農業の直面する課題と展望

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日本の種子を守る会会長(JA水戸組合長) 八木岡 努さんに聞く

後継者不足の解決をめざす

 農業で今、一番重要な問題は高齢化と後継者不足、担い手不足だと思います。
 私は15~16年前から、新規参入者受け入れを行い、就農希望者を15組くらい指導しました。そこで育った教え子の多くが、県内各地でイチゴ作りをやっており、現在では都会からの就農希望者を受け入れるなど、後進の指導をするほどになってくれています。茨城県では農業経営士という制度があり、私もその現職ですが、教え子のうち3人くらいが農業経営士に認定されて、活躍しています。
 そういった経験もあり、組合長になった今も農業の担い手づくりは大切だと考えています。農協として就農希望者を研修生として受け入れることのできる子会社を一昨年に発足させました。研修生の中には農家の子弟もいますが、割合的には新規参入の方が多く、茨城県に縁のなかった方もいます。
 当JA管内茨城町には、「茨城町農業公社」があり、副理事長を務めています。空き家の農家住宅を町として借り上げ、そこに研修生が住みながら、農業を学んでいます。そこで1~2年実習して自営農家への道を歩んでもらいます。農地の相談に乗ったり、農業機械を貸し出したりもしています。農業が軌道に乗るまでの2年間は無償で農業機械や住居を提供し、就農支援を行っています。同じようなことを当農協でも進めていきたいと思っています。
 国の政策として農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)というのもあります。新規就農者は、国や地方独自の制度を使って、農業経営を軌道に乗せているというのが現状です。研修生の中には、来た時から「こういう農業をやりたい」と明確な目標をもっている人や、まだ漠然としていて、「さまざまな体験をしてから選択したい」と言う人もいます。
 私が最初に受け入れた研修生の夫婦が来たのは、15年近く前のことでした。ご主人は大手企業を退職して当時40歳でした。奥さんに農業をやりたいと言ったら、「頭、おかしいんじゃないの」と言われたそうです。その奥さんは、最初は農業に対してあまり前向きに取り組んでいるという印象はありませんでした。ところが、そのご夫婦の中学3年生の長男がうちに来た時に、「お父さんが農業やるのだったら、僕も農業高校へ進んで、農家をめざす」と言ったのです。奥さんが「これには負けました」と言って、次の日から真剣に研修に取り組みました。そこは、お子さんが4人いるのですが、家族みんなで農業をやり、お子さんのうち3人が農業を継いでくれています。娘さんは家族が栽培したイチゴを原料にスムージーやジャムを作って、販売車に乗って道の駅などで売っています。 その後に受け入れたのは、ミャンマー出身の方です。彼は、日本人の奥さんと結婚されて、日本で農家になりたいという希望をもちながら、うちに2年通いました。現在は、つくば市で農業をやっています。
 そういう農業塾のような、後進の育成をライフワークとしてやっていますが、後継者を育てるためには、農業で生計を立てていく展望を指導することが必要だと思っています。

政府は日本農業が発展する環境整備を

 政府は、その環境を整備する責任があるわけですが、やっていることは逆です。
 農畜産物などの市場完全開放を進めることになる内容を含んだTPP(環太平洋連携協定)は、今は漂流していますが、日欧EPA(経済連携協定)は大枠で合意し、来年中に発効をめざしているようです。日本のグローバル企業がヨーロッパに自動車などを売るために、農畜産物の関税を引き下げるのが狙いです。ヨーロッパの次は、アメリカとのFTA(自由貿易協定)交渉が待っています。安全保障をアメリカに頼んでいるから、アメリカが言うことを聞かなくてはならないと、日欧EPAや漂流したTPPの合意を上回る市場開放案が出てくるのではないかと心配です。
 こうした市場開放に、われわれ農業者はどうしたらいいのでしょうか。政府から聞こえてくるのは、補助金の話だけです。
 重要なのは日本の農業の基盤づくりであって、それを国の政策としてきちんと行う必要があると思います。先ほど述べた担い手育成も、日本農業の基盤づくりのため、われわれが現場で努力していますが、政府は、農業を専門とする大学や地域の大学校をバックアップして活性化させ、子どもたちや若者が農業を職業選択の一つにできるような環境をつくっていくべきです。
 これは農家や農業団体だけではできないことですから、国の政策として行い、都道府県もそれに準じてやってほしい。農業試験場などもそうですが、農業の後ろ盾になり、地域の特産物を守るだけでなく、育てることも含めて、その手立てをする。そういった国を挙げての取り組みを知った若者が、農業の使命を理解し意気に感じるという動機づけをしてもらいたいですね。
 もう一つ、担い手といっても若者に限らず、定年退職をされた方の就農も増えています。健康のためとか、おいしいものを食べようと、決して大規模ではありませんが農業を始める方がいます。その人たちの農産物を売ったり、交流したりする場として、農産物直売所があります。当農協では直営で8カ所、さらにイン・ショップといって、スーパーの中に農協の売り場が14カ所あります。家庭菜園的なものでも、少し余計に作ってもらって、そこに自分の農産物を出して売ってもらう。これが意外と消費者の皆さんに、「安全・安心で、おいしい」と喜ばれます。私たち農協は、そういった多様な担い手を支援しています。市場の流通とは違って、見た目はよくなくても売れるもの、そういうことにも力を入れていきたいと思っています。

地域に合ったおいしい農畜産物を地域で食べる

 さらにもう一つは、農業のファンをつくることにも取り組んでいきたいと思います。子どもたちの学校給食に食材を提供するだけでなく、農協の青年部や女性部が学校で出前講座や食育活動を行えば、食材が教材になります。次世代を担う子どもたちが、これからも農業を一つの職業選択の候補にしたり、農協など農業組織・団体も、自分の働く場として考えてくれたりと、そうなってくれればいいですね。そうなるよう、JAとしても取り組まなければならないと思っています。
 国では 今、農産物を輸出する試みをしていますが、輸入の方が年々増加しています。
 水戸市の学校給食の地場産自給率は、私が組合長になったころは30数%しかなかった。北海道に次ぐ農業生産を誇り、多くの農畜産物の生産量が全国都道府県でトップクラスを誇る茨城県の県庁所在市でそんな状況でした。市長や行政に呼びかけて、今は40%台になりましたが、もっと上げるようにしなくてはならない。
 私たちも、今までは東京の市場ばかり見ていました。今は輸出が注目されていますが、まずは地産地消する。このことが重要だと思います。
 それぞれの地域のおいしいお米や昔からの作物、食べ方は文化です。昨年11月、協同組合の思想と実践がユネスコの「無形文化遺産」に登録されました。その前には、お祭りの山車も「無形文化遺産」になりました。それは、日本の多様な食文化は世界でみてもすごい財産だということを示唆していると思います。それをきちんと発信していくことも大事です。そういう意味でも作物の多様性は必要だと思います。
 しかし、それを集約して単一化し、単価を下げようという流れがありますが、それでは絶対によくないと思います。みんながそういうことを考えたら、食べ物ではなく単なる「エサ」になってしまいます。われわれが育ったころの学校給食は、アメリカの小麦を売り込もうという狙いがあったと思いますが、子どものうちからそんな刷り込みをやって育てたら、食文化は間違いなく衰退します。
 食べておいしいかどうかだけでなく、本当に大事なことは、例えば成長ホルモンや添加物使用の有無を、ちゃんと選択できるように表示することは守っていきたいと思います。農業資材を安くする競争や努力は必要と思いますが、守らなければいけないものを守らず、食文化を犠牲にする競争では、元も子もなくなってしまいます。

誰のための農協改革か?

 今、規制緩和の名のもとで、農協改革が行われているのをご存じだと思います。政府は既得権益を守っていると農協を批判し、規制緩和して対等な競争条件を実現すれば、みんなにチャンスが増えると説明しています。
 われわれは生産資材の購入や農畜産物の販売で、農家が一人ひとりで大企業と交渉したのでは立場が弱いから、共同購入したり共同販売したりと、相互扶助の組織として農協の事業活動を行っています。それが「協同組合」の原点です。ユネスコがこうした協同組合の思想と実践を高く評価したから、「無形文化遺産」に登録したのです。
 政府は「組合員に必要とされる農協をめざしなさい」と言っていますが、農協は、もともと農家にとって必要だからつくられた組織で、「協同組合」の原点からみても当然そうするべきことです。農家所得増大や生産拡大を目標として、共同購入・共同販売を基礎に、安定生産・安定供給を戦後70年間手助けしてきました。
 政府はそう言いながらも、「組合員に必要とされる農協」の取り組みを妨げるような要求をやってきています。例えば、信用事業の事業譲渡です。これに従い、農協から信用事業を切り離せば、営農指導などの非営利部門は維持できず、ひいては農協そのものを維持することもできなくなります。その結果、農家は共同販売や共同購入ができなくなり、市場は農産物を買いたたき、資材販売で価格をつり上げようとする企業の独壇場になってしまいます。結果的に、消費者にとっても不利益につながると思います。
 政府の農協改革は、日本の農業を発展させたり、農家の暮らしを良くしたりするためではなく、別のところに狙いがあり、農協をなくそうとしているのです。日本の家族経営型農業をつぶして企業の大規模経営に道を開く。アメリカのグローバル企業に穀物・農薬・種子などの市場を開放することが目的なのではないでしょうか。
 私たちは今まで、永田町に向かって警鐘を鳴らしてきました。しかし、政府の建前とわれわれの主張に大きな隔たりがありますから、どこまでいっても、折り合いをつけられるものではありません。これからは農協組合員だけじゃなく、国民の皆さんに向かって、皆さんの食料を誰がどういうふうに作り、どうやって安定供給していくのかと問いかけたいと思います。安倍政権になって食料自給率は1%下がり38%となってしまいました。食料安全保障をどうしていくべきなのか、国民すべてが考える時期がきています。
 「わが国の食をどうしていくか、生産者と消費者が共に考えていきましょう」と訴えていくことが、われわれが今なすべきことではないかと思っています。

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