日本の主権いっそう損なうTPP

10月には1万人集会、批准阻止に国民運動を全国で

山田 正彦さん(元農林水産大臣、TPP違憲訴訟の会幹事長)に聞く

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 安倍政権は、TPP批准を秋の臨時国会の最大の焦点に据えている。これに対して、7月の参院選でも東北・北海道を中心に全国の農民は強い拒絶の意思を示し、その後も闘いを発展させている。北海道農民連盟は8月31日、台風を突いて「TPPに断固反対する全道農民集会」を実現した。それに先立つ20日、東京で「TPPを批准させない全国共同行動」がキックオフ集会を開催し、北海道農民連盟や多数の農協、農村活動家をはじめ、労働組合、生活協同組合などが参加して立ち上がった。この共同行動でも中心的役割を果たしている山田正彦さんに編集部が話を伺った。後ろに、キックオフ集会での基調的な問題提起の要旨掲載。文責編集部。山田正彦さんは、元農林水産大臣、元衆議院議員、弁護士。

皆が動けば阻止できると確信

 この間、前の国会の時に「水曜行動」と言うのを行っていました。また、院内でも、全国でも、TPPの批准阻止に向けた取り組みをさまざま行ってきました。
 そして、いよいよ9月からの臨時国会で安倍政権がTPP協定の批准を強行しようとしています。
 こうした中で、前の国会行動のような200人、300人の行動では止めきれないだろうと思いました。そこでTPP批准阻止の行動を全国的な国民運動にしなければならないという思いで、8月20日に東京で「TPPを批准させない全国共同行動8・20キックオフ集会」を開きました。
 全国の農協、農民団体や生協団体、市民団体等々に皆、案内を出して、参加を呼びかけたところ、大雨の日にもかかわらず、何と300人も集まってくれました。最初、どれくらい集まってくれるかと心配していましたけど。北海道から、鹿児島からたくさん来ていただきました。また、特徴的だったのは、若い人たちの参加が目立っていましたね。こういう若い人たちに火をつけてもらって、全国的な反対集会、それこそ昨年の安保法制反対闘争以来の大集会をやろうじゃないかと考えています。このキックオフ集会が大きなきっかけになりましたよね。
 国民にこのTPPの中身を知ってもらう意味で、『そうだったのか! TPP』というパンフレットを1部5円で出版して、もう50万部出ました。続いて8月に、「このまま批准していいの? 続・そうだったのか!TPP―24のギモン」(40ページ)を発行いたしました。最初は1万部、印刷したんです。「1万部出たら、なんとか赤字が出ずに済むな」と思ったら、20日だけで、3万5千部注文が来たんですよ。いま6万冊余を印刷しています。その後も大口の注文が相次いでいます。
 私が書いて8月に出版された『アメリカも批准できないTPP協定の内容は、こうだった!』(サイゾー)も、すぐに増刷が決まって、今、3刷まで来ました。
 そういう意味でも、これは国民はTPPについて非常に関心があるということを示していると思うんです。
 国民は関心をもっているんですよ。それに火がつけばいいと思っています。先の参院選でも東北を中心に明確に「TPP反対」を掲げた候補が自公候補を打ち破っています。
 私たちは10月15日に東京で「TPPを批准させない!1万人行動」を開催します。いろいろ幅広く、右から左まで皆で声をかけようと呼びかけています。
 連合本部は「TPP賛成」という立場ですけど、傘下の全農林、農団労、あるいは日教組などにも声をかけています。
 こうやって、TPP反対の声を広げて、皆で動き出せば、何とか阻止できるんじゃないか、阻止しなきゃいけないというのが私たちの思いなんです。

なぜ、米国民も大統領候補すらも反対するTPP批准なのか?

 この前、埼玉で講演しましたけど、「この恐ろしい協定を誰がやろうとしているのか」「日本政府はなぜやろうとしているのか」「アメリカ国民も反対しているではないか」という疑問の声がだいぶ上がりました。当然です。
 第1に、TPPをやろうとしているのは、アメリカのウオール街、金融資本であり、多国籍企業、アメリカの産業界です。ここが主役です。約6300ページに上るTPPの協定書などは、約600の多国籍企業の顧問弁護士たちが練り上げた他国支配の巧妙な条約文書です。
 あれだけ自民党は選挙のときに、「TPP反対 ウソつかない」と言っていたのに、コロッと変わってしまいました。しかも、大統領選を控えたアメリカがTPPに対して消極的に姿勢を見せているにも関わらず、日本政府は「早く批准しろ」って言いだす始末で、こんなバカな話はありません。なぜ、日本政府は国益に何のメリットもないのに、ここまでTPP協定の批准に前のめりなのか。多くの人が疑問に思っています。
 安倍政権の真の狙いですが、対中国戦略です。TPP協定の交渉にあたっていた甘利・前担当大臣の番記者(私も大臣やったからわかるが、深い付き合いになる。大臣に付きりで、出張にも一緒に出かけ、…ですから)にTPP交渉に何であんなに前のめりだったかと聞いてみた。記者は、しばらく考えて、大臣は、安全保障の点ばかりを言っていた、と言っていた。アメリカの対中国戦略に沿ったものだということでしょうね。
 もう1つ。、日本政府はTPP法案を推進するために、米国議会でロビー活動を盛んに行っていたことがアメリカで報道されました。それもかなりのおカネを使った。米国のファイザーなどの多国籍企業は莫大なカネを議員たちに政治献金している。アメリカではこうした政治献金、あからさまな買収行為ですが、違法ではない。日本の政治家たちも無関係といえるでしょうかね。

日本の国民生活に関わる広範な国家主権が売り渡される

 アメリカの友人からメールが届いた。「日本の幕末、明治維新以来の危機的状況ではないか。なぜ日本人は騒がないのか」と。
 このTPPは農業はもちろん、国民生活に関わる医療や水道、教育など多岐にわたる分野が危機にさらされます。これは日本の独立に直結する問題です。
 考えれば、憲法9条改悪、安保法制、辺野古新基地建設、脱原発の問題もTPPと根っこのところでは一緒なのです。すべて共通して言えることは、現在の安倍政権、自民党は、米国のために、米国の言いなりになっているだけではないかということです。中国の脅威を煽り立てて、日本の安全保障ののためにと、日本の農業、医療、公共事業等、あらゆる分野で米国の言いなりになってしまった。いわば日本を売ってしまった。
 多くの国民がこのTPPの実態を知れば、反対の声は広がります。臨時国会を控え、今が正念場です。10月の1万人集会を成功させ(集会は15日、土曜日12:00~東京・芝公園)、さらにその成果を全国に広げて批准を阻止しようではありませんか。


[問題提起] TPP協定で日本はどう変わるか

元農林水産大臣・弁護士 山田 正彦 さん

1. 医療への影響――医療は金持ちでないと受けられなくなる?!

 ①医薬品の価格が3倍になる? ≪従来≫は、日本独自で価格を決められる ≪TPP協定≫で、外資製薬会社が価格決定に介入。 第2章の付属書によれば 独立機関を設けて外資製薬会社が価格決定に介入し、その意見を考慮することになる。
 ②ジェネリック医薬品が作れなくなる? バイオ医薬品データ保護期間:最低8年間 その間、ジェネリック医薬品が作れない。 TPP協定では、政府は開発した製薬会社に『通知』しなければならない(第18条51項) しかし、外資製薬会社は認めない!
 ③政府は「国民皆保険制度は守られた」と説明するが・・・?
 ・第11章(金融サービスの章)では 『締約国が採用する社会保険制度は除外』となっているが、『政府が認める金融機関については例外』となっている ⇒金融機関には保険会社も外該当し、いずれアフラックなど民間医療保険も参入してくる
 ④医療に関する日米の付属文書では、政府は公的医療保険の見直しを約束 すでに日本でも、108種類の先端医療が、保険商品として民間医療保険を認められている
 ⑤医療国家戦略特区 神奈川県の国家戦略特区では、株式会社の医療機関を認めている 韓国では医療法人が株式会社に衣替え

2. 遺伝子組み換え食品――遺伝子組み換え食品(鮭、小麦など)が輸入され、その“表示”もできなくなる!?

 日本の現行法では遺伝子組み換え食品の輸入は〝原則禁止″、〝表示義務″が課せられている ところが、TPPでは 『遺伝子組み換え農産物の貿易中断を回避し、新規承認を促進すること』。 遺伝子組み換え食品の輸入を阻止するためには 『ヒトの身体、健康を害することを証拠をもとに科学的に証明できれが輸入を禁止することができる』 これはほぼ不可能。しかも、日本の食品安全委員会はすでに 『遺伝子組み換え食品は安全である』と明言

3. 食品の表示 ~『国産』 『産地』~

 ①牛肉、豚肉などの『国産』表示もできなくなる?! 2015年まで米国では〝米国産牛肉″に『国産』の表示をして販売。そこでカナダやメキシコは、米国の『国産』表示が貿易障壁に該当し、不必要な表示だとして、WTO協定違反として訴えた。 05年、米国は敗訴、国内法を廃止し、牛肉の『国産』表示を取りやめた。TPP協定でも、このWTO協定を準用 日本で牛肉や豚肉に国産表示をすれば、外資食肉企業(タイソン社など)から日本政府はISD条項を武器に損害賠償を求め訴えられる
 ②野菜、果物などの『産地』表示ができなくなる?! 知的財産の章によると『地理的表示は原則認められる』ことになっているが…?
 第10章33条で蒸留酒などを除いて『領域で日用語として使われ、種類を示すもの』と限定 従来のように自由な産地表示はできなくなる 包装された食品に関する付属書によると、『商業的な利益をもとに正当な目的を達成するために必要なもの』に限定⇒『甲州産ぶどう』のような表示はできなくなる可能性が高い
 ③新サービス貿易協定(TISA)の例 米国は『パルメザンチーズ』と〝産地″表示している包装が不当表示だとして貿易障壁を主張
 ④米韓FTAの例 韓国国内の産地業者と米国業者を学校給食でも差別できなくなり〝地産地消″をベースとした学校給食の条例も制定できない

4. 農作物への影響――日本のすべての農産物は7年後の再交渉で関税が撤廃される

 TPP協定第2章4条について 農水省の説明は、『関税の措置』 ところが協定原文では、『elimination of Custom Duties』(注訳:関税の撤廃) 日本だけが7年後に米国、カナダ、オーストラリアなどの5か国と関税撤廃について再交渉することが義務付けられている すでに、ベトナム産コシヒカリが5㎏50円でインターネット販売され始めている⇒近い将来、日本のコメ農家は潰れ、水田が消えていくことになるのでは

5. 水産物への影響――漁業にも深刻な影響が・・・日本の食卓から豊富な魚料理が消える!?

 第20章16条5項 過剰漁獲国での補助金制度は禁止されている。 日本のほとんどの魚種が過剰漁獲と判断される恐れ。もし日本が過剰漁獲国と認定されたら。例えば、燃費、船の建造費などの助成 港湾整備などの補助金政策ができない。そうすれば持続した漁業経営ができなくなり、魚の自給率62%を維持できなくなる

6. 雇用への影響――外国人労働者(移民)の受け入れで日本人が失業し、給料が下げられる!?

 北米自由貿易協定(NAFTA)で2~3千万人のメキシコ移民が米国へ流入し、米国人500万人が失業し、 42年前の給料水準にまで下落した(トランプ大統領候補出現の重要な背景の一つ) 
 TPP協定では 越境サービス章で 単純労働者の流入は原則認められていない。 しかし、日本の規制改革会議では 今後の日本の経済成長には外国人労働者は必要不可欠だと提言 TPP日米並行協議の交換文書では――外国投資家の意見・提言を求め、規制改革会議に付託し、日本政府は規制改革会議の提案に従って必要な措置をとるとされている。 自由競争市場で日本の企業が生き残るためには ・ロボット化(人員削減)・人件費(給料)削減 等々と言うことになる

7. 公共事業への影響――これまで国や自治体から受けてきた各種公的サービスがTPPでは民営化される!?

 ①水道 第17章 指定独占企業に該当⇒郵政事業のように民営化 愛媛県松山市ではフランス企業に業務委託し、水道料金が上がり続けている
 ②国立病院(全国143か所)、公立病院 5年後の再交渉で民営化⇒株式会社に衣替えし、外資企業に売却される 採算の取れない離島などの公立病院は閉鎖される
 ③公共事業と入札 第15章 政府調達が該当 国、自治体、政府機関による建設、土木工事なども原則として外資も含めて公開入札となる(3年後の再交渉で小さな自治体にも及ぶ可能性) 自治体は英語と自国語で手続きを進めなけれがならない(第15章7条「英語を使うように努める」)

8. 知的財産への影響――“インターネットの自由”がなくなる?!

 著作権が親告罪から非親告罪になる 非親告罪になると刑事告訴されていなくても逮捕されることに 例えば ①内部討議のためにコピーした資料 ②ツイッター、Facebook、ブログでの〝シェア゛”拡散” などは、著作権者の承諾がなければ著作権法で逮捕
 また、TPP協定では、中央政府が法律を制定し、ネットの管理ができる(第18章80条) 

9. 恐るべきISD条項――TPP協定全6,300ページに多国籍企業600社の顧問弁護士が仕掛けたあらゆる罠が

 投資の章における締約国の義務 内国民待遇、国際慣習法に基づいて公正衡平でなければならない
 ①第9章7条『関節収容』違反の実例 エジプトの場合 政府は最低賃金を引き上げたことで、フランス企業が期待した利益が得られなかったとしてISD条項による損害賠償請求を受けている リビアの場合 クウェート企業の観光施設建設が契約後も3年間着工されず、債務不履行を理由に契約解除したところ、リビア政府はISD条項で訴えられ、損害賠償として90年間運営したと仮定し、期待できた利益(約1,000億円)の支払いを命じられた
 ②日本で考えられる危険性 地方自治体が固定資産税を引き上げると、関節収容として外資企業から訴えられる
 ③仲裁判断とは ・原則、ニューヨークの世銀の仲裁センターで行われる ・仲裁人は企業代理人弁護士から3名を選任 ・NAFTAでも米国だけは負けたことがないと言われている ・日本政府は「濫用防止」を盛り込んだと説明するが、濫訴かどうかも仲裁人が判断

【「そうだったのか!TPP24のギモン」(編集・発行:分析チーム 頒価100円  「日本の進路」編集部でも扱っています】

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