中原浩一 北海道農民連盟書記長に聞く

北海道農業の課題と抱負

中原浩一 北海道農民連盟書記長

新たに書記長に就任して

 私は和寒町で生まれ育ち、現在55歳です。農家を代々継承し4代目になります。父親の時代は、耕地面積は6ヘクタール(ha)ぐらいでしたが、私が就農し5年後に12‌ha、10年後には18‌haになって、平成17年に法人化して、今は会社の土地も含めて52‌haで営農しています。
 水稲を18‌haのほか、カボチャ、キャベツ、麦、テンサイ、それに露地・ハウスの野菜も作っています。そのなかでも和寒町の越冬キャベツはテレビでも全国放送で毎年紹介されて有名になり、今は北海道では和寒町のものが検査体制の強化などもあり、一番高値をつけていただいています。

北海道農業の現状と課題

 農業地帯である北海道は、先人が入植し苦労して原野を耕し、開拓をして栄えてきた。しかし、今は後継者が少なく世代交代ができない。少子高齢化は農業も例外ではなく、どの市町村も同様です。特に北海道は広く、地方に行くほど人口減少率も、高齢化率も高い。
 私の地域もだんだんに離農して、かつて28戸あった農家戸数が今は6戸になってしまった。私の地域もそうですが、周囲の離農した方の農地を引き受けて1戸当たりの耕地面積が広くなった。けれども機械だけではカバーできないところがあり、人手がいる。法人化して雇用環境を安定化させ息子も就農して、現在は従業員12人で働いています。
 北海道は特にどこの首長さんたちも、第1次産業の町だとよく言っています。しかし、どこも高齢化・後継者不足で地域農業や農地を維持・継続するには後継者が増えない限り、1戸当たりの耕作面積を拡大していく以外にない。だが、家族農業では限界もあり、法人化しても雇用者がいなくて大変苦労しています。第1次産業重視と言うが雇用を求めても、なかなか町の活性化につながっていない大変な状況を迎えています。
 そうしたなかで、農業をやめる人が後を絶たない現状にあります。北海道全体の農業の問題を語るとき、時代の波というのがあり、一時期は酪農・畜産農家が大変な時代があり、次は畑作が大変な状況になり、今一番大変なのは水田地帯です。
 かつて水田は、機械化されていなかった時は1戸当たり1~2haしか耕作できなかった。時代とともに機械化し規模を拡大してきた。しかし、今まで頑張ってきた先輩方が、生産資材の高騰、米価の低迷、高齢化も相まって農業を継続できないという人が増えている。北海道の米どころである、空知、上川を中心とした地域で離農していく割合も多くなっています。

産業活動を制約するJR 路線廃止

 北海道は、約35%の人口を占める札幌市と近郊に一極集中化しているが、それ以外の地域は年々人口が減少し衰退している。そこでは鉄路の維持・存続は厳しいとして、JRから13区間が単独での維持困難と、廃止に向けての提案がなされた。これ以上地域を廃れさせないために、地域の交通網をどうしても残してほしい。
 特に、輸送手段としてのJR貨物です。北海道は農産物の宝庫です。例えば北見地方では、秋口からの3カ月くらい、現地の人たちはタマネギ列車と言い、タマネギとかジャガイモなど秋の味覚の農産物を、期間限定ではあるが北見のターミナルまで各地から貨物車で運んで、そこからレールを使いコンテナ輸送で本州に持って行く。これが廃線となるとどうなるか。いい例が昨年4本の台風によって、石北線や根室線などが止まってしまって出荷できなかったことだ。
 廃止路線の問題は、人の足の問題とともに深刻だ。地域の産業、農産物を運ぶ手段としてJRコンテナ路線が必要です。

今後の闘いの基本は、食糧主権を守り、家族農業を守る

 先日の道農連第44回大会では4つのスローガンを掲げました。
 第1は、「食糧主権と多様な農業の共存を損なう貿易協定に断固反対しよう」でした。食料安全保障の観点から、「国民の食料は国が責任を持つ」という視点に立ち食糧主権を守るべく、一方的な自由貿易による地域農業の崩壊を招く交渉には反対し、私たち農業者も命の源である食料を国民に届けるという役割を担う自覚のもとで農業に取り組まなければいけないということです。自国の食料を自国で賄うというのは当然です。食料自給率が低いという問題を含めて、食料安保の観点に反する貿易協定には反対していく。
 2番目は、「日本農業・農村の崩壊につながるアベノミクス農政を打破しよう」です。今国会でも8本の農業関連の法案が出ていますが、特に農業競争力強化支援法だとか、アメリカの巨大種子メーカーの参入に道を開きかねない「種子法」の廃止など、とても問題です。
 要するにアベノミクス3本の矢の成長戦略に農業分野をはめて、自由競争でやろうという考えです。われわれは、「競争力」だけではなく、命の源である食、それを生み出している農業、これを崩壊させないような制度・対策、政策をつくってもらいたいと思っている。それに反する、今の安倍農政は、農業の聖域を踏みにじる、企業優先の自由競争、そういうアベノミクス路線には断固反対します。
 3番目は、「『競争』から『共創』。家族農業を守る真の農政改革実現を勝ち取ろう」と打ち出しました。先ほど述べたように私も法人化していますが、基本は家族農業です。ある程度大規模化も進んでいますが、歴史をたどると家族農業から生み出されてきた北海道農業です。地域のみんなで農業を守っていくという家族農業の精神を「共に創ろう」ということです。家族農業を守り発展させるため、道農連で掲げている「真の農政改革」を目指します。
 最後は、「生産現場ファーストの政策実現に向け、農民政治力を発揮しよう」です。生産現場の意見を吸い上げて、そこから政策提言をする。それこそが地域農業の維持・存続へつながるキーワードとして、政策の実現に向け農民の力を結集し、強めていきます。
 また、政府に要求するためには、やはり国民の理解、道民の理解を得ながら運動をしていかなければならない。食料の大切さとか、農民がなぜこういう運動をしなければならないのか、そういったことを含めて問題提起をして国民合意のもと、北海道の各地域から運動を進めていこうと思っています。
 消費者や広範な道民と連携を進めます。地域では労働団体も含めて同じ働く仲間として、職場の環境と生活、われわれは農業で生活を守るということでは一致するものがある。各地では温度差はあるものの、労働組合などとも一緒に連携していけるのではないかと思っています。

トランプ政権誕生、 広範な世論をつくり国益を守っていく

 安倍首相が、15日の参議院予算委員会の中でこう言いました。「2国間協定であれ、多国間であれ、日本の国益にかなうものであれば進めていく」と。しかし、何をもって国益というのか、食料を犠牲にして国民を守れるのか。
 トランプ政権の通商代表部代表に指名されたライトハイザー氏は「農業分野の市場拡大は、日本が第一の標的になる」と言っています。しかも、「TPP交渉を上回る合意を目指す」とも言明しているわけです。
 まさに日本が標的で、私たちはすごい危機感を持っています。米国とのFTA交渉では、行動を起こさなくてはいけません。
 グローバルでの貿易協定や新たな米政策改革、畑作政策・酪畜政策など規制改革推進会議等での議論は、農業者不在の制度改悪を推し進めようとしている。
 非常に重要な時期に伝統ある北海道農民連盟の書記長に就任しました。農業を守り私たちの生活を守るとともに、国民の命の源である食料主権と食料安全保障を確保するために奮闘します。道農連の運動を強化するとともに、広範な国民・道民の皆さんと連携して頑張ります。よろしくお願いいたします。