国民を守らない政治への対処方針

発想の転換

東京大学 鈴木宣弘

規制緩和、自由貿易の正体~グローバル企業への便宜供与

 米国民が否定したTPP(環太平洋連携協定)をTPP11(米国抜きのTPP)で推進し、TPP型の協定を「TPPプラス」(TPP以上)にして、日欧EPA(経済連携協定)やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)にも広げようと日本政府は「TPPゾンビ」の増殖に何故に邁進するのか。
 国家戦略特区に象徴される規制緩和はルールを破って特定企業に便宜供与する国家私物化であり、TPP型協定に象徴される自由貿易は国境を越えたグローバル企業への便宜供与で世界の私物化である。つまり、自由貿易=グローバル企業が自由にもうけられる貿易であり、グローバル企業の経営陣は、命、健康、環境を守るコストを徹底的に切り詰めて、「今だけ、金だけ、自分だけ」(3だけ主義)でもうけられるように、投資・サービスの自由化で人々を安く働かせ、命、健康、環境への配慮を求められてもISDS(投資家対国家紛争処理)条項で阻止し、新薬など特許の保護は強化して人の命よりも企業利益を増やそうとする。利権で結ばれて、彼らと政治、メディア、研究者が一体化する。これが規制緩和、自由貿易の正体である。

 格差拡大、国家主権の侵害などを懸念し米国民の圧倒的多数が否定したのがTPPだ。日本を含む多くの市民の声も同じなのに、大多数の市民の声とグローバル企業と結託した政治家の思惑とが極度に乖離した政治状況は各国ともに何ら改善されていない異常さをTPP11の推進を目の当たりにして痛切に感じる。このように、国民の声と政治は必然的に乖離する。「1%対99%」と言われるが、政治は1%の「お友達」の利益のために進められるから、99%の声は無視される。日本が最も極端であり、そうしたグローバル企業などの要求を実現する窓口が規制改革推進会議であり、官邸の人事権の乱用で行政も一体化し、国民の将来が一部の人たちの私腹を肥やすために私物化されている現状は限度を超えている。

「恣意的」影響試算は国内対策検討の議論の土台たり得ない

 2017年末に、TPP11や日欧EPAの影響についての政府試算が発表されたが、国内対策の検討に使えるものではない。その前提は①価格下落以上に生産性が伸びるとか、②下がるはずの賃金が逆に上がるとか、③GDP増加と同率で投資が増えるとか、どれも恣意的なドーピング薬で、効果がいくらでも水増しできる。まず、純粋に貿易自由化の直接効果だけをベースラインとして示し、その上で、生産性向上がこの程度あれば、このようになる可能性もある、という順序で示すのが、「丁寧・真摯」な姿勢であろう。

生産性向上効果の恣意性

 「価格が10%下落してもコストが10%以上下がる」と仮定すれば、GDPはいくらでも増やせる。
 「生産性向上メカニズム」として、「貿易開放度(GDPに占める輸出入比率)が1%上昇→生産性が0・1%上昇(TPP12のときは0・15%)」と政府試算は見込む。
 2013年の当初試算では「価格1%下落→生産性1%向上」と見込んでいたのを上記のように改定してGDP増加は4倍以上に膨らんだのだから、これは「価格の下落以上にコストが下がる」と仮定しているのと実質的に同値とみなしうる。

賃金が上がるとは到底考えられない

 次に、「労働供給増加メカニズム」として、生産性向上が実質賃金を上昇させ、「実質賃金1%上昇→労働供給0・8%増加」と見込む。雇用の増加数をこんな単純に見込むことの大胆さにも驚くが、そもそも、賃金が上がるとは到底想定できない。
 例えば、ベトナムの賃金は日本の1/20~1/30である。投資・サービスが自由化されたら、アジアの人々を安く働かせる一方で、米国の「ラストベルト」のように、日本の産業の空洞化(海外移転か日本国内での外国人雇用の増大)による日本人の賃金減少・失業・所得減少こそ懸念される。米国民のTPP反対の最大の理由が米国人の失業と格差拡大だったことを想起すべきである。
 さらに、「供給能力増強メカニズム」として、「GDP1%増加→投資1%増加」で供給能力が増強される。これは単なる希望的観測である。

生産者損失の過小評価

 農林水産物も、価格が下がれば生産は減る。価格下落×生産減少量で生産額の減少額を計算し、「これだけの影響があるから対策はこれだけ必要だ」の順で検討すべきを本末転倒にし、「影響がないように対策をとるから影響がない」と主張している。政府の影響試算の根本的問題は、農産物価格が10円下落しても差額補塡によって10円が相殺されるか、生産費が10円低下するから所得・生産量は不変とし、その根拠が示されていない点である。
 例えば、TPP11で酪農では加工原料乳価が最大8円/kg下がると政府も試算している。8円/kgも乳価が下がったら、廃業や生産縮小が生じるはずなのに、所得も生産量も変わらないという。補給金が8円増加するわけはない。畜産クラスター事業の強化で生産費が8円下がる保証もないが、可能だと言うなら根拠を示すべきだ。しかも、加工原料乳価が8円下落しても飲用乳価が不変というのは、北海道が都府県への移送を増やし、飲用乳価も8円下落しないと均衡しないという経済原理と矛盾する。
 ブランド品への価格下落の影響は1/2というのも根拠がない。例えば、過去のデータから豪州産輸入牛肉が1円下がるとA5ランクの和牛肉は0・87円下がるという、ほぼパラレルな関係にあるとの推定結果もある。
 日本側の形式的評価と実際の影響が乖離する可能性は、輸出国側の評価でわかる。例えば、豚肉について、日本側は「差額関税制度が維持されたので9割は現状の価格で輸入される」としているが、EU側は「日本の豚肉は無税になったも同然(almost duty free)」と評価している。この意味は重大である。
 また、牛肉・豚肉は赤字の9割補塡をするから所得・生産量が変わらないというのも無理がある。農家負担が25%あるから実際の政府補塡は67・5%で、平均的な赤字額の67・5%を補塡しても大半の経営は赤字のままだから全体の生産量も維持できない可能性が大きい。
 「食料自給率は変わらない」というのも説明不能である。輸入価格低下で輸入量が増加するから、仮に国内生産量が不変とした場合、食料自給率は低下するはずである。

EU産チーズの輸入枠はないに等しい~実質は無制限の関税撤廃

 TPP合意でも多くのハード系ナチュラルチーズ(チェダー、ゴーダなど)の関税撤廃が最大の打撃といわれ、大手乳業メーカーは50万トンの国産チーズ向け生乳が行き場を失うと懸念し、北海道生乳が都府県に押し寄せて、飲用乳価も下がり、共倒れになると心配された。
 それなのに、EUとの交渉では、さらにソフト系(カマンベール、モッツァレラなど)も輸入枠は設定したものの、枠数量 は2万トン(初年度)から3万1千トン(16年目)(生乳換算×12・65=40万t)と拡大し、17年目以降の枠数量は国内消費の動向を考慮して設定するとされ、実質的に継続的な枠の拡大が約束されており、枠内関税は段階的撤廃となった。EUからの輸入量に応じて枠を拡大していく、つまり、実質は無制限の関税撤廃に等しいのである。これでは、国産チーズ向け生乳50万トンが行き場を失い、乳価下落の負の連鎖によって酪農生産に大きな打撃が生じる可能性は一層強まったと言わざるを得ない。
 米国はソフト系チーズの生産が少ないからTPPではソフト系は守れたが、EUはソフト系に強いから、今度は、それも差し出すことになり、結局、全面的自由化になってしまったという流れは、いかにも場当たり的で戦略性がないことを示している。TPPでもEU・カナダFTA(自由貿易協定)でもわずかな枠の設定にとどめ、乳製品関税を死守したカナダとはあまりにも対照的である。

TPP11でTPP12以上に増幅される打撃

 しかも、米国を含むTPPで農産物について合意した内容を米国抜きのTPP11で修正せずに生かしたら、例えば、オーストラリア、ニュージーランド、カナダは、米国分を含めて日本が譲歩した乳製品の輸入枠を全部使えることになる。バターと脱脂粉乳の生乳換算で7万トンのTPP枠が設定されているが、そのうち米国分が3万トンと想定されていたとすれば、米国が怒って米国にもFTAで少なくとも3万トンの輸入枠をつくれということになるのは必定で、枠は10万トンに拡大する。
 かつ、すでに米国がTPPも不十分としてTPP以上を求める姿勢を強めていることから、米国の要求は3万トンにとどまらないであろう。結果的に日本の自由化度は全体としてTPP12より間違いなく高まり、国内農業の打撃は大きくなる。ただでさえ設定量が大きすぎて実効性がないと評されていた牛肉などのセーフガード(緊急輸入制限)の発動基準数量も未改定だから、TPP11の国は、米国抜きで、ほぼ制限なく日本に輸出できる。
 このように、強引に合意を急ぐために日本農業は「見捨てられた」。新協定の6条で、TPP12の発効が見通せない場合には内容を見直すことができることにはなっているが、何をもって米国の復帰なしが確定したと判断するのかも難しいし、協議を要求できるだけで義務付けられていないため、他国が容易に応じるとは思えず、本当に見直せるか、極めて不透明である。「気休め」条項にごまかされてはいけない。

国産牛乳が飲めなくなる?

 酪農は「トリプルパンチ」である。日欧EPAとTPP11の市場開放に加えて、農協共販の解体の先陣を切る「生け贄」にされ、「50年ぶりの見直し」という言葉に喜ぶ官邸と規制改革推進会議の「実績づくり」のために勝手に酪農協の崩壊へのレールも敷かれてしまった。
 最初から結論ありきで、①補給金対象を限定しない、②全量委託を要件としない、ことが決まってしまい、日本の生乳の97%を流通させてきた指定団体の結集力の土台が崩され、あとは条件闘争のみになっていた。
 当初、所管官庁は抵抗したが、担当局長も担当課長も異動になったのち、当該局長は1年後に退職した。後任の担当局長や担当部局は政省令で何とか工夫しようとしているが、「小細工無用」との監視の目が光っている。
 バター不足が指定団体にかかる規制によってもたらされているので、取引を自由化すれば酪農家所得が上がるという論理を規制改革推進会議は主張するが、酪農家が個別取引で分断されていったら、英国の経験が如実に示すように、買いたたかれ、流通は混乱する。生乳生産の減少が加速し、「バター不足」の解消どころか、「飲用乳が棚から消える」事態が頻発しかねない。消費者はチーズが安くなるからいいと言っていると国産牛乳が飲めなくなる危機を認識すべきだ。
 今でも、小売りの取引交渉力に押されて生乳は買いたたかれている。一方の市場支配力が強い市場では、規制緩和は、一方の利益を一層不当に高める(小売りの買いたたきを助長する)形で市場をさらにゆがめ、経済厚生を悪化させる可能性があり、理論的にも正当化されない。その場合は、規制緩和でなく、一方に偏る利益を是正するために、①取引交渉力を強化できる共販組織、②政策的なセーフティネット、が正当化される。
 しかし、「改正畜安法」が成立し、①は逆に弱体化されることになった。②については、従来、生乳生産費と販売価格との差額を補塡していた仕組みを改定し、2001年以降は加工原料乳に生乳1㎏当たり10円程度の固定的な補給金が支払われるのみなので、酪農家の生産費がカバーされる保証がなくなった状態が続いている。飲用乳に特化した施策はそもそもない。止まらぬ生乳生産の減少に歯止めをかけるには、せめて、牛豚のように家族労働費を含む生産費と市場価格との差を補塡する「酪農版マルキン」の導入が不可欠ではないか。

酪農・畜産の衰退では飼料米政策も破綻する将来展望の欠如

 TPP11、日欧EPA、日米FTA以前の段階で、このままの政策体系では、日本の食と農を持続的に守るのは困難な情勢になっていることを認識すべきなのに、このような「自由化ドミノ」を進めることは、まったく将来展望が欠如している。
 われわれの2015年の試算では、戸別所得補償制度を段階的に廃止し、生産調整を緩和していくという「新農政」が着実に実施された場合、10年待たずして米価は1俵(60㎏)で1万円を切ると見込まれた。
 このままでは、コメの総生産は15年後の2030年には670万トン程度になるが、コメの消費量は一人当たり消費の減少と人口減で、2030年には600万トン程度になる。なんと、生産減少で地域社会の維持が心配されるにもかかわらず、それでもコメは70万トンも「余る」のがコメの苦しいところである。

表1
2030年における品目別総生産・消費指数(2015年=100)と自給率の推定値

  生産 消費 自給率
コメ 87.71
(670万トン)
75.23
(600万トン)
115.35
84.22 75.23 111.80
生乳 65.99 65.77
(チーズ123.51)
52.62
牛肉 56.55 78.29 27.19
豚肉 40.04 125.84 10.96
ブロイラー  55.60 130.20 21.23

資料:JC総研客員研究員姜薈さん推計。
注:コメ生産の上段は2005-2010年データ、下段は2000-2005年データに基づく推計。その他は2000-2005年データに基づく推計。

 そこで、コメから他作物への転換、あるいは主食用以外のコメ生産の拡大が必要ということになるが、しかし、非主食用米のうち最も力点が置かれている飼料米については、その需要先となる畜産部門の生産が現状の4~5割程度まで大幅に縮小していくと見込まれるため、生産しても「誰が飼料米を食べるのか」という事態が心配される。
 貿易自由化を勘案しなくても、現状の政策体系では農村現場がうまく回っていかないのに、一層の自由化を進め、岩盤(所得の下支え)をなくす農政改革、農業関連組織(協同組合、農業委員会、農林水産省など)の解体などが進められたら、現場はどうなってしまうのか。

輸出は簡単に伸ばせない

 それから、日本食ブームなどを追い風に、日本からEUへの農産物輸出が期待できるという見方も冷静に見る必要がある。EUは厳しいGAP(農業生産工程管理)に基づく安全性基準や環境基準で、日本からの農産物輸入を容易には認めない傾向がある。
 畜産物では動物福祉(アニマル・ウェルフェア)の基準が高く(エサ原料の出所がわかること、カウハッチ・つなぎ飼い・豚のストールはダメなど)、日本の水準とはかけ離れているので、とても日本の現状の経営スタイルではクリアすることは現実的に難しい。こうした基準は形を変えた貿易障壁ともいえるが、これが日本からの農産物輸出の拡大の前に立ちはだかっていることを認識しないといけない。ユーレップGAPをグローバルGAPに名称変更し、取得費用と毎年とかの検査や更新費用も徴収するEUは戦略的である。
 しかも、EU各国で農家のグローバルGAP取得率は畜産では0・1%以下(英仏独ではゼロ)だという。自らは実行していないのに、日本には実行を条件とするなら極めて悪質な障壁である。しかし、グローバルGAP取得がEUへの輸出に必須なように言われているが、実は、それはグローバルGAP協会が言っているだけであった。
また、グローバルGAPは大手小売り・流通企業の「囲い込み」でもあるから、農家が買い手独占的な取引下に置かれる弊害にも留意が必要である。さらには、そもそもGAPは工程管理であり、例えば、有機農業のような高い質を実現するための農法とは同列でないことにも留意が必要である。
 このようにGAP普及については、さまざまな意図が絡んでいることを認識し、慎重な対応が必要である。

野菜14品目だけで約1000億円の損失も

 さらに、当研究室での試算では、主要野菜14品目に焦点を当てて関税撤廃の生産者・消費者への影響を推定した結果、生産額の減少総額は992億円と見込まれ、これだけで農産物全体の政府試算の最大値にほぼ匹敵し、政府試算がいかに過小か、そして野菜類への影響はほぼ皆無とみなす政府試算は重大な過小評価だとわかる。
 一方、テレビなどで関税撤廃による消費者利益(注1)の大きさが強調されるが、輸入価格下落の50~70%程度しか小売価格は下がらない現実を考慮すると、野菜14品目の関税撤廃による消費者利益の増加総額は897億円と推定され、価格が完全に連動していると想定した場合の消費者利益の増加総額の推定値1448億円の6割程度まで縮小する。さらには、失う関税収入は野菜14品目だけでも101億円と計算される。
 つまり、政府試算は「意図的に」生産者の損失を過小評価し、消費者利益を過大評価している側面が強い。

(注1) 消費者利益=(自由化前の価格︱自由化後の価格)×(自由化前の消費量+自由化後の消費量)/2

国民の命を守らない政治への対応方向~発想の転換

 以上のように、結局、国民や農林水産業者を欺く数字を「意図的に」出させた責任は誰がとるのか。欺かれた国民がツケを払わされるだけでは済まされない。
 しかも「影響がないように対策する」と言いながら、出されている対策は、「看板の付け替え」の類いが多く、影響を相殺できるような新味のある抜本的対策には程遠い。
 そもそも、農業については、家族経営の崩壊、農協解体に向けた措置(共販・共同購入の無効化、独禁法の厳格適用、信用・共済分離への布石)、外資を含む一部企業への便宜供与(全農の株式会社化→買収、企業の農地取得を可能にした国家「私物化」特区、種子法廃止、農業「移民」特区の展開)、そして、それらにより国民の命と暮らしのリスクが高まる事態が「着実に」進行している。
 さらには、農協・漁協への大手流通業者の取引交渉力を強め、農水産物の一層の買いたたきを促進する卸売市場の形骸化、国有林の民間払い下げ、漁業権を譲渡可能とする漁業権開放と漁協解体が俎上に載せられている。
 これらは「TPPゾンビの増殖」と相まって、延長された所管官庁のトップの在任中に、一連の農林水産業の家族経営や協同組合と所管官庁などの関連組織に「とどめを刺し」、国内外の特定企業への便宜供与を貫徹する「総仕上げ」を敢行するという強い意思表示と理解される。
 意気込んでいる人たちには「民間活力の最大限の活用」、「企業参入」と言っているうちに気付いたら、安全性のコストを極限まで切り詰めた輸入農水産物に一層依存して国民の健康が蝕まれ、日本の資源・環境、地域社会、そして、日本国民の主権が実質的に奪われていくという取り返しのつかない事態に突き進んでいるのだということに一日も早く気付いてもらわねばならない。

自分たちの力で自分たちの命と暮らしを支え合う共生システムの確立に向けて

 一方、スイスで1個80円もする国産の卵のほうが売れている原動力は、消費者サイドが食品流通の5割以上のシェアを持つ生協に結集して、農協なども通じて生産者サイドに働きかけ、ホンモノの基準を設定・認証して、健康、環境、動物愛護、生物多様性、景観に配慮した生産を促進し、その代わり、できた農産物に込められた多様な価値を価格に反映させて消費者が支えていくという強固なネットワークを形成できていることにある。
 政治が国民を守らないなら、生産者と関連産業と消費者が一体となって、自分たちの力で自分たちの命と暮らしを守る仕組みを強化していくことが不可欠である。
 日本では、国産牛乳供給が滞りかねない危機に直面して、乳業メーカーが動いた。J-milkを通じて各社が共同拠出して産業全体の長期的持続のために個別の利益を排除して酪農生産基盤確保の支援事業を開始した。JA組織も系統の独自資金による農業経営のセーフティネット政策を国に代わって本格的に導入すべきである。
 先日、農機メーカーの若い営業マンの皆さんが「自分たちの日々の営みが日本農業を支え国民の命を守っていることが共感できた」と講演後の筆者の周りに集まってくれた。本来、生産者と関連産業と消費者は「運命共同体」である。自分たちの力で自分たちの命と暮らしを支え合う共助・共生システムを強化する2018年にしなくてはならない。
 朝鮮半島有事に備えて米国に日本を守ってもらうためとして対米追従強化をあおる論調が強いが、今改めて明白になったことは、日米安保の幻想ではないか。米国のニュースは北朝鮮の核ミサイルが米国西海岸のシアトルやサンフランシスコに届く水準になってきたことを報道し、だから韓国や日本に犠牲が出ても、今の段階でたたくべきという議論が出ている。つまり、米国は日本を守るために米軍基地を日本に置いているのではなく、米国本土を守るために置いている。トランプ大統領が総理に話したという「米国は常に日本とともにある」(邦訳)の原文が“US stands behind Japan 100%”なのは象徴的である。
 盲目的な米国へのごますりと戦略なき見せかけの成果主義では国民の命は守れない。今こそ、一部の企業への利益集中をもくろむ「時代遅れ」のTPP型のルールではなく、「共生」をキーワードにして、アジア各国の人々がともに手を携えて共存できる、柔軟で互恵的な経済連携協定の具体像を明確に示し、実現に向けて日本とアジア諸国が協調すべきときである。思考停止的な米国追従から脱却するには、アジアと世界の人々の共生のためのビジョンと青写真を早急に提示することが不可欠である。
 一人ひとりの毎日の営みがみんなの命と暮らしを守ることにつながっていることを常に思い起こし、誇りを持ち、われわれは負けるわけにはいかない。

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