馬毛島への日米軍事訓練施設整備問題

マスコミの迷走か、政府の暴走か

種子島・戦争をさせない会 西之表市議会議員 長野 広美

 2019年の年明けは1月3日の南日本新聞一面トップ記事「政府と馬毛島の地権者が買収合意の交渉を進める」、1月9日読売新聞「購入額160億円、政府と地権者で仮契約が結ばれ、3月末には島が引き渡される」、同日NHKの全国ニュース「防衛省が土地の鑑定額45億円に対し早期の訓練施設移転で100億円以上積み増し。防衛省によると、引き渡し後に自衛隊とアメリカ軍が共同使用する施設を整備する」などと、一方的な報道の嵐が吹き荒れた。さらに追い打ちをかけて日本経済新聞は「3月までに土地の売買契約が結ばれ、移転が実現すれば在日米軍の訓練環境が改善する。菅官房長官は、早急に恒久的な施設を整備できるよう、取り組む」という政府トップの強い関与を明らかにした。

 米軍訓練移転地として政府が馬毛島の買収交渉を進めている報道は、スクープ記事のように全国紙が昨年秋ごろから争って掲載され始めた。馬毛島問題とは、昭和の時代の土地転がしの失敗から現所有会社に至る複雑な経緯があり、土地利用計画など過去のさまざまな場面で県や地元自治体が振り回されてきた。さらに土地の乱開発をめぐって現地権者と漁業者らが法的に争っている。そしてなお過去から現在に至るまで、多額の抵当権設定のままの土地所有の実態と土地利用目的は不透明のままである。
 こうした事実を調査し考察する視点を紹介することが、本来のマスコミ報道ではないか。残念ながら地元自治体の首長が強く防衛省に抗議してきた経緯や現議会が反対決議をしている点さえ触れられていない。
 今回報道されている馬毛島買収合意ニュースは、いまだに正式発表のないまま防衛省側の情報をそのまま流すマスコミ報道の軟弱化、脆弱な姿勢をさらけ出しているのではいか。

住民の反対と市議会の度重なる決議を無視

 さて、その買収合意とされた今年3月末を過ぎてなお、馬毛島買収の動きは何一つ具体化していない。経過は以下のようになっている。
 1月21日、原田防衛副大臣が西之表市長を訪問し、馬毛島における地権者と土地建物の売買条件に関しておおむね合意に至り、今後早期の売買契約を締結できるようにしたい、また、今後馬毛島での、物件調査、環境調査、気象調査および測量調査等を行う旨の説明がなされた。
 これに対し、地元西之表市議会は19年3月議会冒頭の2月19日、国が、米軍空母艦載機離発着訓練(FCLP)および自衛隊施設整備を前提とする地権者との、馬毛島の土地売買交渉を進めることについて、改めて強く反対する意見書を再決議した。また、これに先駆け、地元女性有志のグループ「よめじょの会」は永田町に出向き地元選出国会議員や共産党議員団に対し反対する陳情活動を行った。この際に、森山裕国会議員は、政府による馬毛島買収は抵当権抹消を前提とすると明言した。
 その後、国会で共産党議員らによって馬毛島問題追及がなされた。そこでの主要点は――
①森林法違反の問題
 馬毛島では、2002年7月から07年4月までに12件、170haの伐採届が提出されたが、実際は許可申請や届け出の範囲を超える開発や伐採をしたと見られる森林法違反問題。
②島の不動産鑑定評価額45億円と交渉価格160億円との乖離について。
③土地に抵当権が設定されている問題。
――防衛大臣などはごまかすような答弁に終始した。

「南西諸島防衛」の加速、日米合同訓練も

 国会において政府が、何が何でも馬毛島を買収する意向を示したことは何を意味するのか。
 4月開催の日米合同委員会までには買収合意を取り付けて馬毛島でのFCLP訓練地建設に向けて動き出す予定だったことが報道された。さらに官房長官が直接買収指示をしているとの報道さえ流れている。つまり、政府は国会そのものに誠意を持った見解を示さない。地方自治権をまったく無視する頭ごなしの対応であるとともに、国会においても合議制民主主義を無視する政府の暴走する姿が見えてくる。
 最近では、軍事施設としての馬毛島活用を含めた防衛省の南西諸島防衛計画が加速してきている。
 その圧力を直接実感する事件が昨年10月14日種子島で行われた日米合同訓練である。島嶼防衛という名目で、自衛隊の軍事演習の実施回数、規模が大型化してきている。種子島だけでも、自然海浜や中学校跡地などの公共用地を含めて、夏から冬前に年間に数回行われてきている。
 そうした中で昨年10月突然、全国初の米軍海兵隊が参加する大型訓練が、空港跡地だけでなく一般海浜や村中や一般道を使って行われた。陸上自衛隊の「水陸機動団」(長崎)と海上自衛隊輸送艦「おおすみ」のほか、米海兵隊第3海兵師団(沖縄)が参加し、島嶼奪還という共同訓練を実施した。
 直前の通告で、おざなりな住民説明会しかなかった。さらに米軍参加日のみ防衛省が使用料を支払うなど、地元自治体への配慮や地元住民への誠意ある対応に向けて改善すべき課題が山積している。
 一連の動きに対して、私たちは「種子島・戦争をさせない会」を中心に反対の行動を強め、馬毛島への訓練移転に反対する県民集会を2月17日、鹿児島市・鹿児島中央駅前で約250人が開催した。自治権をないがしろにする防衛権はあり得ません。

反対集会アピール文(「鹿児島に米軍はいらない県民の会」)
 政府は、南西諸島の島嶼防衛や災害発生時の救済活動を理由にして、地元西之表市議会はもちろんのこと市民の過半数が反対しているにも関わらず、地元の声を無視して、馬毛島への米軍空母艦載機離発着訓練施設と自衛隊の軍事施設建設を強行しようとしています。
 もしこの施設建設を許すと、米軍によるFCLP訓練だけではありません。自衛隊の最新ステルス戦闘機、大型軍用ヘリコプターや軍用機、オスプレイなど幅広く訓練に利用されることも検討されています。……(中略)
 私たちは、なんとしても、馬毛島の基地化につながる日米共同使用の軍事訓練施設建設を許してはなりません。
 そのために、私たちは日本政府に対し、一つ、国は地元住民の意思を無視した日米共同文書から馬毛島を取り下げること、二つ、馬毛島へのFCLP訓練施設建設を白紙撤回することを強く要求し続け、実現するまで力を合わせて運動し続けてまいります。
 私たちは未来の世代に引き継ぐべく豊かな自然に恵まれた平和なふるさとがあります。軍事拡張を強行する安倍政権にこのふるさとを売り渡したくありません。

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