国際環境の激変と地方・地域、自治体の課題(下)

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山本 正治(本誌編集長)

(3)安倍政権が進める地方政策、その批判的ポイント

 今年の安倍首相施政方針演説(1月22日)の構成は、「明治150年」にふれた「はじめに」から始まり、「二 働き方改革」「三 人づくり革命」「四 生産性革命」等々と「改革」「革命」が続き、その後に「五 地方創生」で、最後が「六 外交・安全保障」であった。これらが、安倍政権が当面とくに重視する政策ということであろう。
 本稿の中心テーマである「地方・地域と自治体の課題」にとりわけ関係が深そうな「五 地方創生」の項では、「農林水産新時代」「地方大学の振興」「観光立国」「安全と安心の確保」、それに「東日本大震災からの復興」などの項目が並んでいる。
 この「施政方針」を中心に何点か、安倍政権の当面の地方政策について批判的ポイントを指摘しておく。中央政府のこうした政策の下、ほとんどの自治体で「6次産業化」や農水産物輸出促進など農林水産業や観光での地域経済振興が唱えられている。

①「農林水産新時代」は「企業化」

 「地方創生」の最初の項は「農林水産新時代」というタイトルで、「戦後以来の林業改⾰に挑戦」「意欲と能⼒のある経営者に森林を集約し、林業経営の⼤規模化」が謳われている。漁業では、「海⾯の利⽤制度の改⾰」「⽔産業改⾰」が打ち出された。総理大臣が本部長を務める農林水産業・地域の活力創造本部が本年6月1日決定した「農林水産業・地域の活力創造プラン」改訂版は、「平成の農地改革による多様な主体の農業への参入など、農山漁村には新たな風が吹きつつある」と謳っている。
 農林水産業の再建、持続可能な循環型地域経済の実現は喫緊の課題である。
 しかし、歴代自民党政権の農林水産政策の結果が今日の地方・地域の惨状を生み出したのだ。安倍政権の農林水産新時代は、この惨状に拍車をかけるだけである。
 「多様な主体」とは要するに企業参入のこと、「企業の風」が吹いているのだ。企業の農業参入で農業に変化が生まれているので、林業や漁業にも同様に企業参入を促進しようとしている。
 企業は「利益第一」で、儲けられなければやらない。「農水産物輸出強化」が盛んに言われるが、ごく一部の企業化した大規模農業ととりわけノウハウのある大手商社などは儲かるだろう。しかし、大多数の家族経営農林漁家には関係ないことだ。そもそも10兆円近く農林海産物を輸入しながら、1兆円の農海産物輸出目標とはどういうことか。そこには食料自給という民族自立の理念が存在しない。
 地域の消費者に輸入農畜産物ではなく、地域で生産された安全・安心な食料を供給する政策こそ求められる。食料自給は民族独立の基礎であり、国の安全保障に不可欠である。政府の政策は、零細を中心とする家族経営中心の農林漁業から企業経営への根本的な転換を進めるものである。これは地域社会を最後的に崩壊させ、民族の前途を誤らせるものである。

 国会は「森林経営管理法」を5月25日に成立させた。森林の荒廃と林業の衰退は、林家に経営意欲がないからではなく、森林経営が木材価格の低迷で成り立たないのである。多様な価値を持つ森林管理を総合的に評価し、国費投入による所得補償などが必要である。
 しかし、政府が進める政策は「企業林業」である。「経営管理法」では、所有者に森林を適切に管理する責務を課し、所有者が管理できない場合には管理権を市町村が取得。その上で採算ベースに乗りそうな森林は、意欲があると判断した林業者や企業に管理権を設定し直し、採算確保が難しい森林は市町村自ら管理することになっている。要するに零細な林家から森林を奪い取ろうというのである。市町村自治体にも新たな課題が突き付けられる。
 戦後の大造林政策で植林された木が50年以上を過ぎて伐採期を迎えた。だから、伐採(とくに皆伐)は一時的には儲かるだろう。しかし、伐採後再び植林し手入れして次の伐採期を 迎える50年後、100年後まで経済的利益はほぼないか少ない。安倍政権のこんな一時的政策で日本の森林が持続可能なはずはない。日本の森林資源が企業利益の餌食にされるのは間違いない(詳しくは、本誌7月号能美俊夫さんインタビューを参照)。
 また、改訂された「農林水産業・地域の活力創造プラン」には、「水産業の成長産業化」が書き込まれた。「漁船の大型化による生産性の向上」「新規参入がしやすい仕組み」「漁協改革」などが検討課題とされている。漁業資源を根こそぎ取り尽くすような漁業、大規模な養殖漁業ということだろうが、これも持続可能ではない。
 要するに、農業に続いて林業や水産業も規制緩和を進め、大規模化、企業化が進むような制度に変えて、大企業の利益に差し出せということである。しかし、利益追求の企業にとって儲かる農林水産業はごく一部で、一時的である。儲からなくなればどうなるか。農林水産業は「業」とはいえ、利益第一の企業経営では持続不可能なのである。

 日本の国土の7割は森林で、先進国の中ではフィンランド、スウェーデンに次ぐ3位の森林大国である。また、周辺海洋は広大で、漁業や資源の開発に関して排他的な権利を主張することができる海洋面積は世界6位、資源量を計算に入れた「海洋体積」という概念では世界4位という。資源小国といわれるわが国で、これらは最大の資源と言って過言でない。
 森林大国なのだが、木材自給率は約30%にとどまり、実に約1兆円もの林産資源を輸入している。アメリカはもちろん、ドイツ、フランスなど西欧諸国も林産物輸出国である。
 水産物を1兆8000億円ほども輸入し、わが国の漁業産出額は1兆6000億円弱で魚介類(食用)自給率は56%であり、アメリカに次ぐ水産物輸入大国である。

 戦後、日本を従属下に置いたアメリカが輸入を迫ったのは小麦や大豆だけではなかった。アメリカ石油メジャーが中東の原油を押さえた1950年代から、日本では「エネルギー転換」などと言われ石油がもてはやされるようになった。安価だった原油輸入で薪や木炭が燃料から駆逐され、石油から生まれる化学肥料に落ち葉や下草などを活用する有機質肥料(堆肥)も駆逐された。
 木材の輸入自由化も早い時期から進められて、建築でも外材が幅を利かせた。70年代以後の円高は輸入資源の競争力を強めた。こうして農畜産業だけでなく林産業も衰退させられ山河は荒れ放題となり、水産物もこれを追った。農林水産業の衰退は、対米従属政治の結果だ。

 民族的な自立のためにも、地域の持続発展のためにも、エネルギーと食料自給の確立は不可欠で、戦後の対米従属とその下での輸出大企業の利益優先政治を見直さなくてはならない。とりわけ地域発展のカギを握る農林水産業の再建のためには、国境措置も含めて見直しが必要である。農林水産業の多面的な価値を認め、個別所得補償を含む財政投入が不可欠である。「離島防衛」には、軍事力の駐留ではなくその島で生活できる農漁業の振興こそ基礎である。
 農林水産業を中心に地域資源を生かし食料とエネルギーの地域自給を目指し、地域経済を循環させ、国民経済を再興する政策への転換が必要である。

②「観光立国は起爆剤」になるか。地域での食料やエネルギー自給と結び付けないと地域は豊かになれない

 東京や箱根、大阪や京都などを中心に全国に外国人観光客が増え、外国人の日本国内での消費(インバウンド消費)は2兆5千億円を超え、経済効果もある。いずれにしろ人的交流は相互理解の始まりであり重要である。侵略・植民地支配の歴史を持つわが国は、中国や韓国をはじめ東アジアの国民間相互交流は極めて重要である。幸いにして昨年1年間の来日外国人観光客の74%強は中国(台湾、香港を含む)と韓国からである。
 観光産業の活性化は地域経済の発展にとって重要な課題である。
 だが、観光客が増えても地域が豊かになる保証はまったくない。
 「沖縄タイムス」5月2日の報道によれば、沖縄を訪れた観光客が買う土産菓子の7割は県外での製造という。沖縄県の食料自給率(エネルギー換算)は26%であり、それも特産品のサトウキビを除くと5%前後にまで落ちるという。価格換算でも自給は5割くらいにすぎない。さらに沖縄観光で重要な役割を担うレンタカーの大半は中央資本のトヨタやオリックスである。ホテルも同様である。
 観光客が落としたお金が地域にとどまらず中央資本に吸い取られる、地域で循環しない。観光客が増えても地元はそんなに潤っていないのである。

 「持続可能な地域社会」を一貫して追求し重要な問題提起をしている藤山浩氏の『田園回帰1%戦略』(農山漁村文化協会)によると、観光業や製造業のような地域にカネを落としそうな産業も含めて、「域外調達」額が「域外出荷」額の倍近くになっているという。製造業や観光業も含めて地域は稼いでおらず、付加価値の域外流失になっている、地域の貧困化が進んでいると結論付けている。
 製造業にしても観光にしても、地元は安い労働力だけでは、青年労働者や女性、高齢者などが低賃金でこき使われ、地域を疲弊させるだけである。稼いだ付加価値の域外流失を減らして地域にとどまらせ、さらに何回も循環するような地域経済を実現してはじめて、そこに暮らそうと「田園回帰」を望む若者が地域で所得を得て生活可能となると提言する。

 一般的にどの地域でも最大の「域外調達」項目、付加価値の域外流失をもたらしているのはガス、電力、灯油、ガソリンなどのエネルギーである。日本全体では、エネルギー(鉱物性燃料)輸入額は輸入総額(約86兆円、2014年)の3分の1、約28兆円もある。原発に依存しないことはもはや当然として、CO2を排出する鉱物性エネルギーにも依存しない、自然エネルギー化を強力に推進する必要がある。
 とくに重要なことは、それにとどまらず地域の資金を使って地域でエネルギーを自給し、地域に雇用も生み出して地域経済を発展させる循環型の政策が求められる。
 今、大銀行、大企業も、「持続可能な」ということで新たな儲け口として自然エネルギーに殺到している。しかし、中央大資本に資金を依存する「植民地型自然エネ開発」では、地方は引き続き中央大資本の「植民地」にとどまり、持続的な自立発展は望めない。東京都市大学の枝廣淳子教授は「もし太陽光パネルや風力タービンなどが、東京など域外の資本を使って、域外の事業者によって建設されているとしたら、売電益のほとんどは域外に出て行ってしまい、地域に残るのは(施設設置の)土地代だけとなってしまう」と指摘して、「『植民地型』からの脱却」を主張している(『地元経済を創りなおす』岩波新書)。なお、京都大学の諸富徹教授も『人口減少時代の都市』(中公新書)で同様の内容を提起している(本誌5月号参照)。
 「置賜自給圏推進機構」代表の渡部務さんも、地域から大きな付加価値の流失となっているエネルギーと食料の地域自給を進めることで地域経済発展の展望を描いている(本誌4月号参照)。
 こうした地域経済の循環的発展を実現し、地域の稼ぎが地域にできるだけとどまるようにすることなしに「観光立国は地域経済の起爆剤」とはならない。

③政府の目指す「地方制度改革」議会の監視もない「連携圏域」を行政単位に

 支配層は人口減を口実に地方自治の最後的破壊をたくらんでいる。
 安倍政権は7月5日、第32次地方制度調査会を立ち上げ住友林業市川晃社長を会長に据え、「(人口減少などの)課題について具体的な解決策」を求めた。
 地方制度調査会立ち上げに先だって、総務省の有識者研究会がその方向性を7月3日に野田聖子総務大臣に提言した(「自治体戦略2040構想研究会」第2次報告)。そこでは、「中核都市を中心に近隣市町村の連携圏域」を「法的に行政単位とする」こと、「圏域」を地方交付税の交付対象とし、半面、とくに小規模自治体への交付税配分を減らし、独自のまちづくりを抑制する方向などが示されている。

 これは従来あった近隣自治体が協力して観光PRをするといった類いの自治体連携とは質が違う。
 政府は、「法的な行政単位」を「まちづくりを担う行政主体」と位置付ける方向である。地域の社会基盤、インフラをどう配置するか等々を中核都市を中心とする行政単位としての「圏域連携」に委ねることになる。そこには住民から選出された首長も議会もない。今の首長や地方議会が真に民主的に選出され運営されているかといった問題は多々あるにしても、住民の声はますます反映しにくくなる。
 小規模な市町村の廃止につながる。総務省幹部も「圏域全体を効率的に運用するためには、小さな自治体の役割の縮小は避けられないだろう」と語っている(7月4日「読売新聞」)。
 この制度、仕組みは、「3割自治」とか揶揄される地方自治、民主主義の完全な否定だ。日本経団連中西宏明会長(日立製作所会長)は7月の「夏季フォーラム」閉会後に、あけすけに次のように語った。「経済界は地方自治のあり方を根本的に変えなければならないと認識している。ただ、根本的に変えようとすれば、政治の面で大変難しい問題に直面する。このため、まずは広域連携を進めていくことが、抵抗感なく取り組める現実的な対応となる。道州制という言葉に抵抗感がある中では、広域連携、地域連携を実質的に進めることが重要である」と。

 第1回の地方制度調査会会合では、「市町村が独立自主の精神で頑張ろうとする努力に『法制化』は水を差すものだ」(全国市長会立谷秀清会長、福島県相馬市長)といった意見が相次いだという。当然である。
 「3割自治」の地方自治制度は、さらに骨抜きになる。故翁長雄志沖縄県知事が進めたような悪政への抵抗はさらに困難となる。財界が狙うのは主として「安上がり」の政府だろうが、自民党や政府の狙いには「抵抗させない」ことも含まれている。

4 地方政治の現状とわれわれの課題

 第1章でふれたが、地方・地域住民の貧困化は限界点を迎えており抜本対策が不可欠となっている。言うまでもなく地域の疲弊と貧困化は戦後の歴代自民党政権の中央政治の結果である。
 権限も財政も十分でない地方自治体の手に余る面が多いのも事実である。しかし、この現状をもたらした一端は自治体にも責任はあるし、現に貧困に苦しむ住民を目の前にその責任は大きい。住民が、地域の疲弊と自らの貧困打開を地方自治体に期待するのは当然である。
 来年の統一地方選が、その打開策をめぐる論戦と転換の契機とならなくてはいけない。
 地域経済の維持が重要だが、そのためにも社会保障の維持・強化は地方政治の喫緊の課題である。政府は少子高齢化、人口減少を根拠に、根本から社会保障制度を解体しようとしている。この政策に全面的に反対するとともに、地方自治体の権限でできることを進めなくてはならない。前回もふれたが、戦後の社会保障の充実に地方自治体が果たした役割は非常に大きい。
 社会保障充実でやれることは多い。財源がないわけではない、何に使うかである。貧困層、とりわけ子供を持つ単身女性や高齢者支援の強化は待ったなしである。
 同時に、中長期に地域発展を促す経済政策・地域政策が必要である。
 地域経済を牛耳る反動的な保守勢力は、まやかしもと自己の利益のためだが「経済政策」を持っている。しかし、その批判勢力、「左」の勢力は、経済政策にほとんど関心を払わない。これではこの深刻で、しかも技術革新が急速に進む地域の中で、自治体政治といえども多数派にはなれないであろう。激しい変化の中に生きている地域諸階層が将来を託せないからである。

(1)西日本豪雨大災害が私たちに迫っていること

 あの豪雨警報の中での「赤坂自民亭」騒ぎは「安倍政権の姿勢の表れ」(舟山康江氏)にほかならない。政府対策の遅れも論外である。万全の対策を改めて政府に要求する。
 それにしてもこの事態は、この国が根本的な転換が必要となっていることを教えている。
 治水は古来、政治の基礎であり、政治の始まりであり、国の責任である。アメリカに迫られた1980年代後半の「開放経済」体制以後、とくに「構造改革」政治を始めた橋本龍太郎政権、本格的には小泉純一郎政権の頃から治山治水事業なども含めて国民生活を徹底して軽視・無視して輸出大企業を支援した政治となった。それは明らかである(グラフ参照)。
 だが、問題は深刻で、すでにふれた戦後の対米従属下での農林業政策の結果、緑のダムと言われる森林や水田・農地が荒れ放題となり保水能力を大幅に失い、むしろ流木などが被害を拡大した。国土が限界にきているのである。広島県で顕著だったが、過去に土石流が襲ったような地域で山が崩され宅地化乱開発が進められ、倉敷市真備地区のように古来氾濫に備えて遊水地として機能してきたような水田が埋め立てられ宅地となる。生業として生計を維持できない農林業政策、企業利益だけの乱開発政策等々、輸出企業の効率化一辺倒の戦後政治の結果が引き起こした大水害と言わざるを得ない。
 豪雨は自然現象だが、今回のような異常さの遠因あるいは真因は、地球温暖化での気温上昇に伴う降雨量増加を抜きには考えられない。最近の猛暑も同様の原因という。この2世紀来の近代工業化・大量生産、利潤追求だけの経済の限界、問題点を露呈していると言えるのではないだろうか。
 戦後政治の転換なしには悲劇が繰り返されることになる。さらには大量生産、利潤追求一辺倒の経済運営の全面的な見直しが必要となるであろう。

(2)「東京一極集中型」か「地方分散型」か。今が選択の時

 多くの自治体の地域振興、「経済政策」「雇用政策」は一貫して外部からの企業誘致だった。特に1990年代後強調され、より有利な条件を自治体間で競争させられてきた。今もまだそうである。
 しかし、企業誘致の結果はすでに出ている。有利な条件を選んで地域に進出した工場は、さらに安い労働力など有利な条件を求めて海外に移転した。
 辛うじて半導体関連産業や自動車産業などはまだ多くの地域に残っている。今年の2月議会でも多くの県知事など自治体首長は施政方針で、これら産業の発展を地域振興策としている。
 しかし、第1章でふれたように、今日の貿易戦争と「産業革命」の急進展で、その前途は一転して厳しいものとなっている。トヨタ自動車ですら例外でない。そもそもグローバル経済そのものが限界にきている。地域発展戦略の全面的見直しなしに持続は不可能となっている。

 京都大学こころの未来研究センターの広井良典教授を中心とするグループは昨17年9月、「AIを活用した日本社会の持続可能性と政策提言」に関する研究成果を公表した(本誌本年4月号参照)。その内容は、現状のまま推移すると日本社会は持続可能性の面でさまざまな困難や危機に遭遇する可能性が大きいという問題意識のもとで、AIを活用して50年頃に向けた約2万通りの将来シミュレーションを行い、採られるべき政策の選択肢を提起するという趣旨であった。
 以下簡単にシミュレーション結果とそこから導かれた政策選択の提起のポイントを紹介する。

 都市集中シナリオでは、主に都市の企業が主導する技術革新によって、人口の都市への一極集中が進行し、地方は衰退する。地方分散シナリオでは、地方へ人口分散が起こり、出生率が持ち直して格差が縮小し、個人の健康寿命や幸福感も増大する。
 今から8~10年後に、都市集中シナリオと地方分散シナリオとの分岐が発生し、以降は両シナリオが再び交わることはない。
 日本社会の持続可能性を考えるにあたり、東京一極集中に代表されるような「都市集中型」か、それぞれの地方が多様な形で自律し豊かさを発揮していく「地方分散型」かという分岐での選択が日本の未来にとって決定的な意味をもつ。
 持続可能性の観点からより望ましいと考えられる地方分散シナリオへの分岐を実現するには、労働生産性から資源生産性への転換を促す環境課税、地域経済を促す再生可能エネルギーの活性化、まちづくりのための地域公共交通機関の充実、地域コミュニティを支える文化や倫理の伝承、住民・地域社会の資産形成を促す社会保障などの政策が有効である。
 しかし、地方分散シナリオは、都市集中シナリオに比べると相対的に持続可能性に優れているが、地域内の経済循環が十分に機能しないと財政あるいは環境が極度に悪化し、分岐の後にやがて持続不能となる可能性がある。これらの持続不能シナリオへの分岐は17~20年後までに発生する。持続可能シナリオへ誘導するには、地方税収、地域内エネルギー自給率、地方雇用などについて経済循環を高める政策を継続的に実行する必要がある。

 ――といった趣旨である。広井教授は、「日本社会が持続可能なものになっていくためには、分散型の社会システムに転換していくこと、そしてローカルな自治体やコミュニティが自律度を高めていくことが決定的に重要であることが示されたことは、地方分権や地方自治という観点からも大きな意味をもつものと考えられる」と、本誌での報告を結んでいる。地方自治体政治にかかわる人びとは真剣に学び検討する必要がある。
 紙幅がないのでふれられないが、東京圏を中心とする大都市圏も早晩、持続不可能に陥る。当面する課題である青年や単身女性、高齢者などの貧困問題、中長期には急速に進む超高齢化で医療や介護、福祉など大都市圏でも問題は深刻であり真剣な対処が求められる。

(3)アメリカ依存の安全保障政策も見直しの時

 故翁長雄志沖縄県知事は6月23日、「慰霊の日」平和宣言で、「沖縄の米軍基地問題は日本全体の安全保障の問題。国民の皆さまには、基地の現状や日米安全保障体制のあり方について真摯に考えていただきたい」と遺言を残した。それに応えるかのように全国知事会は、7月の全国知事会議で「日米地位協定抜本見直し」の提言を全会一致で採択した。
 これもすでに第1章でふれたが、アメリカはあらゆる手段を駆使して中国の台頭を抑え込み、覇権を維持しようとしている。当面しては、中国の技術革新国家戦略である「中国製造2025」を阻止して、21世紀の技術覇権を握り続けようと圧力を強めている。それはホットな戦争の危険を含む争いとなっている。
 日本は、このアメリカにどこまでもついて行くのか。激変の国際環境である。これまで通りアメリカに従属し同盟関係に縛られて、中国などアジアの近隣諸国と再び敵対してやっていけるはずがない。

 持続不可能となった戦後日本はどこから見ても限界にきて、今、岐路に立たされている。地方から、「新しいもう一つの日本」を目指す政策と世論形成を急がなくてはならない。

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