わが国森林・林業再生のチャンス 林野管理経営政策の問題点

「国有林で50年も民間事業者が伐採できるということは民間払い下げのようなもの」

参議院議員 徳永エリ

 わが国の森林蓄積(森林を構成する樹木の幹の体積)は52億立方メートルと、この半世紀で大幅に増加しています。特に、人工林は5倍も増加しています。そして、その人工林の約半数が、51年生以上となり、主伐可能な時期、伐期を迎えています。森林・林業を再生させるチャンスがやってきたと言えるでしょう。
 しかし、外材と比較すると国産材の丸太価格は安く、森林所有者が材を切り出して販売しても、伐出コストや運材コスト、流通コストなどを差し引くと森林所有者に戻るお金はわずか。植栽、育成など、再造林にかかるコストを加えると赤字、コストと労力をかけて木を切って、売っても儲からない。だから、森林所有者は経営意欲が湧かないという状況が続いています。

林業経営者に国有林材を供給

 そこで、昨年の通常国会では、森林所有者から、市町村が経営権を受託し、経済の回りそうな森林を、「意欲と能力のある林業経営者」に再委託することで森林の経営・管理を集約し、林業の生産性を高めるための新たな「森林経営管理法」を成立させました。そして、このシステムを円滑に実施し、意欲と能力のある林業経営者を育成し、木材産業の振興を図るためには、安定的な事業量の確保が必要であることから、民有林からの木材供給を補完する形で、国有林から長期・安定的にこうした林業経営者に木材を供給することが有効であるとして、今通常国会では、「国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案」が審議されます。

10年を基本に50年間民間業者に樹木採取権を付与

 法案では、これまで年度ごとに場所や時期等を特定し、入札により民間事業者を決めて経営管理を行っていた国有林で、長期・大面積で林産物の安定的・効率的な供給体制を構築し、経営管理を任せる、新たな仕組みをつくることになります。具体的には、10年を基本に上限は50年間、国有林を数百ヘクタール、年間数千立方メートルの伐採ができる権利、樹木採取権を民間事業者に与えるということです。再造林の取り扱いについては、樹木採取を行った区域の採取跡地における植栽の効率的な実施を図るため、樹木採取権者に対し、植栽をその樹木の採取と一体的に行うように農林水産大臣が申し入れることとなっており、また、再造林は国が経費を支出するため、造林木は国の所有物となり、国が管理することになります。

「林業イコール伐採業」に一気に追い込まれる危険

 戦後の拡大造林から50年、スギやヒノキが伐期を迎え、新たな森林管理システムの下、民間事業者がどんどん林業経営に参入し伐採、川中・川下と連携し、林業で儲かるようになれば、森林の適切な管理を超えて、林業イコール伐採業という領域に一気に追い込まれるのではないかと心配です。
 人口減少社会において、住宅需要は縮小するばかりで、新しい需要を創出するにしても、国内需要が大きく伸びるとは思いません。問題は輸出です。
 2017年の日本の木材輸出量は、326億円と38年ぶりに300億円を超えました。1977年に367億円に達して以降減少し、2000年代は100億円を下回る水準で低迷していましたが、12年以降は増加傾向にあります。1977年当時は輸出額の7割が広葉樹合板、2割強が広葉樹製材でした。合板原料の8割弱がナラやセン、カバ等の国産広葉樹材であり、その輸出先の8割以上は米国でした。当時の日本の木材輸出は広葉樹材が主であり、米国の木材需要の動向に左右されていました。
 しかし、2017年は輸出額の4割強が針葉樹の丸太、2割が針葉樹合板、2割弱が針葉樹製材で、原料の大半がスギやヒノキなどの国産針葉樹材。輸出先を国別に見ると、対中国が145億円、続いてフィリピンが74億円、韓国は37億円。特に中国への輸出額は、前年比で61%の増加となっています。輸出額増加の要因は、米国の堅調な木材需要に対し、北米や東南アジア産木材の供給不足から受給が引き締まり、世界的に丸太価格が上昇した結果、日本産の丸太の価格競争力が増してきたことにあります。また中国では、日本の建築基準法に当たる法律「木構造設計規範」が改正され、これまで認められなかった日本産のスギ、ヒノキ、カラマツを木造建築物の構造材として利用することが可能となり、ますます日本の木材需要が高まる可能性があります。また、最近では米国向けにフェンス材としての需要があり、北米でフェンス材に使われるウエスタンレッドシダーの原木供給減少に伴う代替品として日本のスギが注目され需要が増加しています。また、最近では、カナダなどからも商談が持ち込まれているという話もあります。
 民有林、そして、国有林において安定的に事業量を確保できるようになり、丸太で輸出するのではなく、製材として付加価値を高めて輸出ができるということは、民間事業者にとってビジネスチャンスとなるでしょう。

国有林の民間払い下げとの批判も

 しかし、50年も国有林で、民間事業者が伐採できるとなるということは、国有林の民間払い下げのようなもの。農林水産大臣が設定する樹木採取権はコンセッションだと批判と懸念の声も上がっています。発展途上国でよく見られるコンセッション。例えばフィリピンでは、国有林の伐採権を企業に与えたところ、大規模なラワン材の切り出しが行われ、国土の森林の大半が失われる結果を招いてしまいました。
 またわが国で戦中・戦後に、軍需物資や復興のための住宅建築、また、エネルギー資源として無計画に広葉樹の大量伐採を行い、民有林は壊滅し、わが国林業の長期にわたる衰退を招きました。輸入自由化で大量の外材にとって代わられました。
 計画的な伐採、また、切った後の再造林が適切に行われなければ、過去の過ちをまた繰り返すことになるのではないでしょうか。

地域振興や森林の公益的機能維持に問題

 さらにこの改正案は、国有財産の管理、国有林の使命・役割である地域振興・山村振興への寄与等の視点に立っておらず、また、公益的機能をどのようにして維持していくのかという問題もあります。森林は、生物多様性の保全機能、地球環境保全機能、土砂災害防止・土壌保全機能、水源涵養機能、快適環境形成機能、保健・レクリエーション機能、文化・教育機能、物資生産機能など、多面的機能、公益的機能を有します。これを産業振興、民間事業者の育成を目的とした国有林野の民間参入が促進される中でどのようにして守っていくのかが重要な課題です。
 また、そういった観点からも、これまで、山を知り尽くし、豊富な経験を持つ林野庁の職員が施業計画を立て、その計画に沿って、国有林の管理を行ってきましたが、経験の浅い、民間事業者が適切な施業計画を作成できるのか、民間参入によって、林野庁の職員に過大な負担がかかってくる可能性も否めません。林野庁の職員は年々削減され、全国に2018年度で4859人しかいません。職員数を増やさなければ、とても対応できるとは思えません。
 また、人口減少を受けて、全産業で人手が足りないという中で、いかにして施業にあたる人員、労働者を確保していくのかということも、大変大きな問題です。民間事業者の参入にあたっては、労働者の要件の適切な設定、これまで以上に徹底した研修、そして、林業における死亡事故も含む労働災害の発生率は、全産業の平均値と比べると突出して高くなっていますので、安全対策もしっかりと講じていかなければなりません。
 いずれにせよ、半世紀ぶりに、わが国林業は大きな産業としての転換期を迎えていることを踏まえ、指摘させていただいた課題の解決と不安の払拭に向けて、国会審議を丁寧に行ってまいります。
(見出しはすべて編集部)

 国有林野の改正案の提出に至る過程での林政審議会では、国有林からの木材供給対策について、8つの方向性が示されています。

  1. 従来の入札による立木の売買制度に加え、国有林野の資源状況等を踏まえ一定の区域を設定し、一定の期間内(10年間を基本とし、上限は50年間)、事業者が立木の伐採を行うことができる物権的権利を付与する制度を創設する。
  2. その際、長期・安定的に立木を独占して伐採できるといった権利の特色を踏まえ、権利の対価(長期・安定的に立木を独占して伐採することで期待される利益増加分の一部)について権利取得時に納入を求める。
  3. 対象の事業者は、森林経営管理法に定める意欲と能力のある林業経営者(森林組合、素材生産業者、自伐林家等)及び同等の者(以下「意欲と能力のある林業経営者等」という)とし、投資のみを目的とする者は対象としない。また、中小規模の事業者が共同して権利の設定を受けることで、地域で素材生産者、製材・合板業者等の事業者が水平連携することを促進する。
  4. さらに、民有林からの供給を圧迫しないよう、木材の需要拡大を行う川中・川下事業者と連携する意欲と能力のある林業経営者等に限り本権利を設定する仕組みとする。(事業者の選定は、公募により、上記3及び4の要件を満たす者の中から、価格、事業者の信頼度等の点を勘案し決定する仕組みを検討。)
  5. 事業の実施に当たっては、具体的な施業の計画を作成し、国が認めた場合に伐採できる仕組みとする。その際、国有林野の公益的機能の確保が図られるよう措置する(例えば、伐採上限面積や伐採総量の上限設定など現行の国有林のルールを遵守)。また、施業の計画によらずに伐採を違法に行った場合は、権利を取り消すなどのペナルティ措置を講ずる。
  6. 主伐後の再造林を確実かつ効率的に実施するため、権利を有する林業経営者に伐採と再造林を一貫して行わせる。造林木は国の所有物となるため、国が経費を支出する。
  7. 意欲と能力を有する林業経営者等の育成を図るため、川上・川中の中小事業者に加えて、これらと連携して新たな木材需要の開拓に資する取組を行う中小川下事業者に対する資金供給を円滑化する。
  8. 上記の制度改正に加え、再造林や林道等森林整備、治山対策、人材育成、木材利用の拡大対策など林業成長産業化に資する予算について、引き続き、確保に努める。