EV(電気自動車)化に伴う自動車産業の構造的変化と県民生活への影響について

特集 今、地域で何が進んでいるか

広範な国民連合北九州懇談会・世話人 中村哲郎

 広範な国民連合・福岡は、昨年12月の総会決定に沿って地域に入って調査活動を進めようとしている。金融危機後の経済危機と急速に進む技術革新の下で、とりわけ県内のリーディング産業と位置付けられてきた自動車産業がEV化などの影響を大きく受けて地域経済の激変が予想され、県民各層の暮らしに大きな影響が出ると見られるからである。
 今回、県世話人会の事前学習会で北九州懇談会の世話人の一人である中村哲郎氏が「EV(電気自動車)化に伴う自動車産業の構造的変化と県民生活への影響について」というテーマで報告した。その上で、①自動車産業が集積する地域の現場に入って、とりわけ逆風を受ける企業の経営者の話を聞き、行政に何を求めているかを聞き取る、②できれば現場の労働者、労働組合があるところでは組合の役員から、労働者の要望を聞き取る、③そうした要望を対行政の課題、とりわけ福岡県政に対する課題とする、④そのためには地方議員の役割が大きいので、協力できる地方議員と共同して、調査活動などに当たる、⑤引き続き調査活動を続けながら、次回、もう少し広い範囲の人たちに呼びかけて学習会を開催する、などを今後の活動方向として確認した。
 大企業は、企業間の国際競争に打ち勝とうと急テンポで、IoT、AI、ロボット化など技術革新に対応する合理化を進めている。疲弊した地域経済の中で自動車や電機など生き残った産業分野でも大打撃が避けられない。こうした中での福岡の取り組みは全国的に重要な意味をもつであろう。中村氏の報告要旨を紹介する。【編集部】

 電気自動車(EV)化の流れが加速していて、自動車産業には大きな構造的な変化が起ころうとしています。その背景についてお話ししたい。そしてもう一つは、そういう大きな構造変化の中で、日本の自動車産業、特に福岡県は麻生県政・小川県政の中で、北部九州自動車産業アジア先進拠点構想として「180万台生産」を目標にするなど、県政の重要な柱にしているわけですから、そこにどのような影響が及ぶのかということをお話しします。

自動車産業の現状

 世界で販売されている車の数は、2016年で9千500万台です。やがて1億台を超えるだろうといわれています。そのうち最も多いのは中国で2千800万台。アメリカが1千800万台弱です。つまり中国とアメリカで、世界中で売れた車の約半分を占めているわけです。ですから、自動車産業にとっては、中国とアメリカでどれくらい売れるかということが命運を決することになります。
 グラフで見ていただくと分かるように、09年頃に中国とアメリカの販売台数が逆転しています。リーマン・ショックの後、伸び率は低下していたのですが、16年から回復しています。ジェトロの報告では「16年の回復は、世界最大の自動車市場である中国が、販売台数で13・7%増の2千803万台、生産台数で14・5%増の2千812万台と大幅に増加したことが最大の要因である。16年の世界生産拡大の8割以上を中国が支えたことになる」としています。ですから車の市場では、中国の市場をどう押さえるかが決定的になるということです。

EV化への動き

 次にEV化への動きについてお話しします。中国政府は「省エネルギー・新エネルギー自動車産業発展企画(2012~20年)」を発表し、EVとPHV(プラグインハイブリッド車)の累計生産・販売台数を15年までに50万台に、20年までに500万台以上にする方針を出しました。世界最大の市場である中国が、「これからはガソリン車は売らせないぞ。電気自動車しか売らせないぞ」という方針を決めたわけです。そうすると、日本にしろアメリカにしろドイツにしろ、自動車の生産メーカーは、電気自動車を製造するしかないわけです。性能のいい、しかも安い電気自動車を造って中国で売る。この道しかないわけです。
 中国はなぜそういう方針をとったのか。中国は大気汚染がひどいから、排気ガスもCO2も排出しない電気自動車に変えていくということです。環境汚染とか、地球温暖化を防ぐためということにしていますが、それも大事なことでしょう。実際の中国政府の狙いは、自動車産業での覇権を中国が握ろうということだという見方もあります。ガソリン車は大変な技術の積み上げが必要です。現状では中国はとても追いつけない。ドイツや日本の技術水準に引き上げるのは並大抵のことではない。電気自動車の構造は、ラジコンカーを思い浮かべてもらえばいい。電池とモーターで車輪を回すわけです。ガソリン車に比べると部品は4割くらい少なくてすむそうです。技術的にもそれほど難しくはない。それでアメリカもそういう方針を出した。これが百年に一度あるかないかともいわれる自動車産業をめぐる大きな構造変化の背景です。

製造業に占める日本の自動車産業の位置

 日本で自動車業界に関わる就業人口は約534万人です。これは全就業人口の8・3%に当たります。その内訳を見ると、自動車製造業が18・8万人、自動車部品製造が62・6万人、鉄鋼やプラスチック、ゴム、ガラスなどの素材関連に45・6万人、貨物、旅客、ガソリンスタンドなどの関連サービス部門が407万人となっています。
 さて、福岡県内には自動車関連の企業は400社ほどあるといわれています。EV化が進めば、追い風を受ける事業所もありますし、逆風を受ける企業も出てきます。私たちの立場から言うと、追い風を受ける企業には、「雇用を増やしてほしい」「賃金を上げてほしい」と言うわけですが、逆風を受ける企業にはどう言えばいいのでしょうか。仕事がなくなり、会社を閉じれば、労働者は首になりますよね。そうした事業所が県内にどのくらい出るのか。そこではどれくらいの労働者が働いているのか。さらにはその400社がどういう地域に存在しているのか。まずそういうことを調べる必要があります。
 ここで、福岡県は自動車産業の中でどういう位置を占めているかを見ましょう。まず自動車の出荷額を見ますと、もちろんダントツは愛知県です。それから静岡、神奈川、群馬、広島ときて、福岡県は6番目です。従業者数を見ますと、これも愛知が一番ですが、福岡県は12番目に入ります。福岡はそういう県、自動車産業の占める割合が大きい県だということが分かります。

福岡県行政の姿勢

 それでまず行政に対して、関連するデータを出してほしいということで要請をしました。私たちがとりあえず必要だと考えるデータは次のような項目です。Ⅰ、福岡県における輸送機器産業の出荷額は、製造品出荷額全体の何%を占めるか。全国のランキングは何位か。Ⅱ、自動車製造業は輸送機器産業全体の何%を占めるか。Ⅲ、EV化で影響を受けると考えられる自動車部品、具体的には①自動車用内燃機関の部分品・取付具・附属品(日本標準産業分類311314、以下同)、②駆動・伝導・操縦装置部品(311315)、③懸架・制御装置部品(31116)、のそれぞれについて、県内の事業所数、従業者数、出荷額と、自動車製造業に占める構成比。
 ここで(日本標準産業分類)の6桁の数値の説明をします。初めの2桁の数字、ここでは31ですが、これは輸送用機器産業を表しています。その中がさらに細分化されて、3111は自動車製造業(二輪自動車を含む)、3112が自動車車体・附随車製造業、3113は自動車部分品・附属品製造業と、この3つで構成されています。それらがさらに細分化されていて、311301から続くわけですが、ここではEV化の影響を受けると思われる311314~16の3つを指定しているわけです。
 そこで私たちは福岡県庁の調査統計課に行って、上に挙げたようなデータを出してくれるように話をしました。県は何と答えたか。この調査は国からの委託で県が行っているわけですが、「3111~13の4桁の番号のところまでは県が整理しているけれども、6桁の番号のところまで集計するということになると膨大な作業になって、今の職員の配置ではやれない」と、こう言うわけです。それで私は、「EV化が進むとどういう事業所が逆風を受けるかということを、県は把握できないということですね」と聞きました。また「調査した結果の整理や分析を県がやっていないとすると、それは国がやっているんですか」とも聞きました。明確な答えはありません。「この間ずっとやっていないんですか」と聞いたら「やっていない」と言うから、「それでは福岡県は、明確なデータも持たずに県政をやってきたんですか」と聞いたら、「ここは調査統計を作るところですから、商工部の○○課に行ってください」ということでした。
 そして「ほかの県でもそこまではやっていないと思いますよ」ということでしたから、これは他県の状況を調べてもらっています。それから、データの公開については、「国にどこまで公開してよいかを申請して、許可が出た範囲で公表します」と、こういう返事でした。
 これは私の感想ですが、おそらく県はデータを持っているんだと思います。だけど出したくないのだろうと思っています。
 それから「ぶぎん地域経済研究所」というところが出したデータがあります。「ぶぎん」というのは武蔵野銀行のことで、埼玉県に本店があります。この研究所が埼玉県における自動車関連企業の動向を分析しています。ここに「自動車関連製品とEV化で不要となる部品群の出荷額」というデータがあります(表3)。埼玉県です。これが先ほどお話しした3111~という分類に当たります。ぶぎん研究所は何らかの形でそのデータを手に入れて、試算したわけです。そうすると、この3つの分野での出荷額(A)が2兆1440億円。そのうちEV化で不要となる部品出荷額(B)が5千368億円で、全体の25%に当たると試算しています。

 県の役人に「埼玉のこういうデータがありますよ」と見せたら、さすがですね、表の下に「経済産業省、各種出版物資料をもとに当研究所で作成」とあるのを目ざとく見つけて、これは「県のデータで作成したものではないじゃないですか」と反論しました。

EVが自動車部品サプライヤーに与える影響

 先ほど表を見た「ぶぎん地域経済研究所調査事業部」の報告資料は次のように述べています。「EVでは、エンジンに代わってモーターやバッテリーなど従来使われていない部品の需要が新しく生まれる。一方で、エンジン、トランスミッションを中心に、車を駆動させるために必要だった部品が不要になり、対象部品を製造する企業への影響が懸念されている」
 「2014年の製造品出荷額の総額は12兆3908億円で、輸送用機器産業は2兆2012億円と全体の17・8%を構成している。この中で車体、部品を含む自動車製造業は2兆1440億円で、輸送用機器産業全体の97・4%を占める。あらためて自動車産業が県の中核産業を担っている現状が分かる」とあります。
 ここまでは公表されているデータで調べられます。
 さらに報告書は「ここから、EV化で影響を受けると考えられる自動車部品を抜き出してまとめたものが表3だ。内燃機関の部分品・取付具・附属品やブレーキ関連部品など出荷額は約5千368億円にのぼり、自動車関連製品の25%を占めている」と述べています。この部分が、福岡県では公表されていません。「全国どの県も公表してないはず」との答えでした。
 もう少し報告書を読みますと、「EV化が進めば中長期的に県内製造業へ影響を及ぼすことは避けられない。エンジンは機械的に作動するメカニカル機構の部品が多いことから、金属を工作機械で切削したりする中堅・中小製造業への影響がまず懸念される。さらには、加工後の製品を熱処理やめっき処理する表面処理事業者などへの影響も心配され、機械、金属などその影響範囲は広いと考えられる。一方、樹脂や電子部品などの産業は追い風になると見られる」とあります。
 私はさらに次のことを付け加えたいと思います。「EV化と並行して自動車メーカーが開発を進める自動運転、カーシェアリングの動き、ガソリンスタンド減少への影響なども考慮すべき」だと思います。

何はともあれ調査活動が必要になる

 以上がこれまでに調べたことの概要ですが、これから私たちはどこに出かけて行って、何を調査するのかということが大事になります。エンジン関連ということで言いますと、トヨタ自動車九州の苅田工場が、エンジン、足まわり部品43万基生産とあります。ダイハツの久留米工場がエンジン、トランスミッション部品32・4万基生産と書かれています。これらと取引のある事業所、その周辺には逆風を受ける事業所がありそうな気がします。先ほど福岡県に関連企業が400社ほどあると言いましたが、住所などはすべて分かります。そういう所を訪ねて行って、「社長さんとお会いしたい」と直接話し込むことなども考えなければなりません。そうすると、「こういうことを心配している」「あそこの事業所も頭を抱えている」というような話が出るかもしれません。その要望を市や県に伝えていく。そういう調査活動がこれから必要になってくるかと思います。
 かつて石炭から石油へというエネルギー転換の中で、筑豊や三池でも大変な状況になった。それと同じような状況が自動車業界で起こる可能性がある。そうした観点から、広範な国民連合として調査・研究をして、県や市町村の行政に要求を出していく、対応を求めていく。そういうことが求められているのだと思います。