緊迫する朝鮮半島情勢 戦争に近づくのではなく遠ざかること

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すべての核保有国による核開発・使用の2年間禁止合意など平和に向かって
問われる日本のリーダーシップ

広範な国民連合第23回全国総会 記念講演者 (元伊藤忠商事会長・社長、元駐中国大使、日中友好協会会長)
丹羽宇一郎さんに聞く

 今、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の相次ぐミサイル発射、そして核実験を受けて、北東アジア情勢が緊迫しています。

 そのなかで、安倍政権は、アメリカの後を追随するように、北朝鮮の敵対国になろうとしています。これではむしろ逆に、どんどん戦争に近づくことになってしまいます。日本のこうした姿勢を見て、北朝鮮は敵国の一つに日本を考えてくるでしょう。だから、安倍政権のこのままの政策でいいのですか、国民の皆さんはそれを分かっているんですか、ということを言いたいのです。

 今、日本にとって重要なのは、とにかく日本は戦争から遠ざかる努力をすることです。

 北朝鮮に対する強硬論も盛んです。しかし、もし、戦争になって、日本の原子力発電所に爆弾一つでも落ちたら大変な事態になります。一説によると、原発1基に爆弾が一つ落ちただけで、広島に落とされた原爆の1千倍もの影響を受けるといいます。今、日本には50基近い原発があります。なぜ、こうしたことに想像が及ばないのか私は理解に苦しみます。

 この一つを考えても、日本は戦争などできる国ではない。格好いい強硬論ばかりが目立つなか、本来は政治の役割が問われているのではないでしょうか。

■出口なき道の先は戦争

 今、北朝鮮問題で特徴的だと思うのは、安全保障について、対抗して軍事力だけ強化させることが大事だと思っている人が多いということです。しかし、肝心なのは軍事力より戦争を起こさない外交努力です。つまり、日本はできるだけ敵国をつくらないことが安全保障の要諦です。安倍さんは盛んに「対話と圧力」と言っていますが、今は圧力ばかりが前面に出て、しかも、まったく出口が見えません。この出口なき道の先にあるのは戦争です。

 北朝鮮の核問題の解決について改めて言えば、北朝鮮だけでなく、アメリカ、中国、ロシアなどすべての核保有国が例えば当面2年間、核の開発と使用を一切凍結するという国際合意をめざすべきです。そしてその間に唯一の被爆国であり核を持たない日本と、同じく大国でありながら核兵器を持たないドイツが仲介する形で、米朝が直接対話することが第一だと考えます。

 そもそも核兵器をいちばん持っているアメリカが、北朝鮮の核保有を「認めない」と言うのはおかしな話です。すでに北朝鮮は核実験を何回も行っていて、「核を保有している」と言っているのですから、アメリカの言うことが通用するとは思えません。

 こうした合意が成立しないなら、戦争と隣り合わせのような今の緊迫した状況は永遠に続いてしまいます。大変困難な道であることは分かっています。それでも対話を通じて、小さくても一歩でも踏み出すことができれば、状況は大きく変わるでしょう。世界の各国が安心し、日本は敬愛され、さすがと評価されるでしょう。そのためのリーダーシップが問われている時です。

■世界情勢は激変したのに、まだ日米同盟一辺倒か

 これは北朝鮮問題に限らず、中国との関係も同じです。中国との対立をこれ以上激化させず、友好関係を築くことが必要です。中国大使として習近平国家主席と十数回会いましたが、その時に習主席は「日中両国は、住所を変更することはできない」と繰り返し言われました。両国とも引っ越しするわけにはいかないわけですから隣国同士、仲良く付き合うしかないわけです。

 中国も今年秋の共産党大会が終われば、日本との関係改善に動きだすと思われます。中国にも今のトランプ大統領のアメリカは何をやるか分からないから、少なくとも日本との関係をよくして共同でできる部分を広げたいという思いはあるでしょう。中国は経済格差の解消や環境問題などについて日本の知恵を必要としています。安倍さんもそこのところを冷静に考え、対中外交に臨むべきです。

 冷戦も終結しましたし、その後アメリカによる覇権体制も終わりを告げました。その一方で中国は世界第2位の経済大国となりました。軍事費もこの間約40倍近くにもなりました。このように世界情勢は激変したのに日本はこれまでどおりの日米同盟一辺倒です。

 日米同盟があるからと言って、アメリカが日本を一方的に守ってくれると考えて、日本の安全保障について不都合の部分から目をそらし、真面目に考えようとしない傾向がいまだに根強いようです。安倍さんが首相になってその傾向はますます強くなっているのではないでしょうか。これはまさに思考停止とも言える状況で大変危ない。

 しかし、その同盟を組むアメリカもどれだけトランプさんが言うような強気でいけるかどうか分かりません。まだまだ非常に不安定です。だから安倍さんが、トランプさんに対して多少距離を置いたら、彼もあんな強気一辺倒ではいられないはずです。

 ドイツのメルケル首相は「もう他国には頼れない」と言って、彼を諫(いさ)めるような発言をしています。安倍さんのようにアメリカとの同盟強化一辺倒では世界の良識から離れていくのではと心配です。

■国民が声上げ、ベストな選択を

 それにしても、日本の「有識者」といわれる人たちからは何も聞こえてきません。なぜそれほど政府に尻尾を振るのでしょう。不思議です。野党第一党の民進党も前原さんが代表になったけど、外交政策では安倍さんとの違いが見えません。与野党問わず、政治家も選挙で当選することばかり考えている人が大半のようです。

 かつて、石橋湛山さんは第二次世界大戦前の朝鮮や中国への植民地支配を批判、簡単に言えば日本は満州、朝鮮、台湾などの支配地域を放棄すべきだと主張しました。「小日本主義」といわれるものです。軍国主義一色に塗りつぶされようとしていた当時としては大変勇気ある主張です。戦後、一時首相も務めましたが、国交正常化前の中国との貿易推進に力を入れ、その後も中国を訪問、当時の周恩来首相と会談、「日本と中国は両国民が手を携えて極東と世界の平和に貢献すべきである」との石橋・周共同声明を発表しました。

 私たちはこうした先人の知恵と行動を今一度思い起こすべきではないでしょうか。このような勇気ある政治家が登場してほしいと思います。しかし、待っているだけではダメで国民ももっと声を上げなくてはいけません。「声なき声」は「賛成」だとされてしまいます。

 今と第二次世界大戦の時と状況は似ていると感じています。こうした時こそ、今一度、戦争の真実を知るべきです。そうした思いもあって、戦争体験者を取材して、本も出したところです(『戦争の大問題』東洋経済新報社)。また、機会あるたびに学生には、「君たち、戦争の怖さというのを知りなさい」とか「もう少し自分の考え方をもつようにしなさい」と強く言っています。

 われわれが常に心すべきは、同じことをやっているだけではいつまでたっても変わらないということです。そして、自分の仲間だけで集まって何かやっても、それは自分の気持ちを治めるだけにしかならないのではないかと思います。どんどん声に出していかないとダメです。新聞やテレビなどメディアに対する働きかけも重要な手段です。そして、あるべき安全保障についても避けることなく、議論を深めるべきです。今やれること、ベストな選択をして、声に出していく時が来ています。

 11月に三重県伊勢市で開催される皆さんの全国総会にお邪魔します。今回お話ししたような内容を中心に皆さんと一緒に考えたいと思います。

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