。日米同盟に頼って中国に「対抗」する安倍政権、対米従属勢力では、経済も安全保障もアメリカの要求を受け入れる以外にない。しかし残念ながら、野党各党は国の運命が問われるこの世界とアジアにほとんど関心を払っていないように見える。
しっかりとした国の進路を切り開かなくてはならない時である。

①アメリカの「覇権維持」のための対中冷戦で一気に激動の世界に

アメリカ・トランプ政権は2017年12月の国家安全保障戦略で、中国をアメリカの覇権を認めるおとなしい国に抑え込んでおくという「関与」政策を公式に否定した。それは民主党や労働界を含む国家合意となり、ペンス副大統領が昨年10月4日、「邪悪な中国共産党」との体制転換の戦いを宣言した。こうしてこの1年余りの米中貿易交渉は、「交渉」という「冷戦」となった。
アメリカは安全保障でも圧力と挑発を強めている。南シナ海での「航行の自由作戦」はわが国海上自衛隊艦船も加わって常態化し、中国の最も敏感な問題である台湾をめぐっても台湾海峡に毎月のように米艦船を航行させるなど軍事挑発を強めている。緊張が一気に高まり、偶発的にせよ衝突を含んだ情勢となった。アメリカの元海軍大将は、「南シナ海の軍事衝突は時間の問題」と断言している(「日経新聞」6月1日)。
中国も、国家主権など原則を譲らぬ態度を鮮明にして長期戦に、「持久戦」で備えるとともに当面の対抗措置も打ち出している。中国国務院の記者会見では、26年ころからは「理性を失った争い」になるとも語られたという(「日経新聞」5月24日)。
当面の貿易問題やここ1、2年の安全保障問題を乗り越えたにしても長期熾烈な戦いが避けがたいのである。
米中激突の世界で、隣国中国を最大の貿易相手とするわが国の進路が厳しく問われている。

②超金融緩和で乗り切るは限界の世界経済

リーマン・ブラザーズの破綻に象徴された金融経済危機から10年余。世界経済は、日米欧の中央銀行による超金融緩和でバブルを膨らませながら辛うじて維持されてきた。
しかしIMF(国際通貨基金)は4月の世界経済見通しで、「情勢は(1年前と比べて)一変している」と警鐘を鳴らした。金融での刺激は限界で実体経済は下降局面となり、しかも累積した債務はいつ爆発してもおかしくない状況となっている。
膨張した緩和マネーで世界の官民合わせた総債務は、金融危機から4割増の247兆ドルで世界総GDP(約80兆ドル)の3倍になっている。とくに近年は高利回りを求めて新興国に日欧米のマネーが殺到、金融危機時の3倍にまで急増した。4月のIMF「金融安定性報告」は、先進国での企業債務、中国の「金融機関の脆弱性」、新興市場国への「資本流入の不安定性」などを挙げて警鐘を鳴らした。
これらの評価と見通しは4月のもので、「(米中貿易摩擦が)貿易協定の可能性が具体化しつつあることから、見通しが改善している」という楽観的見通しに立ったものであった。その後の米中関係の激突を見通しに加えるとどういうことになるか。

③富が有り余るがゆえの貧困、需要不足

危機を引き起こすバブルに頼らなくては金融危機から抜け出せない問題の根底には、世界的な「需要不足」がある。富が有り余るがゆえの貧困、需要不足である。
世界一の経済大国アメリカでは子どもの5人に一人は貧困線(1日1・25ドル)以下、全人口のおおよそ5人に一人がフードスタンプ(低所得者向け食料費補助)を受ける。全世界では、全人口の半分近い30億人以上が1日150円以下で生活する。かくて、自分の国で生活できず祖国を後にせざるを得ない「難民」が激増、その数は17年末で6850万人となり、1年間で1620万人も増加している(UNHCRによる)。
「真の需要」は限りないほどあるのだが、全世界の何十億の人びとは所得が少なすぎて必要なものも買えない、すなわち「購買力不足」なのである。グローバリズムの下で各国国民経済が破壊され多国籍大企業の世界経済支配が進み、しかも、超金融緩和・金融経済化で金融資産を握り締めた金持ちたちが所得を独占したからである。
国際NGO「オックスファム」が発表した『世界の富の偏在に関する報告書』によれば、世界で最も裕福な26人の資産約150兆円(18年)は、貧困層の38億人が持つ資産と同じ。また、資産10億ドル(約1100億円)以上の富豪は、10年から18年の間にほぼ倍増の2208人に増え、多くはアメリカ人である。
日本にはアメリカ、中国に次いで富裕層が多い。安倍政権下で急増している。
野村総研の推計では17年末、純金融資産1億円以上の富裕層は127万世帯弱となり、安倍政権発足前の11年末と比較すると1・5倍強となっている。
他方、31%は金融資産を保有していず、保有は68・8%(日銀調査、20歳以上二人以上世帯)。保有層の平均値(平均金額)は1887万円だが、中央値(人数で見たた中央の人の金額)は1080万円である。金融資産保持とはいってもささやかな保有者と巨額の保有者に二極化していることがうかがえる。
需要がないから投資は進まず、したがって働くところは少なく賃金は低下し、ますます貧困が深刻化する。有り余った資本は遊休化し「マネー」となってますます金融投機に流れる。日米欧の異次元金融緩和が拍車をかける。企業も富裕層も有り余るマネーの持って行き場がないほどで、連中も血眼である。こうしてますます貧困化と格差が進む、まったくの悪循環である。
世界はこうした根本問題への対応が迫られている。

各国の国内対立は激化し、国家間対立も激化している

世界中の国々で一方に貧困化が、他方に急激に富裕化する資産家層が存在するようになって、国内対立が激化している。各国政治は不安定化し、旧来の2大政党的政党は支持を失い、一部には極右のポピュリズムが台頭し、他方で、国民の不満を引き付けた左派勢力も勢いづいている。フランスでは、「黄色いベスト」に象徴されるような大衆行動も起こっている。
支配層は、こうした国内矛盾を他国に転嫁しようとして、国家間の対立が急速に激化している。かつての独英関係が典型だが経済的依存関係が深ければ対立にならないのではなく、むしろ深いだけ矛盾は深刻となる。

④5Gを頂点とする技術革新、世界はこれからの10年で文字通り一変する

世界で急テンポに進む技術革新(第4次産業革命)は、こうした貧困化と購買力=需要不足という世界の根本問題の激化に拍車をかける。
野村総研は15年に、「10~20年後に日本の601種類の職業、労働人口の49%がAIやロボットで代替される」という可能性を提示し反響を呼んだ。いつまでにどのくらいかという見通しにはまだ諸説あるが、人間労働がロボットに置き換わる社会に限りなく近づいていくことは間違いない(未来学者ジェレミー・リフキンの言う『限界費用ゼロ社会』である)。技術革新のテンポは加速度的に速まっている。
短期的には、労働者はもちろんのこと中小企業には大きな打撃で、大企業もいや応なく対応が迫られている。企業家たちは血眼の競争に乗り出している。
この技術革新をリードし続けた企業が富を独占し乗り遅れた企業は破綻を余儀なくされ、一部の労働者もおこぼれにあずかる。中スキルの仕事が減り、高スキルと低スキルの仕事が増える「労働市場の両極化」はすでに世界的に進んでいる。
ロボットは賃金がいらず、賃金や下請けコストは文字通り「限界費用ゼロ」に限りなく接近する。「購買力」はますます失われ、世界の「需要不足」はますます深刻化する。

⑤避けようもない大津波に翻弄される対米従属のわが国

米中激突、金融危機、技術革新への立ち遅れ、わが国は避けようもない大津波に襲われる。しっかりとしたかじ取りをしないと翻弄され沈没することになる。
米中激突は安全保障環境を一気に厳しくしている。アメリカがわが国を使って軍事挑発を試みる可能性は否定できない。ジョン・ダワーが『アメリカ 暴力の世紀』(岩波書店)で暴露したようにアメリカの戦後史を見れば明らかである。そこに至らなくても、米中に経済圏が分断され対立したら世界経済に大きく依存するわが国はどうなる。わが国企業は、多国籍化した企業ほど深刻な選択を迫られる。しかも技術革新の波に大きく立ち遅れた日本企業は焦っている。
米中対立のはざまで、エネルギーも、鉱物資源も、食料すら海外に大きく依存するわが国はどうするか。対米従属の下で70年余を過ごしてきた支配層(大企業)も現状にとどまれない。いや、米軍とドルの世界支配の下で「国益」を売り、沖縄をはじめ国民を犠牲に肥え太って「多国籍化」した大企業や大銀行こそ深刻である。
文字通り対米隷属の日本のありようを見直し終わらせる時が来た。

⑥現状にとどまれない大企業、財界の危機感と動揺、対米関係の相対化

大企業、支配層の状況認識は厳しく、危機感に満ちあふれている。
経済同友会小林喜光前代表幹事は「平成の30年間、日本は敗北の時代だった」と繰り返し断言し、「国家の未来図が描かれないままの政治が、与野党含めて続いてしまった(ためだ)」「現在は歴史的な革命期にあると皆が認識すべき」と。また、日本電産永守重信会長は、「米中の問題は世界恐慌すら巻き起こしかねない状況」「政治リスクが1000倍くらい上がっていると感じる」と危機感を表明している。
企業家たちは嘆くだけでなく米中激突が長く続くという見通しの下で、次の局面をにらんで対米関係の見直し、相対化を始めている。
米国トヨタはアメリカの自動車問題での圧力について5月18日、「米国への投資や従業員の貢献が評価されていない」と公式に反論するに及んだ。トヨタ自動車豊田章男社長も「大変残念に思う」と批判せざるを得なかった。
ドル中心できた大銀行も中国との関係を考慮せざるを得ない。「日経新聞」は5月19日、「人民元での国際決済システムが15年10月の稼働後、銀行の参加が89カ国・地域の865行になり、日本では三菱UFJ、みずほのメガ2行に地銀21行が参加」と報道した。

経団連も米国製武器爆買いに注文

安倍政権は、国民の血税でかつてない巨額の米国製武器購入を進め、不満は国民各層だけでなく、財界・防衛産業にも広がっている。
経団連は4月、「これまでに直面したことのない安全保障環境の現実に」直面したとの認識の下に安全保障政策について提言を発表した。その中で「将来戦闘機」について「国際協力」(=対米協力のことだ!)の前に「まず最初に、わが国固有の運用要求ならびに機体の基本的仕様を明らかにする必要」を主張した。またFMS(アメリカが言い値で外国に武器を買わせる「対外有償軍事援助」)での武器購入について、「わが国の産業・技術的な貢献の機会を最大限、追求すべき」と要求した。
大企業も、あるいは大企業こそ、大津波に翻弄され右往左往である。アメリカの圧力と恫喝の下で多国籍企業は対米関係の見直しに動いている。これは注目に値するが、同時に「企業利益第一」の彼らがこの方向を貫くのは容易でない側面も見ておかなくてはならない。

国民連合はこの情勢を生かす方向を持っている

大企業・財界も動揺するこの情勢は、わが国の進路を切り替える闘いにとって極めて有利である。財界や企業の限界も理解しながらできるだけ協同を追求し幅広い国民運動を追求できるからである。
広範な国民連合はこうした財界、支配層を含む状況に絶えず関心を払ってきた。結成から間もない1995年には、当時経団連副会長の高岳季昭西友会長や元外務省高官などを含むシンポジウム「21世紀の世界へ新しい日本の進路」を開催した。さらに96年には、槙枝元文代表世話人と副総理などを歴任した後藤田正晴氏の両氏が中心となり、日中経済協会河合良一会長(元小松製作所会長、元経団連副会長)、連合芦田甚之助会長、日中友好議員連盟林義郎会長(自民党衆議院議員)などを含む「公開討論『日中関係打開の道』」を実現し、「閉塞した日中関係」の打開へ重要な一石を投じたこともあった。
以後も、広範な国民連合は財界や支配層を含む状況に絶えず気を配り、できるだけ広範な戦線を形成することに努力してきた。自民党幹事長を務めた故野中広務氏とは各地で何度も協力関係を持った。
今、重大情勢となった。支配層の多くの人びとが対米従属にとどまるのは容易でなく、解決を必要とする戦後史に二度とない状況が始まっている。われわれは広範な国民各層の連合を促す上で、支配層も対米従属問題の解決を必要としていることをしっかりと理解しておく必要がある。

⑦安倍政権の動揺と欺瞞と

それだけに安倍政権は、すでにみた財界、支配層の必要さからも、また、真の独立と中国との平和共存を望む国民大多数を欺瞞する目的もあるのであろう、複雑な外交を強めている。しかし、安倍政権のこの種の「自立」を装う欺瞞外交は袋小路である。
例えば5月初め「ASEAN+3」は、危機時に元や円を供給し通貨を防衛する枠組みに合意した。貿易決済をドルではなく各国通貨で行う「通貨同盟」に向けて一歩踏み込んだと見られている。しかし、この種の動きは1970年代からさまざまあったが、そのたびにアメリカの妨害でつぶされ、あるいは変形させられてきた。
国民の多くが心配した日中関係について安倍首相は「完全に回復した」と強弁し、昨年秋の訪中時に中国が提唱し進める「一帯一路」についても「協力」をうたい上げた。
そうした中でこの4月、第2回目の「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが北京で開催された。だが、前回参加した米国も日本政府も出席せず、自民党二階俊博幹事長の参加にとどまった。対米関係に縛られた安倍政権は日中関係も独自には進められないのである。

⑧支配層は国の進路をめぐって亀裂を深め、地方の保守・自民分裂を加速する

対米関係に縛られた安倍政権は、「自立外交」どころか近隣で完全に孤立状態、八方ふさがりである。不満、批判は、山崎拓氏ら自民党OB政治家だけでなく、現職政治家、リーダーにも広がっている。
強大化する中国を敵視し安全保障をアメリカに依存しながらでは、自立とか自主外交とか貫けず「強い日本」の欺瞞は容易でない。安倍政権など対米従属の自民党政権やその亜流政権では突破不可能である。
統一地方選の大きな特徴は保守分裂・自民党分裂であった。今回の自民分裂は大阪府を除く10知事選で4県で公然化した。その他、1月の山梨県知事選も激しい争いとなったし、全国で見られたこの傾向は今後ますます進む。
島根県知事選での保守分裂について、地元紙「山陰中央新報」の「検証」記事にも、分裂の背後にある農民の不満、地域の建設業者の苦境と要求などが顕著に出ていた。対米従属政治は限界となり、それを進めてきた自民党に亀裂が走り、いわばタガが緩み地方の分裂を加速していると見るべきであろう。
安倍政権は「世界をリードする」などと豪語しているが、アメリカは農畜産物にも自動車にも容赦ない攻撃をかけている。農林漁民や商工建設業者など、従来の自民党支持基盤のいっそうの離反は避けられない。農林漁民や商工業者、中小企業家などのいっそうの不満の高まり、保守層の分裂はいっそう進むことになる。
自衛隊の中にすらも動揺が広がっている。通信社の配信で「琉球新報」などいくつかの地方紙は6月11日、「空自内に渦巻く不満」との見出しでF35A墜落中間報告への自衛隊内部の不満を報道した。「ある戦闘機パイロットは『米政府の顔色をうかがって、仲間が危険にさらされるのは耐えられない』と話し、現状での飛行再開に反対している」と結んでいた。
実に広範な勢力が対米自立へと動かざるを得ないのである。

展望と課題

・「豊かな人はより豊かに、貧しい人はより貧しく」
増え続ける大企業の内部留保と急増する「富裕層」。貧困化が進む労働者、とくに低賃金は男女非正規労働者、パート主婦労働者。それに学生アルバイトや外国人労働者。正規雇用労働者層も技術革新と貿易戦争で二極化、多くが零落を余儀なくされる。
商工業や農林漁業などの自営業者は経営が成り立たず、大半の商工自営業者も農林漁家もさらに零落させられる。
・米中衝突は長期戦となり不測の事態も。平和の危機というだけでなく、「対米一辺倒」ではわが国大企業もやっていけない。現状にとどまれず、支配層、大企業も「解決」を必要としている。
したがって対米従属体制の根本的転換が不可避な歴史的局面が進む。
・問題は、解決の主導権を誰が握るかである。フランスやイギリス、イタリアなどヨーロッパの政治状況は明日のわが国であり、対米従属問題の解決を抱えるわが国はよりドラスチックとなろう。
・国民大多数に基礎をもつ自主的な政権、侵略戦争の歴史をしっかりと反省しアジアの一員として平和・共生の国の進路を定めなくてはならない。
・広範な国民連合は、「自主・平和」の対抗軸を鮮明にするとともに、何よりも力をつけ「国民運動(集会やデモなど大衆行動)で発言する実力ある広範な国民連合」をめざす時である。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする