「外国人技能実習生」の叫びと「入管法改正」問題

サプライチェーンの底辺にいる
外国人労働者への人権侵害を許さない

JAM参与 小山 正樹

 私は、産業別労働組合JAMの参与として、ミャンマー人技能実習生からの労働相談に取り組んできた。2002年に在日ビルマ人の労働組合として、在日ビルマ市民労働組合(FWUBC)が結成され、JAMが支援し労働相談への対応を行っている。
技能実習法が施行された後も、技能実習生からの労働相談が次々に寄せられる。相談というよりも「助けてください!」という叫びだ。ここに記載するのは、18年6月の労働相談の事例である。

K社の人権侵害・労基法違反・最賃法違反

岐阜市にあるK社では、社長とミャンマー人技能実習生5人が、会社住所の事務所と倉庫において作業をしていた。5人の技能実習生は26~31歳の女性。住居は、事務所の2階で、自炊生活。日本に来る前に雇用契約書にサインしたが、ミャンマーの送り出し機関に回収されてしまった。賃金・労働条件に関する書面は一切ない。
①最賃法違反と労基法違反
18年1月と2月の賃金は、基本給が6万円で、残業代は1時間600円だった。日本での日本語研修の先生を通して給料が安すぎると訴えた。1年生は基本給(月額)7万円、2年生は基本給(月額)8万円。残業代は、25時間まで1000円、25時間超で1年生600円、2年生700円となった。しかし賃金の明細書はない。
岐阜県の最低賃金は17年10月から800円なので、最賃金額で法定労働時間を働いた月の賃金は、800円×8時間×22日=14万800円であり、なぜ基本給が6万円とか7万円になるか不明であるが、明らかに最賃法に違反している。そのうえで時給1000円の時間外労働が600円とはもっての外である。
②過労死ラインをはるかに超える長時間労働
朝7時から仕事を始め、昼食休憩を30分、夕方に夕食休憩を30分とり、真夜中0時まで働く日が多い。最悪は午前1時半だった。休日も月に1日だけという月もある。2018年各月の法定時間外労働+休日労働は、1月が75時間、2月が191時間、3月が90時間、4月が218時間、5月が87時間。まさに、過労死ラインを大きく超えた超長時間労働という実態である。
③日常的な暴言による脅迫と監視、自由な行動の不当な拘束
作業が遅くなったとか、小さなミスにも、毎日のように社長は大声で実習生を指さしてどなりちらす。賃金が安いと訴えたことについても、「お前らのせいで利益なくなった」と怒られた。他の人と話をするのも禁止。友達と話をしているのが見つかるとミャンマーへ帰国させると言われる。ある実習生は、「社長の車の音を聞いただけで胸がドキドキする」と言っていた。
④技能実習とは無縁な仕事
K社の業務は、衣類の縫製ではなく、技能実習とは無縁な物流作業である。主な作業は、出来上がった衣料品(海外工場からの輸入品)を近くの物流倉庫からトラックで運んでくる手伝い。段ボール箱の積み降ろし作業だ。そして段ボールから衣料品を出して、値札を付けたり、一部はブランドタグをミシンで縫い付けたりする作業。最後に送り先ごとに品名と数量を確認して段ボールへ梱包し、発送する作業。「縫製作業の技能実習だが、それ以外の作業も少しある」とミャンマーに面接に来た社長が説明していたというが、縫製作業はおろか技能実習はまったくない。

発注元企業の社会的責任を問う

7月2日、岐阜労働基準監督署へ5人の技能実習生の名で労働基準法違反を申告した。また、5人は、技能実習生が二度と同じような経験をしてほしくないと、顔を出して岐阜県庁での記者会見で訴えた。
ミャンマー人技能実習生が就労していたK社では、「株式会社しまむら」の商品の分類梱包などの作業をしていた事実があった。そこで在日ビルマ市民労働組合とJAMは、連合とともに、株式会社しまむらに対して、K社が人権侵害・労基法違反など悪質な行為を行っていたため、発注元企業がその社会的責任として、直接の契約関係がないとしても、事実関係の調査と再発防止に向けた具体的な対策をとることを要請した。
株式会社しまむらより「発注企業の社会的責任として、サプライチェーン全体における法令遵守を求める必要があると考え、サプライヤーへの注意喚起をし、外国人技能実習に関する具体的調査・対策を今後進めていく」という趣旨の前向きな回答をいただいた。
12月5日、JAMは、株式会社しまむらとの話し合いの経緯を公表するとともに、株式会社しまむらの考え方および実施事項が、発注元企業の模範的対応として、各業界全体に広がることを期待する旨を明らかにした。
発注元から安い価格で受注をとる中小零細企業。そのしわ寄せをより弱い立場の労働者に押し付ける。この構造を変えなければならない。
サプライチェーンの底辺で働く外国人技能実習生への違法行為や人権侵害を根絶するための取り組みを、労働運動として強化していくことが重要である。

改正入管法の欺瞞

12月8日未明、改正入管法が参議院で可決、成立し、19年4月から施行されることになった。単純労働の分野で、外国人労働者の受け入れ拡大が推進されることになる。
改正入管法は、新しい在留資格として「特定技能1号」「特定技能2号」を設けるというもの。政府は、14業種で今後5年間に34万5千人の受け入れを見込むとしているが、制度の具体的内容は法律に明記されておらず、法成立後に国会議決を必要としない政省令で定めるとしている。14業種も客観的データで選んだものではなく、人手不足を訴える業界団体を募集して選んだものにすぎない。改正入管法は、制度の中身も明らかにされず、審議も尽くされず、衆参両院で強行採決された。
この改正入管法の根本的な問題点は、「外国人労働者のいのちと権利」が守られる仕組みがないことだ。
すでに128万人の外国人労働者が国内で働いている。その中で特に問題となっているのが、「技能実習」という在留資格で働いている技能実習生の労働の実態である。もう一つは、「留学」という在留資格で日本語学校に通いながら、28時間の就労制限の下にアルバイトで働く留学生の実態である。
日本ですでに働く外国人労働者が置かれた実態の問題を何ら解決することなく、十分な準備も、十分な議論も、外国人労働者と共生していく心構えもないまま、入管法の改正が行われた。
「外国人労働者のいのちと権利」を守る継続した社会的な取り組みが求められる。

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